2011年10月09日

スタート圏論、スタート幾何、コンセプタン、スタート表現論

ここのところ週末にいろいろな勉強会に参加。


スタート圏論の第一回は大変な盛況。

Steve Awodey, Category Theoryをテキストに、圏論を基本的なところからやる。具体的な圏の例をいくつも挙げていく本なので、イメージが湧きやすくて良いと思う。

様々な圏が圏の定義を満たすことを示しただけだが、テンポよく進み、三時間では短く感じるくらいだった。


スタート幾何は第二回から参加。

松本幸夫「多様体の基礎」を読み進めている。まだCr級多様体の話。

数学好きが集まっていて、大変雰囲気の良い会だった。

発表者もよく準備してきているので、適度な具合でつっこみが入り、受け答えがあって、冗長すぎず速すぎず、バランスが良かった。


コンセプタンは何度目の参加だろうか……。

Lawvere and Schanuel, Conceptual Mathematicsがテキスト。世界でもっとも分かりやすい圏論の入門書、だと思う。

ようやく普遍性がまとめて論じられるようになり、これから面白くなるという印象。今回もoto_oto_otoさんによる注釈、特に随伴で自由と忘却が結び付く話が面白かった。


スタート表現論は二回目の参加。

谷崎俊之「リー代数と量子論」をmaophiliaさんが解説してくれる。

一回目は参加者が二十人以上いたが、今回は半分になっていた。

表現論といっても有限次元リー代数もそこそこに、アフィンリー代数までを含むように一般化したカッツ・ムーディー・リー代数とやらを扱う難易度の高い会なので、減ったのだと思う。

講師のmaophiliaさんはむしろ今回の方が楽しそう。内容はかなり難しくなった。

前回はsl2(C)の既約表現から始まって、たしかに表現論入門だったのだが、今回はカッツ・ムーディ・リー代数における最高ウェイト表現やら指標公式やら。しかしこういう形に表現論が展開していくというのを知るのは面白い。

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2011年09月29日

トラウマ本を語る会

ラーニングコモンズの皆さんが企画してくれて、「こんな本を読んでしまいました ~僕にトラウマを与えた本たち~」というブックトークイベントが行われた。

これまでに読んだ本の中で、トラウマになるほど強い印象を受けたものを紹介していく。

トラウマ本と言っても気持ち悪いとかそういうのではなく、深く考えさせたり、人間不信に陥らせるような本。

僕はそういう本が好きなのだ。

予定はしていなかったのだけど、後半は参加者の皆さんがそれぞれ自分にとってのトラウマ本を語ってくれて、とても面白い会になった。

気に入っている本が重なっていることも多く、趣味の合う人が多いというのを知ったのは収穫だった。

ラーニングコモンズのサイトでの報告文

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2011年09月12日

数学学習報告会@理科大数研

ここのところ東京理科大の数学研究部で開催されている数学学習報告会に参加している。

部員が夏休みの間に自主的に学んだ数学の様々なテーマについて発表するというもので、とても面白い。

一日あたりテーマが二つほどで、長いものは3時間以上の発表。全体で一週間以上に渡って行われている。代数、幾何、圏論、確率統計などジャンルは様々。インタラクティブな議論が楽しい。

理科大の数研は部活動として100年以上の歴史があるらしい。

部室には長い歴史を物語る過去の部誌が山積みにされていた。

一番古いのは1920年に発行されたもの。

現在、部員は30名ほどで、活動がとても盛り上がっている様子。

この盛況の立役者である前部長の川井さんに誘ってもらい、今回の報告会に参加した。

9月19日には川井さんが企画した「アルキビアデスの乱入 ~ 博学と雑学の境界」というライトニングトーク大会でも喋ることになった。

いろいろ変わった人が集まりそうである。

発表したい方、単に聞きたいという方、ぜひお越しいただけましたら。

アルキビアデスの乱入 参加申し込み(ATND)

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2011年08月30日

富士総合火力演習

自衛隊の富士総合火力演習に行ってきた。

戦車やヘリや機関銃が派手に射撃訓練を行うということで、一度参加してみたかったのだが、入場券の当選確率が非常に低く、昔応募してはずれて以来、あきらめていたのである。

ところが今年、柴田さんが知り合いの間で応募を呼びかけてくれて、何人か当選したため、皆で参加することができた。ひとり一枚しか応募できないが、一枚のチケットで四人まで参加できるのだ。

そういうわけで週末、富士山麓の演習場に赴き、非日常的な戦場の雰囲気を味わってきた。

会場には自衛隊の限定グッズを扱う屋台が並び、さながらお祭り。「戦車まんじゅう」に「自衛隊オリジナルTシャツ」。そしてB級グルメ「富士宮焼きそば」の屋台がやたらある。

演習の冒頭を飾ったのは国産戦闘機F-2の低空飛行。

F-2は三菱重工と防衛省がアメリカの圧力に妨害されながらも開発を行った戦闘機であり、国産旅客機として注目を集めるMRJ(三菱リージョナルジェット)の技術的土台にもなっているらしい。

戦車や自走榴弾砲による砲撃が続く。

榴弾の爆発で富士山の形を描くというお茶目な演習もあるが、これができるには相当な精度が必要とされる。

ヘリによる演習は華やか。吊り下げられたロープに何人もでぶら下がり、そのまま運ばれていったり。

しかし空中から機関銃を連射し、標的を蜂の巣にしているのを見ると、陸自の最強の兵器のひとつであることが分かる。

次々に登場する兵器を紹介する会場アナウンスはこれが軍事演習であることを忘れさせるほど朗らかなのだが、「対人狙撃銃です!」「地雷散布です!」などと明るく解説されるのはなかなか感慨深かった。

世の中にこんな兵器を相手に戦っている人がいるというのはちょっと信じられない。

個人的に一番印象に残った演習のひとつは、狙撃兵が数百メートル離れた場所に置かれた実物大の車の絵の窓を打ち抜くというもの。

狙撃するのはひとり。

全会場の注視を一身に集めながら、見事一発で仕留めていた。

あんな人に狙われたらたまらない。周囲では誰もが「ゴルゴ……」とつぶやいていた。

今回の集まりを企画してくれた柴田さんは最近、自衛隊の曹長まで昇進したということで、軍事に対する意識は並々ならぬものがある。

一緒に参加した皆さんも多彩かつ個性的でとても面白かった。

おみやげに自衛隊の駐屯地で売られているという栄養ドリンク「元気バッチリ2」を一箱買ってきた。

一本130円ということで、一般的な栄養ドリンクより安い。

自衛隊の皆さんはこれを飲んで日夜がんばっているらしい。

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2011年03月10日

ノンパラメトリックベイズの勉強会合宿

昨年11月から毎週1回程度行われているノンパラメトリックベイズ勉強会がおおいに盛り上がり、ついに合宿が開催された。

「先端的機械学習セミナー」という名前までつけて、愛知県の知多半島まで行って二泊三日、ひたすら輪講と論文紹介を行うという会である。

12名の参加があり、皆さんのモチベーションが非常に高く、本当に三日間会議室に缶詰状態で勉強した。

ガウス過程やノンパラメトリックベイズに関する輪講や論文紹介を朝から晩まで行う。

僕は測度論について5時間ほどレクチャーして、大変楽しかった。

かんぽの宿は海沿いに立っており、まわりに何の店もなく、夏の間は海水浴客で賑わうという海岸では海苔がひたすら干されていて、ある意味ストイックな環境であったのも良かったかもしれない。

魚を中心とした料理も大変おいしく、温泉まであり、親睦も深められてとても良かった。

モチベーションの高い人間が集まればこういう会も開催できるということは非常に良い経験にもなった。

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2010年11月13日

Scienthroughで講演

Scienthroughにお呼ばれして講演してきた。

これは阪大で活動しているサークルで、学部生や院生を中心に主にアカデミックなイベントを企画している。

皆で研究内容を紹介し合う合同研究会「合ケン」、カフェで科学について語る「サイエンスカフェ」、書評のうまさを競う「ビブリオバトル」、その他いろいろ。

僕の講演はアカデミックでも何でもないのだが、メンバーの榎本さんが数年前に僕のサイトを見て面白いと思ってくれていたらしく、一度お話聞かせて欲しいということで呼んでいただいた。

Scienthroughのメンバーは代表をしている飯島さんしか知らなかったのだが、他の皆さんもそれぞれ魅力的な人たちで素晴らしかった。箱男まで作って持ってきてくれていた。

様々な活動成果を紹介するとりとめもない内容だったが、会場から出た質問から察するに皆さんの興味もばらばらだったようで、問題なかったのではないかと思う。

「これからやってみたい企画とかありますか」と聞かれたので構想を挙げたら、協力してくれそうな人たちが何人か現れてくれた。念願の企画のいくつかが実現するかもしれない。

講演会ページ

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2010年07月20日

Rの勉強会

ナノメディシン融合教育ユニットで一緒だった統計解析環境Rの大家、樋口さんにお誘いいただき、大阪は十三で行われたRの勉強会に参加した。

僕自身はRをあまり使っていないのだが、研究室の皆さんがよく使っているため、サーベイを兼ねて出席。院生の井坪くんも参加してくれた。

「twitterにRのグラフを投稿する方法」「RのGUIを作る」「CytoscapeとRの連携」など、ひじょうにマニアックな内容であったが、面白かった。

一種のオープンソースコミュニティの会合なのだが、単にアプリを開発するだけでなく、最終的な目標が統計解析であるため、少し独特な顔ぶれである。

樋口さんもそうだが、製薬会社の研究者で創薬に機械学習を使おうとしている方が多かった。

朝9時に始まり、昼過ぎに終了。そこから電車で服部まで移動し、うどん屋の二階で懇親飲み会が開かれた。

いろいろお話した中で面白かったのは、バイオインフォマティクスやケモインフォマティクスの研究者はウェブ業界における機械学習の利用を常にウォッチしているという話。

新しく提案された手法がすぐに利用されるのは当たり前だと思っていたが、実は他の業界ではそうでもないようである。

ウェブ上のサービスは収入に直結するものが多く、関わっている研究者も多いため、新しい手法が提案されたらすぐに使う人が現れる。一方、創薬への機械学習の応用ではそもそも研究者の数が少ないため、なかなかすべての手法を追いかけられないのだそうだ。

分野として人口が大きいのはいいことだ。

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2010年07月12日

神戸でトークライブします。

神戸でトークライブすることになりました。

I'ma トークライブ Vol.5
「とにかくやってみる!「やってみよう研究所」の研究発表会」
http://www.wonderful-o.com/ima/event/event2010.html#yattemiyou

こんな私がゲストであります。

神戸近郊にお住まいで手塚が喋るのを聞いてみたいという方いらっしゃいましたら、ぜひお越しいただけましたら。

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2010年07月03日

町家で物理

カラスマ大学授業「わくわくする物理~つくって学ぶ 音と楽器の仕組み」が町家を改装した喫茶店モコモコカフェで行われました。

わくわくする物理 ~ 作って学ぶ 音と楽器の仕組み ~

参加者の定員20名でしたが50名ほど応募があり、物理を学びたいと思う人が一般にもこんなにたくさんいるというのは素晴らしいことです。

アットホームな雰囲気の中、手作り楽器を制作し、音の仕組みを学びました。

カラスマ大学サイトでの報告

モコモコカフェのサイトでの報告

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2010年06月22日

抽象カフェ、はじめます。

抽象カフェというイベントを行うはこびとなりました。

もともとは知り合いの小関悠がブログで「抽象的な話だけをする飲み会を開きたい」と言っていたのがきっかけです。

普段の日常生活の雑念から離れ、ひたすら抽象的な議論をしようという会です。

第一回のテーマは「脳をどのように理解するか?」。

脳科学を研究している知り合いに話題提供してもらい、その後で自由に議論します。

何が分かれば脳を理解できたことになるのか、といった話など。

抽象的な話にご興味をお持ちの方いらっしゃいましたら、こちらよりご参加希望のご連絡いただけましたら。

抽象カフェ
http://abst-cafe.net

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2010年06月19日

谷口先生「コミュニケーションするロボットは創れるか」出版記念パーティーの様子

日曜日、谷口忠大先生の「コミュニケーションするロボットは創れるか」出版記念パーティーが行われました。

出町柳のイタリアンレストランにて、正午から二時間ほど……のはずが、参加者間の交流が予想以上に盛り上がってしまい、三時間くらいやってました。柔軟に対応してくださったお店の方に感謝!

挨拶の後、まずは出版された本の紹介から。谷口先生が提唱している「ビブリオバトル」のスタイルにて行いました。

各人が3分という時間制限の中で本の魅力を紹介します。本の紹介のうまさを競うのが本来のビブリオバトルですが、今回はそれは無しで。僕も語らせていただきました。

その後、谷口先生による「この本ができるまで」ミニトーク。いかにして出版されることになったのかという話、面白かったです。

全参加者による自己紹介の後、名刺交換会風の交流会。これがかなり盛り上がっていました。皆さん個性的なので……。

研究者、IT業界人、学生、その他幅広い分野の方々が集まって、関西在住のちょっと変わった知識人の皆さんの会合という感じでした。

僕や他の方々が本の紹介をしている動画など、以下の谷口先生自身による報告にアップされています。

谷口先生による報告

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2010年06月06日

カラスマ大学 6月の授業は物理実験です。

京都カラスマ大学6月授業は物理実験です。

簡単な楽器を作ったりいじったりして物理について学びます。

わくわくする物理 ~ 作って学ぶ 音と楽器の仕組み ~

講師をしていただくのはサイエンスニュースでお世話になった飯田洋治先生、知的人材ネットワークあいんしゅたいんでお世話になっている前直弘さん。

会場はモコモコカフェ、友人たちが経営している雰囲気の良い喫茶店です。

京都カラスマ大学の理念は「学びを通したコミュニティづくり」

学ぶことが好きな仲間との出会いを通して世界を広げていきます!

参加者はやはり変わった人が多い! 素晴らしい!

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2010年05月25日

谷口先生の「コミュニケーションするロボットは創れるか」出版記念パーティーを行います。

同僚の谷口忠大先生が出版した「コミュニケーションするロボットは創れるか ~ 記号創発システムへの構成論的アプローチ」の出版記念パーティーを行うことになりました!

人間とコミュニケーションするようなロボットは作れるのか、そもそもコミュニケーションとは何か、記号とは何か、記号の学習とは何か、といった深い問題について議論されている本であります。しかもNTT出版の叢書コムニスという結構有名なシリーズからの出版であります。

パーティーではロボットと人間の未来について、記号創発システムの可能性について、知能の発達プロセスの定式化について、語り合いたいと思います!

いや、もちろん適当に雑談していただいても結構ですが……。

会場は京都の鴨川デルタに面したレストランカフェ・アルソーレのテラスを貸し切りです。

谷口先生の知り合いでなくても、こういったテーマについて話を聞きたい、議論したいという方でしたらお気軽にご参加ください。

日時: 6月13日(日) 12時~14時
会費: 2,000円 (あるいは4,000円で書籍付き(事前予約必要))
定員: 30名
場所: イタリアンバール・アルソーレ (京都・今出川河原町東入北側)

定員30名ですのでぜひお早めにお申し込みいただけましたら!

参加申し込みフォーム

谷口先生自身によるご案内

ご質問などございましたら手塚()までお問い合わせください!

※ 5月31日現在、参加申込者20名です。お申し込みはぜひお早めに!

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2010年03月16日

教育が忙しくて研究できないと思っている人、研究が忙しくて教育できないと思っている人はぜひ「研究推進と人材育成のポジティブな関係を考えるフォーラム」へ

諸々の形でご縁のあるいきいき研究室増産プロジェクトが3月23日にイベントを行うのですが、これはかなり面白いものになるのではないかと思います。

主催しているいきいき研は全国三万(推定)の研究室を目覚めさせ、いきいきした研究活動が行われるようにすることを目的とした団体ですが、今回のイベントは現在までの活動成果を踏まえ、全国から関心を持った教員/学生/研究者が集まる大フォーラムです。

特に山形大学から副学長の小山清人先生をお招きしてお話を聞かせていただくのですが、とても面白いお話が聞けそうです。山形大では「助教だけの研究室」「学生が研究資金を運用」などなど数々の実験的な試みで大変注目を集めていますが、小山先生はそれらの立役者とのことです。

また、いきいき研の宮野さんのトークは大変面白いはずなので、これも聞く価値ありです。

3月23日は研究と教育の両立について熱く語り合い、気持ち新たに新年度を迎えましょう!

研究推進と人材育成のポジティブな関係を考えるフォーラム

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2010年02月06日

カラスのクラス

カラスには二つの階級があるらしい。

なわばりと家族を持ち、繁殖することのできる個体と、群で暮らして繁殖には加わらない個体。家持ちカラスと家無しカラスと呼んでもいいだろう。

山でも都会でも状況は同じで、どの街角がどのカラスのなわばりであるかがはっきり決まっている。

およそカラスのいる所、500メートル四方程度の大きさを持ったなわばりに分割されているのである。

若い間は皆、群で暮らしているのだが、三年ほどで成熟すると、力と自信のある家無しカラスはなわばりを取るために動く。

好運にも持ち主のいない区画があればそれを使わせてもらうが、もし空いた場所がなければ力の弱いカラスから奪う。

カラスはつがいを作る生き物なので、力の強い夫婦が弱い夫婦を追い出すのである。

追い出された夫婦は家無しカラスの群に逆戻り。巣を持てなくなるので、群で暮らしている間は繁殖することはできない。

自分のなわばりで自由に餌を集めることができないので、誰かのなわばりで隙を見て餌を漁ることになる。

大勢のカラスが残飯に群がっていたりしたら、それは誰かのなわばりにお邪魔している家無しカラスの群である。

巣を持たない彼らは夜は集団で眠る。京都であれば花見小路四条上ルの西側の電線にたくさんのカラスが夜留まっているのが分かるが、彼らが家無しカラスである。冬の間は群の規模が大きくなり、百羽くらいいるのではないかと思われる。

それでは家無しカラスは寒空の下で凍える不幸な生き物かというと、必ずしもそうではなさそうである。

カラスほど知的な生き物であれば、たとえ家無しであってもそれなりに人生の楽しみを見つけているのではなかろうか。

この話は高槻でカラスの研究を二十年以上続けておられる中村純夫先生からお聞きしたのだが、家持ちカラスはどちらかというと行動が保守的で、毎日なわばりの見回りを欠かさず、子供のための餌集めに余念がない。

だから自分のなわばりの中の物事はものすごく良く知っている。たとえば誰かのテーブルに置かれた食器がいつもと違った角度を向いていたら、それに気づくのだそうである。

まさに仕事のことしか頭に無い勤勉カラス。

一方の家無しカラスは気ままにふらふら、好奇心の趣くまま好きな所に行ける自由な生活を送っている。

カラスは雪の斜面を滑り降りたり線路に石を置いたり、多彩な遊びを行うことで知られているが、これは群で暮らしている若い個体に多い行動だという。

南の島には道具を使って虫を捕るという猿も顔負けの行動をするカラスがいることが知られているが、そういった行動が生まれる背景には多彩な試行を楽しむ遊び心があるのではないか、というのが中村先生の説である。

家無しカラスは繁殖はしないが、技術や文化を生み出すのである。

さらに面白いことに、冬になって繁殖が行われない時期になると、家持ちカラスがわざわざ家無しカラスたちのねぐらまでやってきて、泊まっていくことがあるそうだ。

そんなカラスたちに関する授業を今度、京都カラスマ大学で行っていただくことになった。

京都カラス大学 ~ 家持ちカラスと家無しカラス、知的な鳥の多様なライフスタイル

ご興味をお持ちの方、お越しいただけましたら。

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2009年11月29日

コラボトーク 第一回開かれる

ある日、谷口さんが車で大学に来ていて、帰りに小林先生を送っていくことにした。

駐車場を出ようとしていると、偶然谷田先生が近くを通りがかり、「乗せてってくれ」と頼まれたので、そのまま駅まで乗せていった。

谷田先生は自律神経による臓器の調節を調べる実験家、小林先生は神経のスパイク予測の理論家ということで、そのフィットの車内でおおいに盛り上がり、お互いの研究について紹介しあう会を開こうということになった。

もともと谷口さんがそういう会を定期的に開きたいと思っていたこともあって、金曜の夜、学内の教員や院生などに呼びかけて、研究交流イベントの第一回が行われた。

あわよくば研究者同士のコラボレーションに繋げようという意味で、コラボトークという名前である。

研究室の一角で行われたのだが、二十人近い参加者があり、狭いスペースを満席にする賑わいだった。皆、隣の研究室で何をしているのか知りたいと思っていたのであった。

発表者は谷田先生と小林先生だけだが、次から次へと質問が出て、二時間半ほどのイベントになった。その後、駅前の飲み屋に移動し、十二時過ぎまで飲んだが、これもとても楽しい飲み会だった。

話してみれば意外にいろいろな人と共通の興味があるのが面白かった。

そして酒の席であるにも関わらずメモを取っているのは僕だけではなかった。

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2009年11月15日

一日で100本以上の論文のサマリーを紹介しあうVLDB2009勉強会

VLDBという有名な国際会議の論文をみんなで分担して読み、丸一日かけて紹介しあうというイベントがあった。2009年度の論文を紹介するのでVLDB2009勉強会

関西で30人強、関東で10人強の参加者があり、二会場を遠隔会議システムで結んで開催された。

100本以上の論文を一日で紹介するのである。

一本につき3分。資料作成にかかる時間と発表の時間を比較すると悲しくなるが、必然的に密度の高い発表にはなる。皆、研究のハイライトを紹介しようとするので、聞く時の効率は良い。

自分の研究とは全然関係ない論文も多いが、それでも今データベース分野でどんな研究が行われているかの概略を掴むのは面白かった。

大規模な輪講のようなものだが、一日でやってしまうという所が独特で、新しいジャンルのイベントだと思う。

これは他の分野で行っても面白いのではないかと思った。データベースコミュニティのように人の繋がりが濃い分野だからできる企画という気もするが。

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2009年10月18日

京都カラスマ大学一周年記念パーティーで占いの歴史を学ぶ

京都カラスマ大学の一周年記念パーティーが洛北の岩倉実相院で行われた。

天台門跡寺院の風格ある大広間でカラスマ大の一年間の活動を振り返り、参加者の皆さんに今後も変わらぬご協力をお願いする。

特別授業は占星術師の鏡リュウジ先生にご講演いただき、後半は夜のお庭で立食パーティー。

実にさまざまな人が集まっていて、知らない人同士でも盛んに会話が交わされ、良い交流の場になっていたと思う。

鏡先生による講演のテーマは、「学びと占いはなぜ無くならないか」。

僕はもちろん占星術など信じないのだが、それでも得るものは多かった。

ひとつの収穫は占星術にまつわるもろもろの蘊蓄である。

古代バビロニアに生まれた占星術がアレクサンダー大王の帝国を通してインドにもたらされ、仏典の一部として中国に伝わっていたという話などは面白い。「西洋占星術」と一般には言うけれど、古代世界を広く覆っていた文化なのだそうだ。

岩倉実相院には幕末に清からもたらされた星図屏風というのが残っていて、これには中国の伝統的な二十八宿ではなく、牡羊座や牡牛座などが描かれている。

講演はこの屏風を背後に置いて行われた。

なかなか心憎い演出だった。

スタッフをしていたため途中は聞けなかったのだが、小説を読み進める際の背景知識としても役に立つというお話もされていたらしい。

欧米の小説を読むのに聖書やギリシャ神話の知識が重要なのはもちろんのことだが、それに加えて占星術の知識もあれば、理解できずにつまづくということが少なくなるだろう。

占星術は人類文明の底流をなす思想体系の一部であり、その歴史は驚くほど古く、影響範囲は恐ろしいほど広い。

各時代の宗教勢力から異端視されて弾圧されたこともあったが、時にはそれらの思想と融合しつつ、姿形を変えて生き残ってきた。

占いはなぜ無くならないか、という問いに対する鏡先生の答えはダーウィンの言葉であった。

「生き残るのは強いものでも賢いものでもない。環境に応じて自らを変えていくものである」

占星術はそれぞれの地域に適応し、自らを柔軟に変えていくことでいつまでも残ってきたのだそうだ。

同様に歴史の荒波に翻弄されつつ、それでも様々な文化を自らの中に取り込み、都市を発展させてきた京都人のたくましさをこれになぞらえ、いろいろなものを吸収していきましょうというメッセージをこめて、講演をまとめられていた。だから学びはいつまでも無くならないのだ。

さて、この講演に対するもうひとつの収穫は、占星術ではなくトーク術についてである。

鏡先生は喋り方が神がかり的にうまかった。

テレビから引っ張りだこなのも頷ける。

いわゆる「雄弁」というのとはまた違った方向性を持った「話のうまさ」である。

大仰な演説調ではなく、優しく説得するような話し方。

自分が大学で行っている講義でもああいう喋り方をしようと心に決めた。

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2009年10月11日

カラスマ大学一周年を盛大に祝います。

今から一年前、京都に「学びを通したコミュニティづくり」を広めていくべく開校した京都カラスマ大学の一周年記念パーティーが10月17日(土)に行われます。

この一年間で行われた授業は50回近く、登録生徒数は1,500人。

しかしまだまだ盛り上げていきます。

これまでに関わってくださった皆さん、これから関わりたいかもと思ってくださっている皆さん、ちょっと気になった皆さん、ぜひご参加くださいのパーティーです。

会場は洛北の岩倉実相院。これは僕が京都でもっとも好きなお寺のひとつでもあります。

特別授業でご講演いただくのは鏡リュウジ先生

マスメディアにも頻繁に登場されている有名な先生ですが、単に占いをされるだけでなく、占星術に関する歴史・文化・心理学を幅広くカバーされている大変アカデミックな研究者でもあります。

京都カラスマ大学開校1周年特別授業「“学び”と“占い”は何故なくならないのか」

授業の参加者は年齢も職業もばらばらですが、共通しているのはひとつ、好奇心旺盛であることです。

カラスマ大で学びの仲間を作り、あくなき知的探求を進めていきましょう!

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2009年09月09日

京都カラスマ大、9月授業の募集が始まりました。テーマは「豆腐」と「京都」!

京都カラスマ大9月授業の募集が始まりました。9月26日(土)に二つの授業が行われます。

まずは全国のスーパーでおなじみ「男前豆腐」

その本社を訪れ、大豆ぎっしり、濃厚芳醇なあの男前豆腐を皆で実際に作ってみます。

創業者である伊藤信吾社長にご講演いただき、直々に作り方を伝授していただきます。参加者で豆腐の未来を語り、良いアイデアが出れば商品になるかもしれません。

そういえば最近、アメリカでMBAを取った起業家たちが目指すのはITよりもむしろ「食」に関するベンチャーだそうです。

日本における「食」ベンチャーとして輝く「男前豆腐」。純和風ベンチャーの星、「男前豆腐」。その誕生の経緯についても語ってくださるとのこと。これは関西圏にお住まいのアントレプレナーの皆さんは参加するしかないですね。

そしてもうひとつの授業は「ミソジの京都~おとなの女は、なぜ京都に恋するのか~」

京都が誇る情報誌「Leaf」をはじめとして、あらゆる媒体に京都記事を書き続けて13年、京都をこよなく愛すライターの高橋マキさんによるエッセイガイド「ミソジの京都-知る・買う・食べる・暮らす-」の刊行を記念した授業です。

マキさんはカラスマ大の授業コーディネータでもあります。京都の各所で行われる体験型授業、あるいは会場として使わせていただいている数々の店舗。その多くはマキさんの紹介によるものです。カラスマ大の活動は彼女の圧倒的な人脈に支えられているといっても過言ではありません。

京都の隠れた魅力、奥深く美しい文化、あるいは本に書けなかった裏話。「乙女以上、白洲正子未満。京都は30代からが楽しい」というテーマで語り尽くします。

京都にご興味をお持ちの30代±30才前後の皆様にお勧めです。

というわけで、男も女も大満足な週末になりそうですね。

京都カラスマ大学

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2009年09月02日

吉田山できのこを探しました。(京都カラスマ大学授業)

京都カラスマ大の夏休み授業「吉田山でキノコを探そう~菌類から考える生態系」が8月に行われました。

講師の東さんは農学研究科で森林生態学の研究をしている知り合いです。僕自身が東さんの話を聞きたいということで企画したのですが、その選択は間違っていなかった!と思いました。

普段とても物静かな人なので、一人で喋っていただくより対談形式がいいのかなと思っていたのですが、その必要はまったくありませんでした。

きのこの話になると、喋る喋る。

生態系におけるきのこの役割、そして東さんが格別な興味を持たれている冬虫夏草に関して、数十枚のスライドで1時間近く喋ってくださいました。ユーモアも交えつつ、非常に魅力的な講演でした。

その後、山に上がりました。天候にも恵まれ、大勢でのハイキングという感じ。

毎年一定数の冬虫夏草が生える「坪」と呼ばれる場所まで歩き、冬虫夏草を首尾良く発見。吉田山にもしっかり生えてます。

行き帰りの道でも散策路沿いに生えている木や枯れ木を題材に、菌類が生態系の中で果たしている役割について詳しく説明していただきました。

フィールドワークは楽しいです。実物の力というか、おそらく本を読んだだけでは感じられないであろう面白さがありました。

授業終了後の反省会にて、スタッフの酒井くんが「僕、菌類についてはほとんど知らなかったんで、驚くことばかりでポカーンって聞いてました。発表されるのうまいっすよね」と言うと、「いや、僕、発表はあまりうまくないって言われるんですよ」と謙遜されてました。

スタッフの原さんがカラスマ大のサイトにレポートと写真をアップしてくれました。

吉田山でキノコを探そう ~ 菌類から考える生態系 レポートと写真

京都カラスマ大のテーマは「学びを通したコミュニティづくり」です。

今後も毎月いろいろな内容の授業を行っていきます。もうじき一周年を迎えますが、現在の登録学生数は1,500人!

入学料/授業料は不要で、誰でも学生になることができますので、ぜひご参加いただけましたら。もちろん、京都在住でなくても大丈夫です。

京都カラスマ大学 学生登録

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2009年08月28日

不老不死ツアー

人類の長い間の夢であった不老不死。

その実現に向けて研究を進めている研究者が和歌山県田辺市にいる。

夏場は関西圏からの海水浴客で賑わう白浜のビーチから北に目をやれば、細く伸びた半島の付け根に薄青色の大きな建物がある。それが京都大学フィールド科学教育研究センターの瀬戸臨海実験所だ。

ここで日夜実験に取り組む久保田信准教授は直径1cmに満たない小型のクラゲである「ベニクラゲ」の世界的権威である。

その「ベニクラゲ」に不老不死の秘密、若返りの秘法が隠されているというのだ。

今回、NPO法人KGCによって運営される研究者インタビュー動画データベース「Researcher Zukan」の取材チームは夏休み特別ツアー企画として、久保田先生の訪問とインタビュー収録を行った。

Researcher Zukanを取りまとめている可知くんの呼びかけに応じ、関西各地、さらには東京からもスタッフが加わり、多彩な顔ぶれの参加者が集まった。

瀬戸臨海実験所では海洋性の無脊椎動物の研究が盛んに行われている。クラゲを専門に扱われる久保田先生の他、珊瑚や貝、甲殻類など、様々な専門家が集まっている。

小さな半島を横断する形の敷地を持ち、両側が海だ。北は岩場、南は砂浜であり、生息している海洋生物は多岐に渡る。

8月の下旬、海からの風が心地よい午後、取材班が実験所を訪れると、久保田先生が穏和な笑顔で迎えてくれた。

「まずは水族館を見られますか」とインタビューもそこそこに、敷地内でひときわ大きな建物に案内された。

これは併設の水族館であり、一般にも公開されている。入館料500円を払えば自由に見学することができ、大学が運営する公開の水族館としては数少ないものの一つらしい。

「ここにいる魚はすべて近くの海で取れたものばかりです。お金が無いんで他から取り寄せられないんでね。でもその方が意味があると思います」と久保田先生。

こんな奇妙な生き物たちが目の前の海の中を泳いでいたと考えると、奇妙な興奮感を覚える。

バックヤードまで見せてもらった。普段は見られない水族館の裏側である。

「採光に工夫していてね。天窓を開けて、この鏡で光を反射させて。水槽が特に明るいのも特徴です」

展示用水槽に入りきらない生き物は別室で飼育している。

「一週間出張していたんで、餌をやれなくてね」

そう言ってカワハギの「モンちゃん」に餌をあげられる久保田先生。

「そんなに長い間餌をやらなくても大丈夫なんですか?」

「魚は案外長い間空腹に耐えられるんです」

水槽から飛び出さんばかりに跳ね回る姿は一見、久保田先生になついているようにも見える。愛情が通い合っているようにさえ思えた。

今はクラゲを専門に研究されているが、基本的に海洋生物すべてが好きなのだろう。

水族館を出て、敷地内に点在する施設をいくつか見せていただいた。宿泊施設や実験棟、海洋関係の団体の事務所など。

建物の間の細い道は草に覆われている。緑の勢いが強い。夏だ。

実験所の応接室に移り、いよいよベニクラゲに関する説明を受ける。参加者はクラゲに関しては素人なので、基礎からレクチャーである。

我々がクラゲと呼んでいるものはある生物の一生における一段階の形態である。蝉に成虫と幼虫があり、幼虫の期間の方が圧倒的に長いように、クラゲになる前の段階のポリプというものがあり、こちらの期間の方が実は長い。

しかし蝉の成虫と幼虫はどちらも「昆虫っぽい」形をしているのと比べ、クラゲとポリプはまったく違った形をしている。ポリプはクラゲのように海中を動き回ることはなく、地面に根を広げ、花のような触手が並び、植物を思わせるような形態をしている。

そして個体の一生はポリプ→クラゲという一方向である。

雄のクラゲが持つ精子と雌のクラゲが持つ卵子の受精によってプラヌラと呼ばれる幼生が生まれ、それが海底に付着して新しいポリプになる。そのポリプからクラゲが分離し、波間を漂うことになる。

「ポリプ→クラゲ」という流れの不可逆性はクラゲ研究者の間では常識であった。人間で言えば「子供→大人」というような絶対に逆転させることのできない流れである。

ところがこの常識を覆したのがベニクラゲである。

ベニクラゲの成体に強い刺激を与えると、水底に沈んで動かなくなる。そして次第に溶解していき、久保田先生が「肉団子」と呼んでいる状態になる。普通のクラゲであればそのまま溶け去ってしまうのだが、ベニクラゲの場合、そこから2日ほどで走根と呼ばれる根が伸張し、新しいポリプが生まれてくるのである。

これはつまり「大人→子供」という変化である。いったん分化した細胞が脱分化しているのである。幹細胞がどこかに隠れていた訳ではなく、実際に細胞レベルで脱分化が生じていることまでは確かめられているらしい。

もしもこの「若返り」がいくらでも続けられるのであれば、ベニクラゲは生殖細胞を介することなく、永遠に生き続けられるということになる。このような生物は動物界では他に見つかっていない。いや、正確に言えば、もう一種類、ベニクラゲから系統的に離れているヤワラクラゲで見つかっているだけである。

そもそも動物の細胞には受精卵から数えた時、分裂できる回数に上限がある。DNAの末端にテロメアというカウンターがあり、分裂可能な回数を制御していると言われている。また、DNAは時間の経過と共に傷ついていくため、何らかの修復の仕組みがなければ、若返りを繰り返すことには諸々のリスクが伴う。

ベニクラゲがどのようにこの問題を乗り越えているかに関してはまだほとんど研究が行われていない。

久保田先生はあくまで個体レベルで研究に取り組まれているので、細胞内の現象の解明にはまた別の技術が必要である。そこで今、分子生物学を得意とする研究者とのコラボレーションを求められている。Researcher Zukanが今回取材を行ったのも、そのような結びつけが可能になればという願いからである。

現在のところ、久保田先生はひとつのベニクラゲを3回若返りさせることに成功されている。つまりクラゲ→ポリプ→クラゲ→ポリプ→クラゲ→ポリプ、である。他の研究機関では2回までしかできていないということで、これは世界記録である。

久保田先生が飼育されているベニクラゲを材料に、若返りがどのような形で行われているのか、明らかにしてくれる研究者が現れてくれないものだろうかと思う。

すぐに不老不死の人間が作られることはないだろうが、自分の細胞を若返らせることができれば、拒絶反応の生じない臓器を育てられるかもしれない。近年、幹細胞の類似物を作る研究が盛んに行われているが、自然界で長期間に渡って存在している脱分化の仕組みから得られる知見は多いのではないか。

ベニクラゲについてある程度の基礎知識が身についたところで、今回の訪問の目的であるインタビューの収録を始める。

水族館の水槽の前で撮影するか、あるいは浜辺で撮るのが良いのか迷った末、前半と後半に分けて二箇所で収録することにした。

インタビュアーは吉田さん。浜辺に立つと、いつになくさわやかな印象だ。

ResearcherZukanは全世界に向けて研究者の情報を発信することを目的にしているため、インタビューはすべて英語である。青い海をバックに、二人の日本人が英語でベニクラゲについて語る。この浜辺の一シーンが世界に繋がっているのだ。

参加者からいくつか質問があった。かなりマニアックな質問も出たが、久保田先生は落ち着いた態度で答えられていた。

収録は無事に終わった。

遠隔地での撮影につきものの機材トラブルもなく、一回の撮影で綺麗な絵が撮れたので良かった。

西に傾いた日が柔らかな光を投げかけ、穏やかな印象を与えるインタビューになったのではないかと思う。

「夕飯の前に温泉に行きましょうか」と久保田先生が提案する。

近所に「牟礼の湯」という有名な温泉があるらしい。有馬、道後と並ぶ日本最古の温泉のひとつだそうだ。

車に分乗し、海辺を走り、白浜の市街地に入る手前で停車する。

知らなかったら通り過ぎてしまいそうなくらい小さな建物だ。まるで銭湯。

しかしあたりには強い硫黄の匂いが漂う。

皆で湯船につかって雑談する。風呂の中でまで研究者の話を聞けるとは、何という盛りだくさんなインタビュー企画だろう。

「ここは本当に良く効くんですよ」

久保田先生は毎日のように通っている時期もあったらしい。

我々もベニクラゲで満載だった一日の疲れを癒した。

夕食は久保田先生のお薦め、「とれとれ亭」の魚介類バイキングに向かう。新鮮な魚介類をお土産に買える「とれとれセンター」に併設するレストランである。

席について、また久保田先生を質問攻めにする。

不老不死の秘密を求めて白浜まで来てしまうほど好奇心旺盛なメンバーが揃っているため、ベニクラゲと人類の未来に関して熱い議論が交わされた。

動物の細胞がいきなり若返るという現象は大変興味深いものだが、分子レベルで何が起きているのかについてはまだまったく手がつけられていないのが現状らしい。

ではなぜ今まで研究が進んでいなかったかというと、ベニクラゲの飼育が大変困難だったからである。

一般的にクラゲ類の飼育は難しい。水族館でクラゲを見ることが少ないのはそのためである。特にベニクラゲのポリプへの若返りには技術が必要とされ、実際に行える研究者が少ない。

久保田先生がかつて共同研究を行われていたイタリアのグループと、瀬戸臨海実験所のグループが活発に研究を進めているものの、他のグループはなかなか追いつけていない。

ある生物学的な現象についての研究を進める上で、特定の生き物を飼育する技術が鍵になることがたまにある。

たとえば神経細胞の発火パターンについて研究を進めるためには太い軸索が必要だった。太い軸索を持つ生物として知られていたのはイカだったため、のちに脳の研究者として有名になった松本元先生は若い頃、イカを飼育する方法ばかり研究していたそうだ。それがうまく行ったために神経活動に関する膨大なデータが得られるようになり、研究を大きく躍進させた。

まず飼育方法が確立されなければ、分析が進められないということである。つまりベニクラゲの研究は今からようやく本格化できるところなのだ。

瀬戸臨海実験所にはその技術がある。久保田先生が確立させた

クラゲからポリプが再生するまでに3日かかるのだが、今では子供たちが泊まり込みの体験実習に参加した際、自分たちの手でクラゲの若返りを実現させることもできるらしい。我々も時間があればそれに参加したかった。

「でも、他の所ではまだできていないんです。イタリアのグループも2回まで。3回の若返りに成功しているのはここだけなんですよ」

ひょっとして他のグループはクラゲに対する愛情が足りないのではないか。

カワハギのモンちゃんに餌をやる久保田先生の姿を思い出しながら、僕は考えた。

あるいは環境が重要なのかもしれない。ヤリイカの場合は、円筒状の水槽で水流を作ること、また、排泄物中に含まれるアンモニアが良くないということで、アンモニアを代謝する微生物をフィルタに住み着かせることで飼育に成功されたという。

「ベニクラゲの飼育にはどんな水を使っているんですか?」

「水族館が併設されているから、汲み上げた海水を流し続けてますね」

そのような条件の違いが実は影響しているのかも、と思ったりした。

しかしたとえ他の場所でうまく飼育できなかったとしても、モチベーションの高い分子生物学者が瀬戸臨海実験所に住み込んで共同研究すれば、いろいろ新しい成果が出てきたりするのではないかと思った。

海辺の街のレストランの海鮮料理は実に多彩で、食事はおおいに盛り上がり、いろいろなアイデアや計画が出た。

ひそかに驚いたことのひとつが、何度もバイキングのテーブルに足を運ぶ久保田先生の健啖ぶりである。みなぎるばかりのバイタリティはやはり豊かな食生活から、といったところだろうか。

夕食後、ほとんどのメンバーは帰ってしまったが、僕と西さんと栗原くんが残り、泊まらせてもらうことになった。実験所は各地の大学の学生が研修を行うための施設でもあるため、泊まれる部屋がたくさんあるのだ。

三人で久保田先生の車に乗り、とれとれ亭を出た。

だが実は夜はまだ長かった。

(続きは後日、この下に書きます)

久保田先生のページ benikurage.com

久保田先生の研究ページ

Researcher Zukan

Posted by taro at 22:36 | Comments (0)

2009年08月03日

すべてのきのこ好き、京都カラスマ大に集まれ!

尊敬するきのこ研究者である東勇太さんに京都カラスマ大学で授業していただくことになりました。

講演タイトルは、
「吉田山でキノコを探そう ~ 菌類から考える生態系~」

吉田山荘の真古館という洒落たティーサロンでレクチャーの後、実際に吉田山に上がり、きのこ観察をします。

生態系における菌類の重要性やその独特なライフサイクルについて、当日の司会である私、手塚がいろいろ聞いていきたいと思います。

詳細/参加申し込みはこちらから

参加申し込みを行うには以下のページから学生登録が必要です。授業料/入学料等はありません。

京都カラスマ大学 学生登録

Posted by taro at 19:21 | Comments (0)

2009年07月12日

未踏の報告会が東京で行われます。

未踏の報告会が7月24日(金)に東京の秋葉原で行われます。

2008年度下期「未踏IT人材発掘・育成事業」
畑PM・勝屋PM合同成果発表会

日時 : 2009年7月24日(金) 10:00~18:00
会場 : 住友不動産ベルサール秋葉原2F

http://mitou-hata.com/index.html

僕は10:15から11:00まで、音声認識を用いた会話ログ検索エンジンについて喋ります。

もしご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたらぜひお越し下さい。

Posted by taro at 00:12 | Comments (0)

2009年06月14日

大阪でバーのマスターを修行する

Daisuke Suzuki Designの鈴木さんが「野食バー」なるものを開きたいと言っていて、その実現に向けて大阪のバーで講習を受けてきた。

野食計画は食を通して自然を学び、イノベーションを生み出す創造的活動であり、鈴木さんはその理念を広めたがっている。それでバーを通して広めるのである。

自然の中で食べるからこそ野食ではないのか?という疑問はこの際、考えないことにしておく。

大阪の扇町にシングルズというバーがあり、何人ものマスターが持ち回りでお店を開いている。毎日違う人がマスターをするのであるが、それぞれテーマが決められており、いわば「コンセプトバー」の集合体になっている。

たとえば自宅で放置されている作りかけのプラモデルを持ち寄って作る「積みプラ消化バー」、自作のミステリで謎解きを競い合う「推理合戦バー」、モンゴルの伝統的発声法ホーミーを皆で唸りまくる「ホーミストの集い」などなど、日替わりで行われている。

鈴木さんは野食バーをそのひとつとして加えたいと考えているのだ。新しいバーを始めるためには説教バーというものを受講しなくてはならないのだが、今回これを受けてきたのである。

説教バーの講師である梅山さんはお酒はほとんど飲めないそうだが、マスター経験が長いだけあって話がうまい。シングルズは十五人も入ったらいっぱいになってしまうカウンターだけのお店である。僕や鈴木さんの他、バーを始めたいと考えている皆さんが並んで座る。

「お二人はどういうお知り合いなんですか」と梅山さんが聞くので、「KGCというNPO法人があって……」と僕が最初から説明しようとしたら、鈴木さんがそれをさえぎって、「野食計画という団体の知り合いです」と名乗っていた。こんな場所でも宣伝したいらしい。

すると梅山さんが「ああ、野食計画ですか」と言ったので僕は結構びびった。いつのまにそんなに有名になったんだ。

築港ARCのラジオ番組に出られていましたよね」

大阪の築港にアーティスト関係の情報を流すインターネットラジオ局があって、野食計画が昨年それに出演していたのだが、聞いたことがあったらしい。大阪のアート系の人たちの間では有名になっているようだ。

梅山さんはバーの運営のあれこれについてユーモアを交えて教えてくれた。カクテルの作り方から大雨波浪注意報が出た時の対応まで、二時間程度であったがとても充実した内容だった。多くの人に関わってもらえるようマニュアルがしっかり整備されていて、ハード的なことはとても分かりやすかった。あとはソフトであるが、これは経験を積むしかないだろう。

「大阪でバーのマスターをしていた」というのは妙にコミュニケーション能力が高そうな印象を与えるかと思うので、経験値を上げていきたい。

シングルズバーは共同運営かつそれぞれのマスターのテーマはばらばらという独特の形態でありながら、もう十年も続いているということで、この仕組み自体が興味深い。各人が自分の趣味を発揮し、交流の場を設けるコンセプトバー。変なバーがいろいろできると都会の夜はもっと楽しくなるのではないか。

Posted by taro at 12:37 | Comments (4)

2009年06月07日

シュールストレミングとホンオフェを食べる会

ひらたさんに誘われ、シュールストレミングとホンオフェを食べる会に参加した。

日曜の昼、賀茂川の河原に集まり、臭い食べ物の東西の横綱である「シュールストレミング」と「ホンオフェ」、ならびに世界各地の発酵食品を食し、地ビール、地酒を飲む。強烈な匂いが漂っていることを除けば、賑やかな屋外バーベキューのようである。

直前まで知らなかったのだが、mixiの「もやしもん」のコミュニティで企画されたイベントだった。僕は発酵食品好きとか言いつつもやしもんを読んだことないのだが、ひらたさんが「これ漫画のコミュニティなのに誰も漫画の話をしないのがすごい」と言っていたように、あくまでシュールストレミングとホンオフェに主眼が置かれた集まりであった。

シュールストレミングはスウェーデンで食べられているニシンの塩漬けであり、発酵によって生じた硫化水素によって猛烈に臭い。開封前の缶詰がぱんぱんに膨らんでいることでも有名である。賀茂川の河原で十個近くの缶詰が開封されたが、その匂いは風下数十メートルに渡って漂っていた。

ホンオフェは韓国の一部で食べられているエイの刺身。サメやエイなどの軟骨魚類は体内に尿素を蓄積させる性質があり、刺身を数日置いておくとアンモニアに分解して猛烈に臭い。臭いというより、アンモニアの刺激臭そのものである。これは食い物なのかという感じである。

だが今回の発見として、シュールストレミングもホンオフェも単独で食べると大変苦痛だが、他の食品と一緒ならば美味であるということが分かった。特にヤンニョンジャンを付けたホンオフェは非常にうまい。

参加者が各自お勧めの酒を持ち寄ったこともあり、なかなか盛り上がった集まりだった。

マスクで完全防備の参加者も。

あまりの臭さに警官から注意を受ける。

Posted by taro at 22:27 | Comments (4)

2008年12月06日

同姓同名トークライブに参加

非常識からイノベーションを切り開く研究者支援系NPO、KGC理事長の柴田さんが「同姓同名トークライブ」を開催したので参加してきた。

自分の同姓同名と対談するという企画である。対談の相手は海上自衛隊の偉い人。案内のメールにはこんな風に書かれていた。

------------------------
登壇者:
   柴田有三(海上自衛隊一佐 徳島地方協力本部長)
    ×
   柴田有三(KGC理事長)
------------------------

本当に同姓同名同士の対談だ。

僕は仕事の都合で遅れて参加したため、お二人のお名前に対する思いや同姓同名を通して感じる絆について聞くことは出来なかったが、交流会として皆で鍋を囲んでいるのに加わることができた。変わった会だけあって、参加者も変わった人が多かった。各参加者が自分の同姓同名について調べて報告していたはずなのだが、それも聞けなかったのは残念だ。

柴田一佐はアメリカの中央軍作戦司令部の会議に日本代表として参加したり、尖閣諸島付近の海上警備を担当したりといった超重要っぽい任務を負っている人というのを聞いていたため、叩き上げの軍人さん風の人物を勝手に想像していたのだが、実際は大変フレンドリーな方だった。

今は一佐をされているので、もうひとつ階級が上がれば海将補。軍隊でいうところの将軍だ。柴田将軍。昔なら近づくことすらできない。そんな人がとても気さくに酒を飲み交わしてくださる。研究者や冒険家や社会起業家といったKGC柴田さんの非常識な知人たちと一緒に。

しかし自衛隊もある意味、世界の中では特殊な存在だ。非常識である。そして今日の非常識は明日の常識。実はそんな自衛隊こそが軍隊の進化した姿なのかもしれない。

世界中の軍隊が自衛隊になればよいのにと少し思った。

Posted by taro at 12:18 | Comments (0)

2008年09月30日

ディジタル逆さメガネとその仲間たち

大学院生のための就職サイトアカリクさんのフリーペーパーでコラムを書かせていただきました。

アカリク版 やってみよう研究所「ディジタル逆さメガネとその仲間たち」(PDF)

紙面に収まりきらなかった内容もあるので、以下はその増補版です。


逆さメガネという装置がある。普通のメガネをひとまわり大きくした形をしているのだが、レンズの代わりにプリズムが入っていて、視野の上下あるいは左右が反転するように作られている。つまり、逆さメガネで見る風景はこんな感じだ。


逆さメガネから見える風景(イメージ)

これは上下反転逆さメガネから見た風景だが、左右反転メガネの場合は左右が逆になる。逆さメガネについて興味深いのは、このメガネを数週間にわたって装着した場合、脳が視野の反転状態に適応してしまい、メガネを外した時に世界が逆転して見える、という現象だ。そのため心理学の実験でよく使われるらしい。

問題はメガネにプリズムを入れているため、サイズがかなり大きく、重くなってしまうことだ。数週間以上かけ続ける人もいるらしいが、肩が凝って大変らしい。僕も一度試したことがあるが、たしかに前方に向けて飛び出した形状はごつく、転んだりしたら大変そうだった。

そこでディジタル化である。

近年の電子機器の小型化はめざましく、USBカメラやヘッドマウントディスプレイの解像度も年々上がっている。逆さメガネもそろそろディジタル化を迎える時期なのではないか。さらに言えば、電子的なシステムを間に挟むことで、従来の逆さメガネでは実現できなかった様々な機能が可能になることであろう。

今回、USBカメラ、ポータブルPC、そしてヘッドマウントディスプレイを組み合わせ、ディジタル逆さメガネとその仲間たちを作ってみた。使用したUSBカメラはLogitech製。200万画素でオートフォーカス機能もついているため、映像は鮮明だ。メガネはDaeyangのヘッドマウントディスプレイi-Visor。非常に軽量である。そして両者をつなぐポータブルPCとして、Sony Type-U。動画処理にはMicrosoftのマルチメディア処理用API、DirectShowを利用した。

欲しいと思った機能の多くが最初からDirectShowのサンプルに組み込まれていたが、若干の実装も行った。一番手間が掛かったのが時間の逆さメガネである。数秒分のムービーを保存し、常に逆回しで流すという機能。いわば巻き戻しメガネ。時間が逆向きに流れる世界はどのように見えるのか。見慣れた風景を逆回しで見ることによって、何か発見があるのではないか。空間と来たら次は時間である。時間軸上での逆さメガネを実現してみたい。

実験はよく晴れた日の午後に行った。

まず、ヘッドマウントディスプレイを装着する。アナログ式の逆さメガネと比べて大変軽い。メガネの隙間から外界が見えると視界反転の効果が半減してしまうため、頭から段ボールをかぶる。ヘッドマウントディスプレイをポータブルPCに接続し、そこからさらにUSBカメラにつなぐ。カメラは段ボールの外側に固定する。ポータブルPCはショルダーバッグに入れて持ち運ぶようにする。これで完成。


解像度はさすがにアナログ式逆さメガネより劣るが、それでも本の文字が読めるくらいの鮮明な映像が見える。日常生活には困らないレベル。画素に若干の荒さがあるため、デジタル世界の住人になった気分だ。

研究室にいた学生の和雅仁多くんと芭斗くん、螺夢貴先生を誘って、被験者になってもらった。

左右反転メガネを掛けてもらう。一見、それほど変化が起きるようにも思えないのだが、実はこれが一番インパクトが大きい。長期間掛けて生活する場合、日常生活にもっとも支障をきたすのはこのメガネであると思われる。アナログ式の左右反転メガネを最初に試した時、僕は立っていることができなかった。おそらく人間は無意識のうちに体のバランスを取っているのだが、左右反転メガネを掛けた場合、体が右に傾いて左に戻そうと体を動かしたら、さらに右に傾いてしまうため、バランスを失ってへたりこんでしまうのだ。

幸か不幸か、ディジタル左右反転メガネではそれほどひどいことは起きなかった。現実そのものというよりディスプレイを見ているという認識があるためか、脳が騙されないのかもしれない。それでもそれなりの効果はあるようで、まっすぐ歩こうとしても、なぜか曲がってしまう。体が横に引っ張られているような感覚。意識的にまっすぐ歩こうとする力と、目に映る光景から直進方向を判断する無意識の力が拮抗しているといったらいいだろうか。いかに自分の動作が無意識の制御に支配されているかが感じられて、興味深い。

実際、被験者の皆さんもかなり混乱している。まず、ドアがあけられない。まっすぐ歩けない。壁に向かって進んでいく。なかなかの効果だ。

「これつけてジェットコースター乗ったら怖いかもしれない」と和雅仁多くんが言う。体の感じる移動方向と目に移る移動方向が違ってくるわけで、かなり酔いそうだ。


続いて上下反転メガネの実験に移る。

こちらは見た目の変化は大きいが、実は左右反転メガネよりも慣れやすい。被験者の皆さんからも、こちらの方が歩きやすいという意見が出る。和雅仁多くんは上下反転メガネを掛けたまま研究室を出て、おぼつかない足取りで廊下を歩いていく。階段の所まで行って、爪先で位置を確認しながら降りていこうとするので、思わず止めた。あまりにも危険である。メガネを外した状態で一階まで降りて、ぞろぞろと校舎の外に出た。

外は明るい。室内にいる時より、メガネに映し出される映像も鮮やかになった。上下反転メガネを掛けた状態で、足の下に広がる空を見る。広い。

玄関付近で実験を行っていると、和雅仁多くんと芭斗くんの知り合いの学生が通りがかった。段ボールをかぶって校舎のまわりをうろうろしている我々の姿はかなり異様に見えたことだろう。だが、逆さメガネの説明をすると、すぐに実験に参加してくれた。なかなかノリが良い。「おお」と素直に驚きの声を上げてくれる。いい人だ。しばらく試してもらって、感想を聞いてみる。

「ゲームに慣れてる人は、慣れやすいかもしれないですね」
「というと?」
「航空機とか、操縦桿引いたら上昇するじゃないですか。操作と移動方向が逆向きになってるゲームって結構あるんですよ。ボンバーマンには罰ゲームというモードがあって。操作ボタンの左右がいきなり入れ替わるんです」

いろいろ教えてくれた。ゲームの世界はだいぶ進んでいるようだ。


形の反転と来れば、次は色の反転だ。色反転メガネの実験を続けて行う。カメラから入力された画像の色相を変える。顔が真っ青になる。比喩ではなく、原色の青だ。かなり気持ち悪い。逆さメガネの長期間着用によって空間反転に慣れるということは、色の反転にも慣れることはあるのだろうか。肌色=青、という風に感じるようになるのだろうか。その時、その人にとって「青」とは何になるのか。また、メガネを外した時、青はどう見えるのか。

自分に見えている青色は他人が見ている青色とは違う色なのではないか、というのは誰もが子供時代に感じる不安だと思うが、このメガネを長期間かければ、その不安は解消されるはずだ。「決まった色などというものは無い」と思えるに違いない。

あいにく今回の実験では数分間の着用だったため、ただ気持ち悪いだけで終わった。

色相や彩度の調整によってセピア色メガネにもなる。一日中、懐かしい感じを味わえる。

ここで趣向を変えて、三人称視点メガネの実験を行う。反転ではなく、視点の変更である。自分を三人称で見つめようという趣旨である。自己を客観視できるようになれば、人格の向上が期待できそうだ。これはすでに「THE THIRD EYE PROJECT」という名前で実験を行っているアーチストの人がいて、よく知られている。

東急ハンズで購入してきた長いプラスチックポールの先にカメラを取り付ける。見た目はそれっぽくなった。



だが、今回の実験ではポールの長さが短すぎたようだ。装着した螺夢貴先生、困ったように言う。

「もうちょっと全身が見えるようにしないと、意味がないかもなぁ」
「背中が見えるだけですか?」
「いや、後頭部が見えるだけ」
「まじっすか」

僕も試してみたが、後頭部、つまり段ボールの固まりが目の前に現れ、視界のほとんどを覆ってしまう。もっと広角のカメラを見つけてくるか、今より長いポールを手に入れて、カメラの位置をさらに後ろに持っていく必要がありそうだ。


三人称視点メガネを45度上側に傾けると、ドラクエ視点メガネになる。上から見下ろす視点で自分を見ることができる。だが、ここでもポールの短さ、カメラの視野の狭さが問題となった。自分の頭、そしてその周辺1メートル四方の地面しか映らない。カメラがあと1メートル、いや2メートルくらい高い位置にあれば……。これもさらに長いポールを買ってきて、試してみなくてはならない。

ドラクエ視点メガネさらに45度前方に傾けると、二人称視点メガネになる。相手の視点から自分を見る。二人称の視点ということでやってみたが……。鏡を見るのとたいして変わらなかった。

続いて、カメラのズームイン機能を使って、視野の中心を大きく拡大する望遠メガネを試す。着用した和雅仁多くん、さっそく驚きの声を上げる。

「うわ、杭が近っ!」

芝生の仕切りの杭から数メートルも離れているというのに、おそるおそる手を伸ばしている。


「目の前くらいに見えるねんけど」

動作が面白い。芭斗くんも着用する。目の前に校舎の壁が見えるのか、中腰になって、手を伸ばしながら、慎重に前に向かって歩いていく。ようやく壁までたどり着いて、安堵の溜息をもらす。

「歩いても歩いてもつかへん。この距離が果てしない……」
「すぐ前に見えるのにね」
「そう。近いように見えるのに、すっごい距離があるんですよ。ダイエットにいいかもしれない」
「近いと思って歩いたら、かなり遠い。だからたくさん歩いてしまうってこと?」
「そうです」

意外な活用方法だ。案外使えるかもしれない。

「自分の家が広く見えたりしませんかね」
「いや、狭くみえるでしょ」
「狭く見えるけど実は広い。得した気分になれるかもしれない」

僕も装着してみた。視野が自分の数十メートル先を進んでいくわけで、まるで魂が肉体の前方を歩いている感じだ。少し歩くと、校内の道が若干傾斜している所まで来た。普段はあまり意識しないほど緩やかな斜面なのだが、望遠メガネを掛けた状態ではすごく急に見える。奥行き方向の距離が縮まり、急峻に感じられるのだ。和雅仁多くんにメガネを渡して、実際に同じように見えるか確認してもらう。

「めっちゃ急やな。落ちそう」

若干オーバーに言う。数歩歩いて、ふと気づいたように言う。

「かなり速く歩いているように感じられる」

不思議な現象だ。視野が狭いために速く動いて感じられるのではないかと言う。このメガネを掛けた状態で車を運転したら、相当速く感じられるのだろうか。

いろいろな発見もあり、望遠メガネ、なかなか好評であった。

最後に時間の逆さメガネの実験を行った。ムービーを撮影し、逆回しで再生する。録画時間は3秒に設定。録画している間、その直前に録画した映像を逆回しで流す。これで時間が逆向きに流れて見えるだろうか? 

着用してみたが、非常に残念なことに、このメガネはほとんど効果が出なかった。どうやら我々の身の回りで起きる出来事のほとんどは時間的に対称のようなのだ。たとえば鼻をこすってみても、手を上げ下げしてみても、飛び跳ねてみても、すべて時間的に対称になっている。つまり映像だけから時間の向きを当てることができない。物を落とした時か、歩いている人を見る時くらいしか違いが出ないのである。

ミクロ的にはほとんどの現象が可逆なのだ。表情も可逆、身振りも可逆。マクロ的に我々が感じる時間の不可逆性は、記憶の蓄積によって作られるものという気がしてきた。

だが、まったく違いが無いというわけでもない。大学構内をうろうろしてみる。

「うわ、びっくりしたぁ」という声が聞こえた後、横を人が通り過ぎていく。後ろ向き歩きで。人とのインタラクションがあるとそれなりに面白い。自分の動きも異様に感じられる。後ろ向き歩きの連鎖。どこに向かって歩いていくのか。

和雅仁多くんにも時間逆さメガネをつけて歩いてもらったが、すぐには何が起きているか理解できないものらしい。

「いったい何が起きているんだ……」などと言っていたが、しばらくしてから、あ、なるほど、などとつぶやく。

「歩いていると何が何だか分からないな……」
「止まってる時は分かる?」
「はい。動いた時点から少しラグがあるから、現在の自分の状況が分からないですよね。やっぱり飛び飛びというのが辛い」
「巻き戻しと早送りが交互に繰り返されるようにして、全体として連続にしたら?」螺夢貴先生が提案する。
「波みたいに、ですか?」

これはやってみないと分からない。すごく酔いそうな予感はするが……。

「もっと細かい逆戻しを連ねるとか。0.1秒間ずつとか」
「気づかないでしょ」
「絶妙な設定にしたら、なめらかに時間逆転しているように錯覚しないかな」
「片目は順方向、もう片方の目で逆方向とか」
「余計わけわかんない」
「移動しているものだけ逆向きにさせるとか?」
「それだと移動しているもの以外は時間逆向きにならないですよね。それに、自分が動いた時はどうするか」
「フェードアウトで繋げていくのはどうだろう」

実際、1オクターブずつずらした音をいくつも重ねて、それらすべてを連続的に高くしていくと、音がどこまでも高くなっていくように聞こえるという錯覚があり、「三色ねじり棒(床屋の看板)現象」と呼ばれているらしい。できればそういう錯覚を作り出したいのだが、映像ではさすがに無理か。時間感覚に関する錯覚を見つけられたらと思っていたのだが、このままでは難しそうだ。

いろいろアイデアは出たが、決定打はない。いっそ時間反転実験を現実世界で行うのはあきらめてしまって、時間逆向き映像をCGで作成して、VRの世界で体験させるとか。そんな環境で子供を育てたらどうなるか。CGの世界から現実の世界に出てきた時、どういう風に世界を感じるようになるのだろうか。時間が逆向きに流れて感じられるのだろうか。

今回の実験で一番期待していたのが時間の逆さメガネだったのだが、実際にやってみると、一番効果が無かった。やはり何事もやってみなければ分からないものだ。

何かうまい方法はないものか。アイデア募集中である。

ここで第一回実験は終了。

夜になってふたたび、いくつかの実験を行った。共同研究室に遅くまで残っていた他胡与先生と陀羅把先生に参加してもらう。

まずは背の高い人視点メガネ。ドラクエ視点の位置にカメラを置いて、前方に向ける。これによって、とても背の高い人の視点から見下ろした形になる。身長3メートルくらいか。これはなかなか爽快だ。まるで天井を歩いているように感じられる。


他胡与先生は物静かな先生なので、こんな企画に乗ってくれるか心配だったが、案外楽しんでいる様子だった。

「これはあんまり酔わないんだな」と他胡与先生。
「酔わないとは?」
「安っぽい3Dのゲームとかだと、3次元の計算がいい加減だったりして。長時間集中してプレーしていると、酔ったりするんだよね。これは現実そのものだから、酔わない」

脳は案外賢く、微妙なズレに違和感を感じるというわけか。

蟻視点メガネの実験も行う。これは背の高い人視点メガネの逆であり、カメラを足の先につけることで、ものすごく低い視点からの見え方を実験する。これが予想外に面白かった。ラジコンに乗って操縦している気分だ。歩きながら、「うん、こっちの方が情報多いな」と他胡与先生。背の高い人視点メガネでは、天井くらいしか見えないのだ。

「足の先に目玉があると、かなり感覚違うなぁ」
「我々はそういう風に進化してきませんでしたからね。たぶん、不便でしょう」

90度回転メガネも実験。視野が横に倒れるため、横メガネと呼ぶこともできよう。これは上下反転メガネ以上にまっすぐ歩くことが困難。このメガネを掛けたまま、一地点に立ってくるりと回転してみるのが面白い。視界が縦方向にぐるりと一周する。通常はありえない動きである。

さらに、カメラを頭の後ろ側に設置して、後ろ向きメガネを試す。自分の背後が見える状態になる。前が見えないので何もできないかと思ったら、「後ろ向きに歩いたら」と他胡与先生が提案する。

試してみると、たしかに歩ける。方向をいちいち考えて進まなくてはならないため、立ち止まって考えてしまう。頭の体操になる感じだ。

他胡与先生にも試してもらう。手を後ろに回してドアをあけ、部屋を出て廊下を歩く。「えーっと、あ、そうか」などとつぶやきながら、何度も立ち止まって確認している。

「そうやって考えちゃいますよね」

頭の体操なのである。このメガネも長期間着用したら慣れて、高速で後ろ向き歩きできる人になれるのだろうか。

「左右反転させた方がいいかもしれないな」と他胡与先生が言うので、左右反転機能を起動させた。

「これだと右にあるものが右に見えるから……。うん、この方がわかりやすい」

本当だろうか。僕も試してみたが、どっちもどっちという気がした。頭の中で得意とする変換の種類が違うのかもしれない。

「いろんなメガネを作ってみたんですけど、他に何か面白いアイデアないですかね?」と聞いてみる。

「二人の視野をネットワークでつないで、交換させるという実験は見たことがある。ポストペットを開発した人が行ったプロジェクトで」
「それ、かなり面白いですね」

ヘッドマウントディスプレイが二台必要だが、ぜひやってみたい。

他胡与先生は最終バスに乗って帰ってしまったので、陀羅把先生に逆さメガネを試してもらう。


かなり面白がりつつ、「エンターテイメント用途とかに使えないですかね」とか言う。
「使い道なんて別にいいじゃないですか。面白ければ」と僕。
「でも、何か考えたくないですか」

さすが研究者。

「蟻視点メガネで草むらを歩いたら、普通に楽しめますよ」
「理科教育にも使えそうですね。いろんな生き物の視点になるとか、面白いかもしれない」
「そう、鳥や草食動物は目が横についているじゃないですか。あれは周囲の危険を察知できるように、360度視野になってるんですよ。だから360度視野めがねも作ってみたいんです。人間がそういう視野を持ったらどうなるか」

広角のメガネがないため、まだ実装できていない。魚眼レンズや全方位カメラを使うか、複数のカメラからの入力をマージさせるソフトと組み合わせたらいけるのかもしれない。

望遠メガネも試してもらった。

「どうですか」
「台所が……近い。給湯器くらいしか見えないんですけど」

望遠メガネを掛けた状態で向き合って会話というのを試してみる。まずは僕が掛ける。4倍までズームインできるため、拡大されすぎて鼻しか見えない……といった状態を期待していたのだが、あいにくそこまで大きくならない。それでも画面いっぱいに陀羅把先生の顔が広がる。目と鼻の先にいるような見え方。陀羅把先生は女性なので、こんなに接近してしまうと結構どきどきする。

今度は彼女に試してもらう。

「どうです? 近くに見えません?」
「近すぎて額くらいしか見えないです」

望遠メガネ、実に奥が深い。

第二回実験はここまで。

翌日の第三回実験では、蟻視点メガネを屋外で着用してみることにした。靴の先にカメラを付けたまま、草むらの中を歩いて、昆虫を探すのである。知具爾汰先生が実験に参加してくれた。

校舎の外に出て、蟻視点メガネを装着してもらう。


レンガ敷きの道を少し歩いて、つぶやく。

「身体イメージは変わらないんですね。足の先に目玉がついた、という感覚」

モーションキャプチャを利用した身体動作の記号化を研究している知具爾汰先生らしきことを言う。

「微妙にレイテンシーがあるのが気になるな」

メガネをつけた片足を地面にすりつけながら歩く。足を上げると、視野がぐらぐらに揺れて何がなんだか分からなくなってしまうようなのだ。

僕も装着してみた。視点の位置が低いので、何もかも大きく見える。そして大学構内の端にあるグラウンドがものすごく遠い。これから昆虫探しに行く草むらはさらにその先にあるのだ。

だが、一歩でかなりの距離を進める。ローラーブレードで疾走したら爽快かもしれない。ちょっとした段差がものすごく高い壁として聳えるが、足を上げれば難なく乗り越えられるのも愉快だ。

「これはまさしく昆虫視点ですよ」と僕が言うと、
「ユクスキュルですね」と知具爾汰先生。
「何ですかそれ」
「いろんな生物から見た世界について研究した人ですよ。昆虫にとって世界がどう見えているか、とか」
「なるほど。生物の視点で世界について考えるわけですか」


ようやく到達したグラウンドは火星の平原のように荒涼として広大だった。それを無事に横断し、草むらに入る。雑草がものすごく高く、松ぼっくりが巨大だ。その間を昆虫が我が物顔に蠢いている。


ディジタル逆さメガネとその仲間たち。目に見える光景が逆さになったりズームされたりするだけなのだが、やってみると案外面白いのであった。

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2008年03月17日

パラドックス研究会

「パラドックス研究会」という集まりを開いた。

古今東西のパラドックスに関して、あーだこーだと議論する会である。

三浦俊彦という人が書いた「論理パラドクス」という本があって、有名なパラドクスについてそれぞれ2ページずつくらい説明しているのだが、単に紹介するだけでなく、筆者流の答えが挙げられていて、しかもその答えに時々違和感を感じたりするので、議論の材料としてとても面白い。この本をテキストにしてお喋りする。

「ニワトリと卵、どちらが先か」といった日常的なものから、論理学で有名なラッセルのパラドックスやリシャールのパラドックス、僕が大好きな(このブログにもよく書いている)フェルミのパラドックスなど、多種多様な99のパラドックスが並べられている。

ひとりで読んでもふんふんで終わってしまうので、皆で議論すると面白いだろうと思った次第。

順番に出題者になって、他の参加者に回答を求める。ヒントを出したり答えを評価したりしながら進めていくのはテーブルトークRPGのような感じでもあった。

最初、かなり寒い会になるのではないかと不安だったのだが、おおいに盛り上がり非常に面白かったので、またやりたいと思う。

同じ著者による「論理サバイバル」という本もあって、こちらもパラドクス集だが僕はまだ読んでいないので、次回はそれも使うかも知れない。

こういう議論にご興味をお持ちの方いらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただけましたら。(メアドは tez@sings.jp)

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2007年12月23日

昆虫食の会 報告

11月18日、大阪の淀川の河川敷で昆虫食の会を行いました。

一緒に企画したアウトドア生活の達人、西さんは普段、淀川で獲れた魚や貝を調理して食べるのが趣味という人で、都会の野生生物に関してものすごくくわしい。その西さんが計画の当初、「寒すぎてもうバッタいないんじゃないか」といくらか不安げでした。

しかしわざわざ前日に事前調査を行ってくださって、「結構いる」とのお墨付きをもらって実施。「寒かったら出てこないかも知れないけど、暖かい時はたくさん跳ねてます」とのこと。

当日はそれほどたくさん声を掛けた訳でもないのに、ネットやメーリングリストを見たということで続々と希望者が集まり、最終的な参加者は20名でした。

ああ、みんな実は昆虫を食べたいと思ってるんだな、と感銘を受けました。

駅前から川原までぞろぞろ歩きます。

このあたりは河口から近く、悠々と流れる淀川の河川敷は広々としていて、とても眺めがよい。海水も入ってくる汽水域で、様々な魚が獲れるようです。対岸には大阪の高層ビル群が見えます。こんな都会で昆虫を採集して食べるなんて。ミスマッチが素敵です。

西さんのお知り合いの先生方の協力で、コンロや水場など、調理に必要な施設もあります。土手から長い列を作って降りてきた我々を見て、「よく集まったなー」と苦笑する西さん。はたしてこれだけの空腹を満たすだけのバッタが獲れるのか?

昆虫好きが多く集まりましたが、今回の企画のメインゲストと僕が勝手に思っていたのはオオクワガタ研究家の平山先生。マンションの一室で数千匹のクワガタを育て、デパートに売って裕福な生活をされている方です。

その他、大学院で昆虫を研究している女の子、素粒子物理の先生、来年新聞社に就職する学生さんたち、大学の研究と実社会を結びつけることを目的としたNPOKGCのメンバー、公務員、会社員の方々など、個性的な面々が集まりました。

さっそく採集の開始です。

用意しておいた虫取り網が足りないので、二人一組になって収集に向かってもらいました。


その前に、クワガタ博士の平山先生に採集のコツを聞いてみます。

「湿った場所にいるんです。生物には水が必要ですから。一匹いる所にはたくさんいる。一箇所に集まっていることが多いです」

「群れを作るということですか?」

「いえ、環境がいい所に集まってくるという意味です。ひなたぼっこも好きなので、日の当たるところにもいます。そういうバッタの方が取りやすい。茂みの中にいるバッタは人が近づいても逃げないので見つけにくいけれど、畦道でひなたぼっこしているバッタは茂みの中に逃げようとして飛び上がるので、簡単に捕まえられます」

なるほど。食糧難の時代に役立ちそうな豆知識です。

大勢でススキの生い茂った茂みに入って虫取り網を振っていると、河川敷を散歩していた外人カップルが立ち止まりました。


じっと見る外人カップル。


わざわざ覗き込む外人カップル。


ノリが良くて素晴らしいですね。昆虫食について、少し世界的に広められた気がしました。

その他、Yリナ嬢とA子嬢は虫取り網を振り回している時、小学生くらいの男の子の一団に声を掛けられたそうです。

「バッタ捕まえて何すんの?」と聞かれ、
「食べる」と答えると、
「お腹壊すで」

かなり引いていたようです。

しかしなかなか理解のある子供たちだったようで、自分たちが獲ったバッタを彼女たちに提供し、かわりに彼女たちは彼らにカマキリをあげたとか。

昆虫採集と並行して、調理場で料理の準備を始めていた西さん、次々に持ち込まれるバッタやイナゴに「みんなたくさん取ってきてびっくりしますわー」。

参加者それぞれのビニール袋の中に次々と入れられていくバッタ。



途中から虫取り班と調理支援班に分かれ、バッタ炒めやバッタ天ぷらを作るための準備を始めます。

虫取り班はさらに黙々と虫取り。

最初から最後までバッタ獲りを続けていたまり嬢の姿には感銘を受けました。まるで虫取り職人です。

しかし僕も実際に試してみると、案外はまります。

跳ねて逃げられるとくやしく、逃がすものかと追いかけてしまいます。

僕が修得した一番うまい捕り方は、飛び跳ねる前のバッタに上から網をかぶせ、網の下から手を差し入れて獲ること……。当たり前ですね。でも、これだとかなり効率よく獲っていくことができます。

「はまりますよねー」と聞いてみると、皆一様に「はまりますよ!」と答える。

人類は何百万年も昔からこうして虫を捕って食べてきたのかも知れない。その遺伝子が騒ぐのでしょうか。


そして実際にバッタを捕まえようとしてみると、いかに跳躍というのが有効な逃走手段であるかが分かります。網無しでは見事逃げられてしまう。

その話を平山先生にすると、

「草のない公園で昔、バッタがどれくらい逃げられるのかを試してみたことがあるんですよ。捕まえずに追いかける。そしたら次第に一回で飛ぶ距離が短くなって、数十メートルで動けなくなるんです。触っても、動かない。持久力が無いんですよ。しばらく休ませると、また飛べるようになるんですけどね」

まるでファーブル昆虫記です。

やがてバッタの調理が開始されました。


炒めてやると、面白いくらい真っ赤になります。形を見なければ、エビそっくりです。



そもそもバッタの外殻というのはエビの殻と同じ物質なのではないでしょうか。

一口食べて、誰もが一様に「エビだー」「エビー」。本当に、エビとしか言いようのない味でした。

天ぷらなども作ってみました。


これはかなり美味。バッタの風味や殻の堅さが活かされている気がします。

さっきまで生きて逃げ回っていた大量のバッタを食料にしてしまうということ、人間はたくさんの命を奪って生きているということを実感します。

今回の企画のアドバイザーをしていただいている「昆虫料理研究会」の総裁、内山先生のお話によると、「抱卵したカマキリはクリーミーで絶品」とのこと。

卵付きのカマキリは一匹しか獲ることができなかったため、食べることができたのは学生のK村くんのみでした。

「どんな味?」
「おー、何とも形容しがたい味」
「クリーミィ?」
「ええ、クリーミィです」

カマキリ卵食に成功したK村くんを取り囲み、ヒーローインタビューのようになっていました。

まさこ嬢は卵のないカマキリを食べて、「出汁みたいな味する」と言っていました。

遅れてやってきた野食計画の鈴木さんは盛り上がっている光景を見て、「虫パーじゃないっすか」。

虫パーティー。

さらに、西さん秘蔵のアシナガバチの巣も食べます。これも河原で採集してきたようです。


うなぎも焼きました。淀川産。国産天然のウナギなんて、滅多に食べられる代物ではありません。ありがたくいただきました。


いろいろ食材はあったのですが、それでも参加者がこれだけいると、どうにも足りない。

昆虫だけでは人類の空腹を満たすことができない!

近くの業務スーパーに行って、うどんを購入してきました。農耕って素晴らしい!

鍋に入れて、おいしくいただきました。

皿の中に残っていたバッタの残骸がまるでうどんに混入した虫のようですが、先ほどまでそれがメインだったと考えると不思議な気分です。蝿とか、ちゃんと火を通せばおいしくいただけるような気もします。


やがて日が暮れて、恐ろしい程の寒さがやってきました。西さんが「河川敷は街中より3度低い」と言っていましたが、まさにそれを体感。

皆でたき火を囲み、暖を取ります。

しかしこの場所は夜景も素晴らしい。

水面に光を落とす高層ビルの明かり。その夜景を前に、淀川で獲れたてのウナギをさばき、昆虫を炒める我々。

都会アウトドアです。

話題は自然、環境などの話になります。

現在、ものすごい速度で生命の多様性が失われていて、過去の地質時代の区分とされる時期にも匹敵する規模だとか。

これだけたくさんの種が絶滅してしまったのだから、未来の古生物学者は現代を生命史におけるひとつの区切りとみなすのではないかという話をしました。ひょっとしてもう新生代は終わってしまったのではないか。

たき火を囲みつつ、議論は深夜10時まで及びました。終電の時刻が来て、解散しました。

みんな、昆虫好きなんだなと思った一日でした。

なお、今回の企画は野食計画という団体が中心となって行われました。スーパーに売っていないものを食べることで自然と親しみ、食に関して考えていこうという会です。mixiのコミュニティもあり、どなたでも参加できますので、ご興味のある方、ぜひご参加ください! イベントの告知なども流れます。

Posted by taro at 15:02 | Comments (2)

2007年11月20日

昆虫食の会 簡易レポ

日曜日、淀川の河原でバッタを採集して調理して食べる「昆虫食の会」を行いました。

参加者は20名、個性的な人々がたくさん集まって、とても楽しい会でした。ご参加いただいた皆さん、ありがとうございます。

日没と共に終了する予定が夜の10時まで河原で宴会しておりました。気温は非常に寒かったが議論が面白かった。

今は報告文書く時間がないので写真だけアップします。















Posted by taro at 00:55 | Comments (4)

2007年11月10日

昆虫食の会を行います。

淀川の河川敷でイナゴやバッタなどの昆虫を採集し、素揚げにして食べる会を開きたいと思います。大変独特な味らしいです。

11月18日(日)正午から、午後ずっと行う予定です。

アウトドア生活の達人であるN氏に採集指導いただきます。

昆虫を食べてみたいと常々思われていた皆様、どうかお誘い合わせの上ご参加ください。

なお、イナゴやバッタが苦手な方のために、他の生き物の採集にも取り組みたいと思っています。

淀川の河川敷は景色も美しく、とても良い場所です。

ご興味をお持ちの方、taro123456789@gmail.com までご一報いただければ幸いです。

一緒に秋の味覚を堪能しましょう!


関連サイト:
野食計画←鹿やきのこや蝉を食べつつ自然への関心を深める会
昆虫料理を楽しむ←昆虫料理の専門家、内山総裁のページ。今回の企画も応援してくださっています。

Posted by taro at 13:34 | Comments (5)

2007年10月01日

僕らの知らない楽しみ

サークルDの例会での雑談。出席者が男ばかり四名だった時。

手塚:
よく喫茶店とかでさ、えんえんと彼氏の話をしている女たちがいるじゃない。自分の彼氏とうまく行っているだのいないだの。

彼女たちって、人生のかなりの時間をそういうことに使っていると思うのね。僕らにはよく分からないけど、それはきっと彼女たちにとってすごい快楽であるに違いない。

基本的に男ってそういう会話しないよね。喫茶店でえんえんと四時間くらい自分たちの彼女の話をしている男の集団がいたら、相当キモいと思う。

だから今度、そういう会を開いてみたい。

Y野:
友達が彼女と別れた時に彼女の話をしていましたけど……。

手塚:
あ、たしかに別れた時はする。

M:
そういうふわふわした女は自己愛の塊なんだけど、それを評価する外部の基準が必要で、お互い喋りあって、自慢しあったり愚痴を聞いてもらったりすることで確認を行ってるんだろうね。

手塚:
よし、やろう。僕らもやろう。やってみないと分からないよな、何事も。

Y野:
やってみたら楽しいかも知れませんよ。すごい盛り上がって。

手塚:
では今度、各人がえんえんと自分の彼女の話をする会を開こう!

Y野:
で、今彼女いる人は?

(全員、無言)

手塚:
じゃ、じゃぁ、みんなに彼女ができた時点でやるということで……。

M:
男がそういう話をすると、「女性とは何か」とかいう一般的な話になりそうだよね。

全員:
絶対なる!

Posted by taro at 00:13 | Comments (7)

2007年09月21日

鹿狩りしてきた。

鹿狩りしてきた。

「スーパーに売っていないものを食べることで、食と自然に関して考える」という目的で活動している野食計画という団体の企画で、猟師さんたちの協力を得て実施されたイベント。

初めて猟にお邪魔するということで、大勢で行っても大丈夫なのだろうかという懸念はあったが、とりあえず阪神間に住むM田さんに声を掛けた。奥さんや友達を誘って三人で来てくれるという。

九月上旬の日曜の午前九時、阪急沿線の某駅に集合。改札に現れたM田さんは、なんと半袖姿である。

「えーっと……。これから山に行って猟をするのですけど」
「あー、そうか。半袖はまずいかな」極めてのんびりしたキャラクターであるM田さん、おっとりした口調で言う。

だが、M田さんの奥さんとその同僚であるT村さんを見て、さらにショックを受ける。半袖の白いシャツ、肩から掛けたトートバッグやショルダーバッグ。化粧もばっちり決めている。
「えっと、まじで山に上がるんですけど」
T村さんは阪急沿線の武庫之荘に住んでいるそうだが、実際、とても上品な阪急沿線的雰囲気を漂わせた人。M田さんの奥さんはもうちょっと活動的な感じ。

駅前の駐車場に降りると、山歩き風の装備に身を固めた野食計画のメンバーがすでに集まっていた。

代表のマツムラ嬢。創設者であるダイスケ氏。二人は先週も淀川でホームレスの人に教えられ、川底の泥の中から集めたシジミの味噌汁を作って食べたというつわものである。

高校教師のタニ氏。僕より四才年下のようだが、見えない。貫禄がありすぎる。ごつい。ものすごく荒れている高校で教えているらしい。「体育の教師ってよく訊かれるけど。実際は英語教師です」とのこと。

ニシ氏。四十才ということだが、もっと若く見える。すでにニュージーランドで鹿狩りした経験があるという。

そして今回、僕らを猟に誘ってくれた猟師の江口さんからレクチャーを受ける。

「今は非猟期なので、特に理由がなければ猟をすることができません。けれど、有害鳥獣駆除という名目で行くことができます」

実際、腕に「有害鳥獣駆除」と書かれた黄色い腕章を付けている。農産物を荒らす害獣を駆除するために猟をするのである。猟で生計を立てている分けではない。鹿狩りはあくまで趣味であり、人助けである。「鹿や猪はものすごい勢いで増えるからね。駆除しなかったら、そのうち駅前で猪が寝とるようになります。あれ、犬かなと思ったら。猪だった、とか」

抑揚を付けた独特の口調で説明する。狼のような食物連鎖の頂点に立っていた生き物が絶滅してしまったために、その下に位置していた鹿や猪が増えすぎてしまうのである。だから人間が狼の代わりに鹿や猪を狩って、バランスを取らなくてはならない。

二台の車に分乗して山に向かう。のどかな郊外住宅地の間を抜けて、山の麓、田んぼの脇で車を停める。小高い丘である。盛夏を過ぎた木々の穏やかな緑が青空に映える。

車が次々に集まってきた。猟銃を持ったおじさんたちが降りてきて、僕らを取り囲む。人数は十人くらい。皆、オレンジ色のメッシュ地のジャケットを上着の上に着て、黄色い腕章を付けている。頭にはつば付きの帽子。年齢層は高めである。僕らと同世代はいない。見た所五十歳代くらいに見えるが、あとで聞いたら六十歳代の人がほとんどとのことであった。

背の高いリーダー風の男性が「君ら何の団体やねん」と聞いてくる。
「自然のものを食べようという団体で……」と説明する代表。しばらく「何を食べられるか」という話題で盛り上がる。

虫除けスプレーを渡された。山中は蚊が多いらしい。手渡されたM田さんは、スプレーのラベルを見て悲鳴を上げた。

「こ、これ、犬猫用だぜっ」

ラベルにしっかり、「ジョイペット スキンガード 犬猫用 ペットのカラダの虫よけに!」と書かれている。

「これはすごく効きそうですねぇー」

日に焼けた精悍なハンターのおじさんたちに囲まれながら、若干青白めの肌にスプレーをかける僕ら。

「獲れるかどうか分からんけど、獲れんかったら山歩きということで」

このグループでは主に鹿とシシ、つまり猪を狩っている。しかし猪は今の季節、脂肪があまり乗っていないため美味しくない。秋にドングリをたくさん食べて脂肪を蓄積しているので、冬場に狩った方がいいのだ。逆に鹿は夏が一番おいしいらしい。
「暑いから行きたくないねんけど、農家の人に頼まれたら行かなくちゃならん。畑荒らしてる言うから」
農家に取ってはとても頼りになる助っ人なのである。一年に鹿を四十匹から五十匹くらい、猪は四匹か五匹、仕留めているという。猟の中心は犬と銃。白い毛色のシロ、茶色のヤマという二匹の犬が軽トラに乗せられたケージの中で出番を待っている。

「猪って危険なんですよね」と聞いてみる。
「ああ。この前襲われたよ、わしら」校長先生のような威厳あふれる雰囲気のおじさんが言う。「牙で突かれたら大怪我する」
「そういう時はどうしたらいいんですか」
「撃ち殺すだけ」
「……なるほど」
「三人で十五発も撃ったからな」
「最初に三発撃って、結局は当たってたんだけど、それで手負いになって。俺が二発撃って、それも当たってたんやけど、また逃げたんや。笹の中に逃げ込みよったら、犬もよう行けへん。それで笹の茂みに向かって何発か撃った。そしたら突然、飛び出てきた。かっちゃんが転んで。腹に刺されたかと思ったわ」
リーダー風の男性は照れるようにこめかみを掻いた。仲間からはかっちゃんと呼ばれている。
「足、こうしとったら、ばーんって当たって、転んだんや。で、この人は牙で持ち上げられて」
校長先生が持ち上げられたらしい。どれだけ力のある猪か。「犬がやってきて、わーわー吼えて」
「飼い主を守ってくれるんですね」
「体当たりされて、こことここに怪我して」結局、銃で撃ちまくって仕留めたそうだ。「三時間くらいかかったもんな」
M田さんが腕を組み、感心する。「十五発も撃たないと死なないんだ」
全体で120kgあったらしい。肉屋に売ったら四十万円くらいになる。「それを六時間掛けて解体したんや。少しでも多くの脂を取らないかんから」
「次の日、ものすごい体が痒くてなぁ」ダニがくっついていたのだという。
「そのシシ肉があんたん所に行ったやつ」江口さんがマツムラ代表に言う。
「ああ、そうだったんですか」
野食計画ではその猪をボタン鍋にして、おいしくいただいたのだ。

「あんな面白い猟は滅多にできへんな、でも命懸けや」
「俺は二回目」リーダーが自慢する。
「子供を連れた母親猪は本当に危険やで」僕はこの前、六甲山山麓の公園で普通に子連れ猪を見かけたのだが。のどかな風景だと思っていたのだが。
「犬はやられたりしないんですか」とダイスケ氏が聞く。「この前、前脚をやられたりしてな。猪を怖がるようになってしまった」
本来、犬は猪と直接戦ったりはしないのだ。猪の方が力は強い。だから犬は吼えて脅して猪を誘導し、猟師が待ちかまえている所まで近づけさせるのが仕事。
「強いんですね、猪」
「毎年、年寄りが何人か殺されている。牙で内臓突かれたりしたら、死んでしまうからね」
今回の企画、ちょっと危険だなと、今さらのように自覚した。鹿が出てくるか猪が出てくるか、まだ分からない。

さて、猟メンバーに教えていただいた狩猟の仕組みは以下の通り。

まずは山に上がって、皆で獲物のいそうな場所の目星を付ける。その方法は江口さんに言わせると「インディアンと一緒」。隈無く歩き回って、足跡を探す。場所を決めたら、それぞれの持ち場に着く。基本的に二つの仕事がある。勢子(せこ)と射手(しゃしゅ)。まず、勢子は犬を連れて山道を延々と歩く。犬はかなり広い範囲を走り回り、獲物の匂いを探す。よく訓練されているため、猪か鹿を見つけたらすぐに吼え立てる。獲物は驚いて逃げ出す。おそらく射手たちが待ちかまえている方向に獲物が逃げるように誘導するのだろう。
射手はあらかじめ山の斜面に沿って広い間隔を開けて配置し、獲物がどのルートで走ってきても撃てるように構えている。隣の射手までの距離は百メートル以上離れているが、もちろん仲間に向けて撃たないように注意する。弾がどこまで飛ぶか分からないので、水平に撃つのは禁止。

「猟は一に脚、二に犬、三に鉄砲」という格言があるらしい。銃を使うのは本当に一瞬だけである。
「この方法は囲い込み猟いうねんけど、追い物ゆうのもあって。人間と犬が一緒にキジやヤマドリを追い掛ける。けどあんま獲られへんから、最近は行う人少ないな」
「山で他のグループと出くわすことはあるんですか」
「あんまりない。この山はどのグループって決まっていて、他のグループは入ってこれない」
「猟師の掟は、一番最初に入ったものが権利ある」リーダーが補足する。「猪は金になるから、汚くなる。掟を守らんやつがおる」
「僕らは趣味でやっているわけだけど、プロもいる。罠を使えばひとりでもできる。冬の小遣い稼ぎにはええで。猪専門の猟師とかおる。一匹仕留めたら四十万円になったりする」

はぐれ猟師。ダーティーな感じだ。

銃について説明を受ける。散弾銃と単発のものを両方使う。大物を狙う時にライフルを使うこともあるが、ほとんどの人は持っていない。

「これが散弾銃」
「うわ、デザインがすごくいけてる」
ダイスケ氏が声を上げる。彼の本職はデザイナーである。みかんを輪切りにしたような形で弾が入っているデザインに感銘を受けている。



「年によって色が変わるねん」青や緑、薬莢の色がそれぞれ違う。火薬も自分たちで調合するらしい。それによって銃弾の初速が変わり、百メートル先でどれだけ下に落ちているかが決まる。

いかついヒゲを生やした猟メンバーがベルトのように腹に巻いている銃弾を見て、
「これもかっこいい。ウェスタンの世界じゃないですか」

「僕の親父は鉄砲やってたんですよ」とタニ氏が言う。「『銃と弾は別の場所に置いとかなあかんねーん。うぉうぉうぉぉ』ってよく吼えてましたよ」
我々男どもは完全に銃の話に夢中になり、その間、女どもは犬を見に行っている。
銃や火薬について詳細に説明してくださる姿を見ていると、フィギュアや鉄道模型にはまる現代のマニアに通じるものを少し感じた。少し年齢の若い猟グループのメンバー、須磨但馬氏に言ってみると、「あー、それはあるかもね。マニアの元祖かも知れないね」と賛同を得られた。

全員集合したということで、車に乗り込んで山道を上がっていく。日射しのよく差し込む里山の林、舗装された細い道。見晴らしの良い斜面の脇で車を停めた。滑り止めの溝が刻まれた急峻な坂の下には、残暑の熱気に蒸された住宅街が連なっている。

先ほど囲い込み猟の方法について書いたが、実はこの時点ではまだ何も知らされていない。車を降りた我々は二グループに分けられ、猟メンバーに指示されるまま、それぞれの場所に連れて行かれる。ダイスケ氏、タニ氏、僕は射手に連れられて山を上がった。

「山の向こう側に勢子が行ってるから。鹿か猪を見つけたら、無線連絡がある。それまではじっと待つ」

リーダーの先導の元、僕らは細い沢を越え、道なき道を駆け上がった。スピードは速い。かなり山の中に分け入った所で立ち止まって、猟メンバーは相談を始める。斜面のあちこちを指さしながら、どこに立ったらいいかを検討している。

「あっち行くか、こっち来るか。沢の方に行くか。こう来たら、こう撃とか」

獲物がどのルートで走りうるかを推測しているのだ。獲物といえども地面を走る存在。自然、走りやすい道というのがある。それを見越して配置を決める。もちろん、僕が見てもただの落葉樹林にしか見えないが。射手の数は限られているので、なるたけ広い幅をカバーできるように配置しなくてはならない。

「それじゃ、タナベさんはここで待っててもらって。あんたらの一人がここに残ったらええ。静かにしといてな」

タナベさんはこのグループでは少し年配のメンバーだ。もう一人の射手は小柄で理知的な感じの男性。極限的な状況下でも冷静に判断を下しそうな狙撃手風の人物だ。
僕はタナベ氏と残ることにした。リーダーがダイスケ氏とタニ氏に注意する。

「自分の靴が大丈夫か考えてからついてきてな」

急な斜面を勢いよく上がっていく。先頭組の姿が見えなくなってしまうと、タナベ氏が穏やかな口調で言った。「さ、これから長いで」袋から手斧を取り出して、傍らの木の枝を叩き始める。

「それは何をしてるんですか」
「シガキ言うて。隠れる所作るのや」
あたりから灌木の枝を集めてきて、木に面して小さな茂みを作り始める。

隠れるといっても、枝の間から透けて見えすぎである。だが、鹿や猪が猟犬に追われて必死で走っている時には、これくらいの茂みに隠れているだけで十分見逃してしまうものなのかも知れない。

「そしたら君はここにおって」
下生えを払って平らにした一角に僕を座らせる。
「来ますかねぇ」と呟くと、黙ってにっこり笑った。優しそうな人だ。
「動物は聡いからな。ぱっと全体を見て、動いてるもんあったら逃げる」
「反対側から来たら、茂みの反対側に回るんですか」
「いーや、動物来たら動いちゃいかん」反対側から来ることはないのだろうか。
「上の人たちは今、足跡を探しているんですよね」
「そう。それが古いかサラいかな」タナベ氏の脇腹にくくりつけられていた無線機がガーガー鳴った。ひび割れた声が言う。「上におるし。上向いて撃たんといてな」
「おたくも下向いて撃つなよ」

重そうな無線機を使って話しているが、実は携帯電話のアンテナも普通に立っている。

無線機を切ったタナベさん、「今から一時間くらい掛かりまっせ」と言ってどっかりと腰を下ろす。実は猟の仕組みに関してはこの時タナベさんから教えてもらった。山の反対側から勢子が獲物を追い立てる一方、射手が山の斜面に上から下へ間隔を開けて並び、誰かが仕留めるという構図。お互いの姿は見えないが、だいたいそれぞれがどんな動きをしているかはイメージできる。

「向こうからあのおっさんが犬連れて追いよる訳ですわ」おっさんというのは勢子をしている校長先生のことだ。
「獲物が反対側から来ることは無いんですか」
「それはない。勢子が向こうから追い寄るし。だけど広い山やさかいな。どこに来るか分からん。運が悪いやっちゃ、獲物が来るやつは」

いや、運がいいと思う。チームワークなので、自分の傍らを鹿が駆け抜けていった時、はずしてしまったらかなりのヒンシュクだ。一方、当てた時の喜びは大きいだろう。チームで行うスポーツに似ている所がある。

「今日は待っとるのは五人ほどや。待つものが多いほど効率は上がるわな。あちこちで道ふさげる。たった五人やったら来るかどうか分からへん」そして僕をしみじみと見つめて、ぼそりと言った。「あんたら、こんなアホみたいに暇な所によう来たもんやな」

猟は暇なものらしい。

無線機に何か音が入った。タナベさんが緊張した様子で立ち上がる。動いてはいけないと言われている僕は草の上でじっと身を固くする。ぱーん、という乾いた音がした。

「あ、撃った」

タナベさんは銃を構えた。

「こんなに早いのは珍しい。あんたら運がええわ」

無線機の向こうから声がする。「かっちゃんの方行った、かっちゃんの方行ったぜ」
「どうして分かるんですか?」
「みんな誰がどこにいるか分かってるからな。今のはな、動物が起きたってこと。鹿か猪かは分からん。走って逃げたらしいわ」

勢子も獲物を実際に見た訳ではない。犬が吼えたことによってそれと知るのだ。タナベさんはしばらく身構えていたが、やがて無線機に耳を澄ますと、ぽつりと言った。

「終わり」
「仕留めたんですか」
「逃げよった」タナベ氏が無線機を差し出した。ウォウ、ウォウという呻き声が聞こえてくる。「これは……」
「犬の声や」犬の首輪にも無線機を付けていているのだ。「吼えてる声の大きさでだいたいの距離が分かるし。わしのでは分からんけど、いいやつだと犬の場所も分かる。それで獲物が外に出ちゃったって分かる」
「そしたら犬を呼び戻すんですか」
「いや。犬はなかなか戻らへん」
「戻れって言っても戻って来ないんですか」
「うん。疲れたら戻ってくるけどな」いったん獲物を追い始めたら、容易には止まれない。犬の悲しい性だ。「意味ないのに」
「いや、一応獲物を連れ戻そうと思っている。でもわしらはカンでもうあかんって分かる。そしたら戻るかってなる」今回も「もうあかん」のケースだったようで、走り続ける犬を残して山を降りることになった。「一晩走る犬もおるけど。この犬は二時間走ったら戻ってくるから。これくらいの山ではちょうどいい」

一晩かけて行う猟って……。いったいどんな猟なのだ。

「昔は三時間でも四時間でも、弁当持って上がったりしたんやけどね。大きな山で」

若き日のタナベさんを思い浮かべる。そして猟グループ。今よりも規模が大きく、総出で山に上がっていたのだろうか。広い範囲をカバーするためには、それだけ人数も必要である。タナベさんは残念そうに言った。
「今日はあかんな。せっかく君らにええかっこ見せようと思って来たのに……」首をすくめる。
「いや、いいですよ。こうやって猟をするんだなってのが分かって、面白かったです」
「今、わしらは趣味でやっとるけど。昔は職業猟師が結構おって。今も猪専門の猟師はおるよ」
「一人で狩れるんですか」
「犬がよければ。それと罠とな。最近は罠が良くなってきて。はびこってる」また無線が鳴った。「もう終わりやな」などと確認している。「しかし君らも物好きやな。昔は面白いこともなかったから鉄砲撃ちでもしようかってなったけど。今は面白いことなんぼでもあるやろ」
「猟をする人は減っているんですか」
タナベさんは頷く。
「今日はわしも寝てようかと思ったけど、かっちゃんが呼びに来たもんやから。昨日ゴルフ行って、しんどうて」
そういえば昔はゴルフすら無かったはずだ。猟に行くのが男の遊びだった。
「で、君らは何の会やったって?」
「『野食計画』です。スーパーで売っていないものを食べることによって、食と自然に関して考えるという会です」
「ほぉ、何でも食うんかいな」
「ザリガニとかセミとか。僕はまだ食ってませんけど。代表の人とかがよく食べてます」
「そんなん普通やん。誰でも食えるやん。ムカデ食え、言うとき」
「あ、僕は食べませんけど、きっと誰か食べると思います」
「ミミズはもう食べたやろ」
「どうかな。まだなんじゃないですか」
「二十年くらい前に流行ったんやで。養殖で。薬になるいうて。熱冷ましの薬やね。鹿などは売っとるやん」
「いや、山で仕留めた鹿を食べたい訳です。変なものを食べるのが目的というか、自然環境について啓発することの方が目的であって……」ふうん、という風にタナベさんは首を傾げる。「ま、日曜にこうやって山に入って座ってるおっさんがいるって、おもろいやろ」
「ええ」
「自然と溶け込んで、って訳にはいかへんで」
「無線機持ってますしね」

さきほど斜面を上がっていった皆さんが降りてくる。リーダーが悔しそうに言う。「上の方に抜けてしまったみたいやな」

つまり、ある程度の間隔を開けて散らばったはずだったが、一番上に位置していた射手のさらに上を抜けられてしまったのだ。サッカーでディフェンスを突破されたような感じか。
「惜しかったな」
「百メートル上を走っていきよった」
「あれは鹿ではないな。シシやな。鹿はあんなに上を走らへん」
「犬の声、聞こえましたよ」とダイスケ氏が言う。猪は必死で尾根を走ったのだ。それによって命拾いした。
「しっかし、よお二人ついてきた」リーダーが感心したように言う。ダイスケ氏とタニ氏を見直したようである。今時の若者はもっと体力ないだろうと思っていたのかも知れない。かたや淀川でシジミ漁って食ってる野食計画創設者、かたや大阪の荒くれ高校の教師。弱音を吐くことはできない。
「滑って上がれないんですよ」とタニ氏。急斜面を駆け上がろうとすると、滑ってしまうのだ。
ダイスケ氏が最上段、タニ氏が第二段まで上がったそうである。二人ともシャツは汗まみれ。山道を降りていく。
「蝉が鳴いていますね」とタニ氏が指摘する。そういえば都心ではもうあまり蝉の声を聞かない気がするが、山ではまだまだうるさいほど鳴き続けている。
行きの車の中では相当饒舌だったタニ氏、かなり静かになっている。さすがに山を駆け上がって疲れたか。

M田さんたちが道路のすぐ近くで僕らを待っていた。いったい何が起きているのか分からず、きょとんとしている。猟メンバーは道ばたに集まって、反省会を始める。猪がどう走ったのかを再現している。この山の地理はくわしく分かっているのだ。
「もういっぺんしよか。下の方で」という話になっている。
「一回やったら、しばらくできないんじゃないですか。獲物が逃げちゃって」
「いや、別の所でやる。ここは放ってしまう。なんぼでもおるからね」車に乗り込んだ。
「これ、邪魔で」後部座席に腰掛けたダイスケ氏が無線機を手に取る。「携帯、普通に入りましたよ」と僕。
「でも、携帯だと一度に全員と通信することができないでしょ」
「なるほど」

麓の弁当屋まで行って、各自昼食を購入する。一度に二十個近い注文を受けた弁当屋は大変だ。毎度のことかも知れないが。「すぐにできる弁当」というのがいくつか用意されていた。ニーズに応えている。

帰り道、今度は江口さんのノアに乗せてもらった。M田さんたちに狩りの仕組みを説明する。僕も知ったばかりなのだが。
「犬が吼えて獲物を追い立てて。射手という人たちが待ちかまえていて、銃で撃つんです」「なるほど」ようやく自分たちの仕事を理解した様子のM田さん。その時、代表のマツムラ嬢が乗り込んできて、「すいません、もう一回説明してもらえますか」彼女も分かっていなかったらしい。
「でも、どうして獲物が寝ている所を襲わないのかな。わざわざ犬を使って起こさなくてもいいんじゃないか」とM田さん。
「そういえばそうですね」
「寝てる所、いきなり撃てばええんちゃうん」
「猟グループの人に聞いてみたら」
「『あっ』って言うかも」M田さんの奥さんがおどける。
「数百年間、誰も気付かなかった」
「大発見だな」
江口さんが運転席に乗り込んだ。
「こんだけ人数がいても、逃げられちゃうんですね」
「向こうの方がうわてや」
「猪の方が鹿より賢いんですか」
「そうやね。猪の方が賢いな。鹿は耳が効くし、脚も効く。それでしくじる。自分に自信があるから、人の撃ちやすい所に走る。猪はもっと慎重、脚も遅いし目も悪いからね。暗い所で様子を窺って、ばーって走る」
「なるほど。鹿は逃げられると思って走って、撃たれてしまう」
「昔の諺に、『親の言うこと聞かぬ鹿の子は、野に出て野で果てる』ってのがある」
「どういう意味ですか」
「鹿の親は山に逃げろって教えるけど、小鹿は野の方が走りやすいから、山の下に出てしまう。それで撃たれて死ぬ」
「かわいそうなもんですね」
「鹿の親は子供を呼ぶんよ。親はすごい速度で逃げるからね。でも子供は脚力が無いから付いていけない。そして先に行った母親が小鹿を呼ぶ。ぴーっ、ぴーって。切ないね」
「猟の格言って、いろいろいいものがありそうですね」
「『言い訳を 考えながら 山を降り』」
「うまい」
「『鉄砲よりも 言い訳の腕を上げ』」
「字余り」
猟の知識が無ければ味わえない様々な格言がありそうだ。
「猪は公園とかで見かけるから、あまり怖いと思えないんですけど」とM田さんが言う。たしかに六甲山の麓で見かける猪はのんびりしていて、簡単に狩れそうだ。半袖で来てしまう気持ちも分からないでもない。
「モードが違うんですよ。山にいる時と公園にいる時では」と僕。
「子を連れた猪はやばいよ」江口さんは繰り返す。山道まで戻って、皆で斜面に腰を下ろして昼食を取った。
「どうや、猟の印象は」リーダーが聞く。
「こんなにチームワークだとは思いませんでしたよ」
「うん」
「あと、すごく忍耐力が要求される」猟メンバー、頷く。
「獲物が近くに来たら、蚊を叩いてもダメ」
ちょっとの音でも気付かれてしまうのだ。
「動物は人間の匂いを憶えてるから、風下にいなくちゃならん」リーダー。
「でも、風向きは変わるじゃないですか」
「変わる」
「そういう時は?」
「しゃぁない」
首をすくめるリーダー。
「今日は足跡はあんま探してない。小さい山やさかいな」狙撃手氏が説明してくれる。

やがて午後のラウンドが動き出した。「すいません、勢子やらせてください」とお願いしてみる。射手と追い返しの仕事は分かった。勢子がどういうものか、どうしても知りたい。
リーダーは少し考え、校長先生の方を向くと、「やってもらおか。どんだけしんどいか、分かるやろ。行くんやったら首にタオル巻いて。虫、出るしな」
「大きな声出したらいいやん、ほぅ、ほぅって」勢子というのはそういうものらしい。あるいはかつてそういうものであったというのを踏まえて冗談で言っているのかも知れないが。
「でも、その靴じゃいかんな」
校長先生が威厳あふれる態度で言う。「ハメが出るしな」
「ハメ?」
「まむしのこと」
長靴を貸してもらった。

僕とダイスケ氏は校長先生の軽トラの荷台に乗せてもらい、でこぼこの山道を上がる。タナベさんが助手席に乗ったため、僕らは荷台に乗る。横で猟犬のシロとヤマがはぁはぁ息を吐いている。彼らはまったく吼えない。獲物を見つけた時しか吼えないように鍛えられているのだ。――犬ってどうやって会話するのだろう? ずっと黙っているのって、しんどくないか?



車を停めて、射手として山に入っていくタナベさんを見送って、我々はその場で待つ。
射手が持ち場に着いてから、勢子は獲物探しを始めるのだ。校長先生が自分の息子の年齢を話し始める。僕らはそれより若い。そして山歩きの体力面でちょっと負けている気がするのはやばい。
待つこと十五分ほど。僕らは山道を歩き始めた。ハイキングコースのように人が歩ける道になっている。昔は勢子が直接猪の寝ている場所まで行ったらしいが、今は犬が見つけて吼えるので、勢子は直接山の中に分け入らなくてもいい。犬の訓練の技術も進んでいるということだろうか。
「獲物が走るのをやめたら吼える。ある程度離れたら吼えない。そうやって追い立てていく」
犬、賢い。
「どうして獲物が寝ている所を襲わないんですか」
「みんなで近づいていったら危ないやろ。お互いに撃ち合いになって。それに、犬に当たるかも知れん」
なるほど。M田さんの大発見は容易に覆されてしまった。
「誰がどこにいるか分かった上で撃っているからな」
「猟の最中に流れ弾に当たって死ぬ人とかはいないんですか」ダイスケ氏が不安そうに聞く。
「それは人間が一斉に獲物を取り囲むという猟の場合。北海道でやってるやつや。やり方がこことは違う。あとは、勝手に自分の持ち場を離れたりした時やね」
そういうことをしなければ大丈夫、ということらしい。
「保険とか入ってるんですか」
「入ってる。猟保険。普通の保険は適用されへんからな」
やがて校長先生の携帯が鳴った。何事か話している。
「たぶんシシやと思うけど、爪がそっち向いてるって」
猪が近くにいるのか。
二頭の猟犬は山道を軽々と歩き、やがてその姿は見えなくなってしまう。
「匂いがあったみたいやな。匂いが無ければ、近くにいる」
ヤマだけ戻ってきた。
「シロは猪、ヤマは鹿の匂いでしつけてある」
分業があるのだ。
「シロは匂いを辿っている所なんですか?」
「うん。でも夕べの匂いかな。もし昨日の匂いがあったら、車から降ろした時にすぐ吼える」
賢い。
かなり歩いてから立ち止まる。無線機が音を立てていた。
「ここに来とるよ、シロが」と言っているのが聞こえてくる。
校長先生が笛を吹いた。これで犬を呼び戻すらしい。
さらに無線機の番号を合わせて、「ほいっ、シロ、戻ってこい」と呼びかける。
それで分かるのだろうか。犬、賢い。
無線機を見せてくれる。電波の強さが表示されている。これで猟犬までのおおよその距離が分かるらしい。
ヤマはそれほど離れずについてくる。
「ヤマは頼りない。あいつは鹿だけ」
「シロとヤマはいつも別々に行動するんですか?」
「そう」



登山道の左手に直径一メートルくらいのへこみが二つあった。

「これはね、二、三日前に鹿が寝た跡。こっちは一週間前に猪が堀った穴」
校長先生が説明してくれるが、どちらもただのへこみにしか見えない。パターンは限られているのだろうが、見分けられるのはすごい。雨が降るたびに形が崩れるので、どれくらい古いか分かるのだという。
尾根伝いを歩く。いくらでも上がっていける。この山はいったいどこに続いているのか。木の間を抜けるたび、顔に蜘蛛の巣がかかる。

「午前の射手の時と、どっちが大変?」とダイスケ氏に聞いてみる。
「さっきの方が、距離は短かったけど急斜面だったからな……」

水を持ってきていないことを悔やみ始める。かなり喉が渇いてきた。
いつの間にかかなりの高さまで上がってきている。木立の間から見下ろすと、午後の日射しに照らされてくっきりと輪郭の浮き上がった住宅街が広がっていた。
不意に校長先生が立ち止まる。
「あれ、おったかな」
「あ、止まっている」ダイスケ氏も異変に気付いた。
猟犬のヤマが動きを止めている。
校長先生が銃を構えた。
「寝てるかな?」
ヤマのいる方向に、慎重に近づいていく。緊張感が走る。
だが、すぐに校長先生は銃を下ろして、気の抜けた調子で言った。
「寝とらんな。ああゆう草の中に寝とるんだがね」

さらに歩く。
「ここ、猪が餌を食んだあと」
木の肌が削られている。
ふたたび、登山道の真ん中に巨大なへこみを発見。
「これはヌタ」
校長先生が説明してくれる。猪が体についた虫をそぎ落とすために、土の中で暴れた穴なのだ。深さは十センチ程、直径は一メートル以上。巨体である。こんなものに襲われたくない。

少し開けた場所まで来た。日射しが差し込み、明るい木立。
「この山、猿はいないんですか」ダイスケ氏が聞く。
「たまにいる」
「猿猟はしないんですか」
「しない」
「どうして?」
ちょっと考え込んだかと思いきや、無線機に耳を澄ませている。
「あ。吼えてる」
無線機の向こうで犬の吠え声がする。獲物を見つけた印だ。僕らは動きを止める。校長先生が銃を構えた。

だがその時、山の向こうで銃声が響いた。乾いた音が木々の間を抜けていく。
「K田の銃やな」
狙撃手氏の名前を言った。銃の音で分かるらしい。
無線機を合わせて、犬の声を確認した。
「シロが鳴いてるな。当たってないんか?」
目盛りを回すと、ノイズの入り交じった人間の声に切り替わる。それに耳を当てた校長先生、
「こけたみたいやな」と呟く。
「こけたというのは?」
「鉄砲うって、倒れたってことや」
「はやっ!」
獲物を仕留めたのである。

校長先生の携帯が鳴った。かわいらしい呼び出し音。山の中、銃と無線機で狩りをしていた所に突然携帯が鳴ると、少しギャップを感じる。
しかし一対一のやりとりを行う場合は、もちろん携帯の方が効率はいい。リーダーからの電話だったようだ。

「K田の音やなって思って。かっちゃんのにしては、えろう響いてたなと思って。ああ、うん。まだ力余ってるみたいだから。引っ張ってもらおうと思う」
携帯を切った校長先生に間髪を入れず尋ねる。
「鹿ですか、猪ですか?」
「分からんけど、何匹かおったっていうから、鹿やろ。二頭おって、一頭を仕留めて。シロはもう一頭を追い掛けて行ったみたいやな」
獲物に逃げられるとどこまでも追い掛けてしまう犬の性。
校長先生は携帯をポケットにしまうと、登山道の先を指して言う。
「そしたらあんたら、そこまっすぐ行って、明るくなってる所で左に曲がって。沢まで降りてまた上がったら、みんないるし」
かなりおおまかな説明。
「僕らだけで行くんですか」
「うん。わしは先に下に降りとるし」
見知らぬ山である。これだけの説明でたどり着けるのか。
ヤマが校長先生の足にすり寄った。こいつも帰る気だ。
だが、ここで校長先生と一緒に帰ってしまったら、何の仕事もしたことにならないだろう。そこで僕らは射手の部隊と合流することにした。
登山道を覆う枯れ葉を踏みしめながら歩く。麓からはかなりの距離がある。木々の間隔が広く、開けているとはいえ、山の中だ。校長先生はすでに僕らに背を向けて、元来た道を引き返していく。僕らは銃も持たなければ無線機もない。携帯電話しかない。
ダイスケ氏がぽつりと呟く。
「これ、ホラー映画で二人とも死ぬシチュエーションですね」
「あ、たしかに。何かに襲われる状況だ」
猪出てきたらどうなるのだろう、とか思う。先ほど猟銃を鳴らしたので、皆逃げてしまったかも知れないが。
歩きながら、僕は先ほどから感じていたことを言ってみる。
「猟って何に近いかといって、ゴルフに近くない?」
「ゴルフ?」
「大勢で集まって、ペースは結構のんびりしているけど、かなりの距離を歩く。あとは道具に拘るとか」
射手として急斜面を駆け上がらされたダイスケ氏はあまり納得がいかない様子。
「年齢層も近い?」
「そうそう」
「ショットって言うしねぇ」
「そうだ。英語で『ゲーム』って言ったら、元々獲物って意味ですよ」
そもそもイギリスでゴルフが始まった時、ゴルフと狩猟の愛好家層はかぶっていたのではないか。木を切りすぎて狩猟できなくなったからゴルフを始めたとかではないのか。

左に曲がれと言われていたので曲がったのだが、ものすごい急斜面だ。そこをそろりそろりと降りていく。
途中、不安になって大声で呼びかけると、返事があった。下方向、声は思ったより近い。
斜面の下の沢に人影が見えた。オレンジの蛍光色のジャケットを着ているのですぐ分かる。
なかば滑り落ちるような形で斜面を降りた。

細い沢に沿って、射手のメンバーが一列になって降りてきている。
その真ん中に、鹿がいた。
首と後ろ足に縄を掛けられている。
角のない雌鹿だ。
脇腹に穴がいくつか開いている。
「散弾ですか?」
「ああ。六発弾や」
「俺やったら、外してたかも知れんな」リーダーが言うと、K田氏は照れた様子を見せる。
「そんな」
「当たってても逃げるしな。まともに当たってるやろ」
「六発撃った」
「六発? 聞こえなかった」
「まだ暖かい」ダイスケ氏が言って、素手で触れた。

僕も手袋を脱いで素手で触れてみた。
「僕ら、肉が暖かいというイメージが無いじゃないですか」
たしかにスーパーで売られている肉はほとんど冷蔵されている。
「素手で触らない方がいいですよ」横からタニ氏が口を挟んだ。彼は射手と一緒に山を上がっていたのだ。「ほら」
よく見れば死んだ鹿の脇腹から次々にダニが這い出てくる。十匹、二十匹。体全体ではもっとたくさんいるだろう。
「体温が下がって死んだことが分かると、新しい宿主探してはい出てくるんですよ」タニ氏が説明する。
「ダニも必死なわけだ」

「そしたら君らこれを引っ張って」
「担ぐんですか?」
「いや、いつもこうやって引いていく」
とても重たい。特に沢沿いの道は石ころばかりなので、摩擦が大きい。
僕らがもたもたしているとK田氏がやってきて、紐を手に取った。
「水平に引かんと」

舗装された道路に出る場所で、残りのメンバーと合流した。
鹿を引いてきた僕らに少し引き気味だ。
ニシ氏やT村さんにも引っ張ってもらった。重たい、と呻く。

そのまま水の流れている所まで持って行く。道路脇の側溝のような小川だ。
まずはバーナーで皮を焼く。ダニがつかないようにするためだ。
そして溝の中に転がす。流水で洗う。ナイフで切って、内臓を取る。
溝まで降りて、触れさせてもらった。
肺はまるでお菓子のムースのよう。心臓には弾力がある。肝臓、腎臓にも触れてみた。
心臓は二つに切り分けた上で血抜きする。これがあとでおいしく食べる上で重要。
「これ、使い」内臓から手を離した僕らが渡されたのは、ヨモギ。水に濡らして指にこすりつけると、におい消しになる。

「沢ガニだ」
見れば足下に大量に這い出てきていた。
「内臓はご馳走だから」
マツムラ嬢が沢ガニを何匹か捕まえて袋に入れた。野食のひとつとして食べるつもりだろう。ご馳走の内臓を手に入れようと思って這い出てきて、マツムラ嬢に食べられてしまう。食物連鎖だ。

「これで七、八貫や」タナベさんが言った。
「何キロですか」
「三十キロ」
「内臓取り除いて?」
「ああ。内臓入れても四十キロ無い」

鹿を軽トラの後部に積んだ。さっきまで僕とダイスケ氏が乗っていた場所だ。

道の横に続く山並みを見ながらリーダーが言った。
「こんな所で鹿取れるとは思わんやろ」
「というより、猟していると思わないですよ」
「今日は運が良かった。獲れんことも多いしな」
K田氏は銃撃の腕がいいらしい。普段から練習もしている。一方、リーダーはクレー射撃があまり効果があると思っていない。実際の狩猟とは状況が違う、という考え方のようだ。

猟をする人口は減っている。銃の所持許可を得るための手続きがあまりにも面倒というのも一因らしい。

車は隊列を組んだまま、「社長」と呼ばれている猟メンバーの事務所に到着した。

道に面して畑があり、大きなビニール製の納屋がある。
脚立に鹿をぶら下げた。ここで解体を行う。
猟メンバーが皮の内側にナイフを滑らせる。あれよあれよと言う間に完全に剥がれてしまう。
途中、弾がぽとぽと落ちた。深く撃ち込まれた銃弾が肉の中に残っている。

納屋の中では女の子たちがてきぱきと料理の準備をしている。
鹿が運び込まれた。
板を敷き、肉を切る。塊に切り分けられると、もはや肉屋で売っている肉と何の変わりもない。さっきまで、生きた鹿だったのに。
校長先生は納屋の真ん中にどかりと腰を下ろして、申し訳なさそうに言う。
「わしは鹿児島県人やから。茶碗すら洗われへん」
包丁を握って見事な手さばきを見せていたヒゲ氏がそれに応えて、「わしも鹿児島や」
江口さんとヒゲ氏を中心として肉切りが進められていく。

「男の厨房ですね、ここは」とダイスケ氏。
「こうやって筋に平行に切ったら固いけど、垂直に切ったら柔らかくなる」
アーミーナイフを握ったリーダーが説明してくれる。ナイフの切れ味は素晴らしく、肉の塊がばさりと切り落とされる。

「全部刺身にできるけど、その部分が最高」
校長先生が教えてくれたのは背筋周辺の部分。

「『もみじ』ゆうて、最高の所や。一切れ三百円」
「三切れくらいで五百円かな」ヒゲ氏が訂正する。

納屋の中には山ほどナイフが用意されていた。メーカー製だけでなく、自作と思われるナイフもある。とてもよく研がれている。
缶ビールがまわされ、皆で刺身をいただく。

猟には参加していなかった社長は気前よくワインまで出してくれる。鹿とワインというのはなかなか良い組み合わせだと思った。
心臓ともみじ、とてもうまい。
だがそれ以上に、レバーがたまらなくうまかった。ごま油と岩塩という味付けもいい。もともと僕がごま油の味付けが好きというのもあるが、それをおいても美味だと思う。

「葱がいるなぁ」と誰かが呟くと、江口さんがおもむろに袋から葱を取り出して切り始めた。
「この葱は自宅の玄関で取れたやつ」
とてもおいしい。

「レバーがうまいのはすぐに血抜きしたから。よく揉んでたやろ」江口さんが説明してくれる。
「こうやっておいしく食べたら、鹿も成仏できる」と誰かが言った。

成仏って何なのだろう。何であるにせよ、そういう概念を考え出した人間は優しい生き物ということなのだろう。

焼き肉が始まった。炭を入れたドラム缶の上に網を敷き、切った肉を次々に乗せていく。淡泊というのもあって、いくらでも食べられる気がする。山ほどあった鹿肉はあっという間に残り少なくなっていく。

「すじはおでんに入れる。いいダシ出るで」ということで、ほとんどの部分が利用できる。どうしても食べられない箇所は犬にやる。すべて使い切ろうという心がけは、食べられる物を無駄にできないという自然な感情に根ざしているのだろうか。スーパーで買う肉、使われない部分がどうなっているかは誰にも見えない。

すっかり暗くなった頃、江口さんと須磨但馬氏の車で駅まで送ってもらった。

おみやげに鹿肉の様々な部位と、「全猟」という狩猟に関する全国組織の雑誌をもらった。江口さんはその雑誌によく寄稿されている。猟にまつわる四季の移ろい、山の情緒がよく伝わってくる文章。猟の雰囲気は季節によって違うようである。

また行ってみたいと思った。

Posted by taro at 08:13 | Comments (4)

2007年06月28日

フリマでわらしべ長者を目指す。(その3)

それほど広い会場ではないので、何度も同じ店の前を通ってしまう。「また来たの?」みたいな顔をされる。しかし、東と西を行き来しながら交易を続けていれば、次第に商品のレベルは上がっていくのだ。レモンジューサーは 2 wayジューサーに、クッキーがマンガ13冊になった。

F戸さんのカレー屋の前まで来た時、椅子に腰掛けていた若い女性二人が興味を持ってくれた。

「わらしべ長者? 交換したいけど、売れるもの何も持ってないー」
「何でもいいんですよ。別に売り物でなくても」
「それも無いなぁ」

彼女たちは単に客として来ているだけのようである。こういう人は実に少ない。本当に、出店者しか来ないようなフリマなのである。まさしくわらしべ長者をするためにあるようなイベントであると言えよう。

女性のひとりが訊いてきた。

「最終的に何と交換してもらうことを目標にしているんですか」

鋭い質問だった。少しも考えていなかった。

「家とかではないですよね」
「無理でしょ」
「自転車とか、どうですか」

展望台の一角に停められている自転車を指さす。あれは売り物なのだろうか?

それも無理だろうと思いかけたが、考え直す。藁がキッチンペーパースタンドになるのだから、ひょっとして自転車も可能なのではないか。中古の自転車くらいなら、行けるかも知れない。個人的に欲しい。いったい何ステップくらい掛かるだろうか。急に目標が現実味を帯び出した。

「目指してみます」

僕は宣言した。

その時、僕の目にはフリマの会場に並べられた商品同士が無数の赤い線で結ばれているのが見えた。このフリマに参加しているすべての人の欲求を見ることができたとしたら。私のこの商品とあの人のあの商品は交換してもいいと思ってる物同士を辿っていけば、藁は確実に自転車と繋がっているのではないだろうか? 家とも繋がっているのではないか?

「レモンジューサー、ひそかに狙っててんけど。今度いい商品あったら、カレーと交換せぇへん」とF戸さん。
「カレーは食べたら終わってしまうからダメです」
「そっか。交換を続けていかなならんもんな」

小学生くらいの男の子に藁とクッキーを交換してもらう。幼稚園くらいの女の子が藁をミッキーの手帳と交換してくれた。

「藁だとなかなか交換してもらえないけど、ここまで来たら簡単に交換してもらえるよね」とM田さんが言う。
「そうですね。でも、個人的には藁が一番の売れ筋商品だったような気がしますけど」

台湾みやげのキーホルダーは指輪になった。この指輪、結構高い値札が付いていた。フリマだから適当な付け方だとは思うが、ちょっとびびる。

2 wayジューサーはTシャツを経て心理ゲームの本になった。

デニムのワンピースを着た上品な感じの女の子が心理ゲームの本に興味を示してくれた。小学生くらい。母親同士がお喋りしている横で店番をしている感じ。

「子供服と換えてもらえますか」
「もちろんですよ!」

隅の方に重ねて置いてあった服を一枚ずつ広げ、説明してくれる。

「シャツとかいろいろありますけど。これはファミリアのズボン。どうですか」
「ファミリアって何?」
「くまのマークのブランドです」

小学生の女の子である。そんな年齢からブランドを意識しているのか。女って恐るべし。

僕は心理ゲームで彼女の心を掴み、そのブランド物のズボンを首尾良く手に入れることができた。

ついに藁がブランド物の子供服になってしまった。なかなかの快進撃である。これはすぐに交換してもらえるだろう。先ほどジグソーパズルをキッチンペーパースタンドと交換してくれたお母さんの所に持って行くと、いいわねと言ってもらえた。幼稚園くらいの娘さんにサイズがぴったり。

「もうあんまり商品が残ってないんですけど……」

すでにフリマも終盤を迎え、売り尽くし気味だ。

「これとかどう?」

難しそうなパズルを示される。

「ええっとですね、それは欲しい人が少なそうだからだめです。流動性が……」
「あ、そうね。じゃぁ流動性が高いのは……」

まるで銀行での会話。

「このワインスタンドは?」

これなら欲しい人がいそうである。交換してもらった。案外、一部の人にとても受けるのではないか。ワインを三本、立てることができる。

終了時間が近づいていたため、矢継ぎ早に交換してもらう。皆、持ってきた商品を手放したい。物々交換が活気づく時間帯である。

ミッキーの手帳はふくろうのぬいぐるみになる。

指輪は灰皿と交換してもらった。

ふくろうをさらに赤いチェックの子供服と交換。

午後3時、フリマは比較的早い時間に終了した。ケーブルカーの運行時間との兼ね合いである。

当初の予想を遙かに上回って、いろいろなものを手に入れることができた。

すべて藁から交換して手に入れたものである。

交換の系統樹を以下に示す。一番長いものに関しては計8回の交換が行われた。

藁 → ジグソーパズル → キッチンペーパースタンド → レモンジューサー → 2 way ジューサー → NickelodeonのTシャツ → 心理ゲームの本 → 女の子もののズボン → ワインスタンド+蝶のしおり

キッチンペーパースタンド → 台湾のキーホルダー → 指輪 → 灰皿

藁 → ミッキーの手帳 → ふくろうのぬいぐるみ → 赤いチェックの子供服

藁 → クッキー → マンガ13冊

藁 → 携帯ストラップ

藁 → ミニタオル

藁 → きらきらシール

藁 → 飴

これらの商品、現在も交換受付中である。中古の自転車を目指したい。

Posted by taro at 21:14 | Comments (0)

2007年06月20日

フリマでわらしべ長者を目指す。(その2)

松の葉を持ってきて僕のわらしべをせしめていった女の子が現れた後、同様に松の葉を持ってくる男の子たちが相次いだが、僕は「同じものとは交換しない」と宣言し、紙袋作りにいそしんだ。

ある程度溜まったので籠に入れて、ふたたびフリマ会場を横断しに出かける。

「わらー、わらー、日本一のわらー」

最初来た時よりも出店者の数が増えている。見たところ30組くらいか。

どういう出店者が多いかというと、若い子連れ夫婦やカップルが多い。夫婦が二人で一緒に何か目的を持ったことをするというのはいいことではないかと思う。展望広場はグラウンドくらいの広さがあって、子供たちが走り回って遊んでいる。親同士のフリマ出店をきっかけに知り合った子供たちもいるのではないか。それって商品の売り買いよりもずっと価値があるような気がする。

石垣の前で店を出していた三組くらいの家族連れの前に乗り込んでいって、藁を売り込んでみた。結構面白がってもらえる。帽子をかぶった若いお母さんが紙箱を見せながら言う。

「じゃぁ、これどうですか?」

まだ開けていないジグソーパズルだ。

「いいんですか」
「はい」

これまでで一番価値のありそうな商品ではなかろうか。

喜んで写真など撮っていると、石垣にもたれて立っていた小学生くらいの女の子が「なんで藁なんか欲しいねーん」とつっこみを入れた。鋭い。

さらに別の男の子がクッキーを持ってきた。これも藁と交換してもらう。

タマネギのお兄さんが通りがかった。口に藁をくわえている。

「役に立ってるよ。禁煙パイポの代わりになる。今ちょうど禁煙中なんだ」

一緒に来ていたM田さんもわらしべ交換に挑戦することになった。ネット上で格安チケットショップを経営しているM田さんは僕よりずっと営業力があると思われる。

ノリの良さそうなご夫婦の店に乗り込んでいき、さっそく藁をきらきらシール一枚と交換してもらった。

その次に行った店では、幼稚園児くらいの子供がジグソーパズルを欲しがった。

「わらしべと交換してもらえれば」
「わらしべって何?」とお母さん。
「藁です」
「……。あーっ、わらしべ長者!」
「そうです」
「藁かー。ええやんかー」
「交換を続けていって、どんどん良くしていくんです」
「グレードアップしなくてはならんのかー」
「い、いや、別にいいんですけどね」

押しの弱いM田さん。

「じゃぁ、これ」

差し出されたのはキッチンペーパースタンド。これはかなりレベルが高い。藁は着実にグレードアップしていっている。

小さな女の子、ジグソーパズルを抱えて「やりたい、やりたい」と騒ぐ。これだけ喜んでもらえたら、わらしべ長者も本望である。

自分たちの店に戻ると、キッチンペーパースタンドは大受けであった。「ええやん、ええやーん、これー」とI垣さん。「私が欲しい」

I垣さんもわらしべ長者をしにいく。

キッチンペーパースタンドはすぐに交換したいという人が現れた。

レモンジューサー、キーホルダーと交換してもらった。

キッチンペーパーの方が高級そうだから商品二つと交換してもらう、というのは若干がめついようにも思うが、これはリスク分散でもある。商品が増えればそれだけ交換してもらえる可能性は増えるのだ。

Posted by taro at 23:51 | Comments (4)

2007年06月18日

フリマでわらしべ長者を目指す。(その1)

六甲山の西の端、摩耶山の展望台にて毎月一回、フリーマーケットが開かれている。リュックサックマーケットという名前に表されているごとく、リュックに売りたいものを詰めて山上まで上がれば、出店料・出店申し込み不要で気軽に店を出せるというイベント。

リュックサックマーケット

展望台からの眺めはすばらしく良く、阪神間に広がる海沿いの街並み、六甲アイランドからポートアイランド、神戸空港まで見渡せる。

しかし、フリマの開催場所としてはかなり特殊である。阪急の駅からバス・ケーブルカー・ロープウェーを乗り継がなければ来られないため、何かのついでに立ち寄る客はほとんどいないと思われる。

つまり、出店者以外の参加はほとんど無いのではないか。

主催者側もそれは理解しているようで、出店者同士の物々交換を推奨している。案内のちらしには以下のように書かれている。

> お金をつかっておかいものするのはもちろん、ぶつぶつこうかんだってOK。お金という「ものさし」もいいけれど、それいがいの「ものさし」についてもかんがえてみるきっかけになればいいな。

高い理念を掲げたフリマなのだ。

このイベントを宣伝していた時、H松くんが「物々交換でわらしべ長者的なことをしたい」と言ったのを受けて、実際にやってみることにした。

めざせ現代のわらしべ長者。

フリマ開催の前日、ホームセンターで藁を購入してきた。家庭園芸用の敷きわら、一袋400円。はたしてそれ以上の価値を持つ商品と交換できるのか。

出店の当日は目を見張るほどの快晴。六月の澄んだ青空。

阪急六甲駅に集合し、ケーブルとロープウェーを乗り継いで山上まで上がる。

時刻は正午過ぎ、すでにいくつかのグループが店を出している。

「ブルーシート持ってくれば良かったー」とぼやくM田さん。だが、芝生の上なら商品を広げても大丈夫。

僕は藁しか持ってこなかったが、今回参加した他の皆さんはそれぞれ売り物を持ってきている。Y川さんなどはスーファミの本体を持ってきていた。この人、かなり関西人っぽいノリの人なので、ネタで持ってきたのではないかと思うほどだ。すごく重かったらしい。

周囲の出店者も皆、それなりに良さげな品物を売っている。

それに比べて僕の藁は実にみすぼらしい。

勇気がくじけそうになる。

「この服と僕の藁を交換してくれませんか……?」

と、言えるだろうか。

藁を籠に入れ、首から「僕とわらしべを交換しませんか」と書かれたケント紙を掛け、営業に出かけることにした。

まずはこんな変な参加者でも暖かく受け入れてくれそうな、主催者の人たちのいるエリアに向かう。きっと激励してくれるのではないか。

受付の横でF戸さんがカレーを売っていた。彼女は週末、六甲山の東の端で「山カフェ」という屋外カフェを開いている人。

「藁とカレー、交換してもらえませんか」
「えー、藁ですか」

彼女、将来自分の店を持つことを目標としている料理人の卵であって、手間暇かけて作ったカレーを藁一本と交換するというのはさすがにプライドが許さないだろう。交換してもらえなかった。

その時、傍らにいた関係者っぽいお兄さんが助け船を出してくれた。

「じゃ、タマネギと交換しようか」

開始後5分以内でいきなり交渉が成立。

藁とタマネギ、奇しくも農産物同士の交換だ。

タマネギなら欲しい人も多いだろう。交換の可能性が大きく広がった。

この交換の時、藁だけ渡すということに何だか申し訳ない感情を抱いた。実はこれはすでに予想していたことで、見栄えをよくするために藁を包む紙袋(のし袋)を用意しておこうと考えていたのだが、前日までかなり忙しく、買えなかったのである。(ただし、なぜかホームセンターに藁を買いに行くだけの時間はあった)

というわけで手製の袋を作成した。画用紙を折り曲げて、手書きで「わらしべ長者謹製」と書く。袋の部分が謹製だ。

これは記念品として喜ばれるかも知れない、とひそかに期待してみたりする。

僕が作業にいそしんでいると、目ざとく見つけて群がってきたのは子供たち。

のし袋を手にとって、女の子が尋ねる。

「何これ」
「藁が中に入ってるんだよ」
「ちょうだい」
「だめだめ。交換しなくちゃいけない。わらしべ長者って知ってるでしょ?」

ふと思った。最近の子供たちはそもそも「わらしべ長者」という話を知っているのだろうか。僕が子供の頃はまんが日本昔話という番組があり、下手したら親の世代以上に昔話を知っていたものだが……。

「ふーん」と、女の子は分かっているのだか分かっていないのだかよく分からない返事をする。

立ち上がり、さっとどこかに行ってしまう。そしてすぐに戻ってきて、「じゃぁ、これと交換しよ」と言ってきた。

差し出されたのはそのへんで摘み取ってきたと思われる松の葉一本。

これは予想していなかった。

僕は断り切れず、その商売センスあふれる女の子から松の葉を受け取った。

藁の入った紙袋を掴むと、彼女は足早に走り去っていった。

Posted by taro at 23:55 | Comments (4)

2007年06月11日

何でも売れる摩耶山リュックサックマーケットに行きませんか

6月16日(土)、神戸の摩耶山で行われる「リュックサックマーケット」に行こうと思っています。

出店料、出店申込無しで参加できるフリーマーケットです。

何を売ってもいいらしいので、何か変なものを売りたい(あるいは買いたい)という方いらっしゃいましたら、一緒に行きましょう!

阪急神戸線の六甲駅、神戸市バス18系統のバス停前集合にしようと思っています。ご興味ありましたら tez@sings.jp までご連絡ください。(スパムが多いので冒頭に「手塚さん」とか書いてもらえますでしょうか。)

摩耶山リュックサックマーケット

Posted by taro at 20:27 | Comments (0)

2007年05月29日

六甲山の山麓、山カフェに行ってきました。

この前の週末、六甲山に登ってきました。

かつてハイキングが山頂を一息に目指すものではなく、のんびりと休憩しながら登るものであった時代、山麓にたくさん存在したお茶屋さんのひとつを借りて、街と山を繋ぎ、世代を結ぶ店ということで営業している「山カフェ」を訪ねるのが目的です。

来てくれたのは京都在住の山好きI垣さん、芦屋で格安チケットショップ経営M田さんご夫妻、尼崎在住の学生ベク成くん。さらに駅前で山カフェプロジェクトの一員であるO田さんと合流したので、6人でハイキングになりました。

I垣さんは今回初めてお会いしましたが、僕のブログの山カフェ記事を見て興味を持ってくれたとのこと。思い返せばベク成くんも昔、ブログで呼びかけたドクターフィッシュの会に来てくれて知り合ったのです。まめにブログを書いていると、いろいろ面白い出会いがあります。

阪急の芦屋川駅前に集合し、山に向かって歩きます。

このあたりは関西では結構有名な高級住宅街。実に住みやすそうな家々。

住宅街の間を歩いていくと、いつしか山道に入ります。自然がこんなに近くにあるのは素晴らしい。

登山道を覆うように建っている一軒目の店は目指す山カフェではなく、ライバル店であります。こちらは独特の店構えからかなり繁盛している様子。

二軒目の茶店が我らが山カフェ。

昔から続いているお茶屋さんの軒先を利用したもので、あまり今風ではありません。しかし、そこがいいのです。ベク成くんが「つげ義春風」と描写していましたが、たしかにそんな感じ。

山カフェプロジェクトの中心メンバーで、毎週店に立たれているF戸さんが迎えてくれました。

店の中には席がなく、すべて外で飲食するスタイル。晴れている日しか営業しないので、これでいいのです。

テラス席の奥には「高座の滝(こうざのたき)」というちょっとした観光名所があります。岩盤に刻み込まれているレリーフは、有名な登山家の人のようです。

すぐ向かいには小さな鳥居。言い訳のように置かれている金の玉が素敵ですね。

しばし山カフェでくつろいだ後、我々はさらに上を目指すことに。

ここまで来たからには、訪ねずにいられないのがロックガーデン。日本のロッククライミングの発祥の地だそうです。

さらに登ると、風吹岩。ここからの眺めは本当に良い。

かなりの距離でしたが、駅から二時間くらいしかかかっていません。本当にお手軽な規模の登山。

山は良い、という話で盛り上がりました。

I垣さんは滋賀の比良山に登って以来、山登りが好きになったとのこと。M田さん夫婦はさらにマニアックな山好きで、かつて六甲山縦走というイベントに参加したことがあるそうです。全行程56キロ。朝の7時半に出て、夜10時にゴールインするまで、ひたすら歩き続けたとのこと。

六甲全山縦走(毎年11月に開催)

すごい達成感だったそうです。そりゃそうでしょう。

帰り道、旗振山という場所を通りました。なぜそんな名前が付いているかの由来は以下の通り。

「旗振山の名は江戸末期、近代的通信機関の整備される迄の通信の場で大阪・堂島の米相場を播州岡山方面に伝えるために大きな白い旗を振って伝達したことに由来している。大阪・尼崎・武庫川堤・金鳥山・錨山・須磨などに中継地があった」

すごいですね、大阪。江戸時代の経済の最先端を行っていたのでしょう。こういう技を使って大儲けした商人とかもいたのでしょうか。

途中にあった見晴台からの眺め。東灘区や六甲アイランドです。(写真はクリックすると拡大されます。この写真は拡大すると綺麗)

いいハイキングでした。

ところで山カフェも関わっているイベントで、六甲山の一角、摩耶山で「リュックサックマーケット」というのが行わています。要らないもの、売りたいものをリュックに詰めて、誰でも参加できる山上フリーマーケットだそうです。

「きかなくなったCDや、読んでしまった本、じぶんでかいた絵、きなくなった服、手作りクッキーなどなど、なんでもOK」。出店料、出店申込不要。

毎月やっているようなのですが、もしご興味ありましたら行きませんか。次回は6月16日(土)。7月・8月にも行われる予定だそうです。

変なものを売りたいですね。ご興味ある方いらっしゃいましたら、tez@sings.jp までどうかご連絡ください。

Posted by taro at 22:42 | Comments (2)

2007年02月22日

サイエンスカフェします

今週の土曜日、東京の恵比寿ガーデンルームにて、関わっているプロジェクトの成果報告会が行われるのですが、いつものようなデモとポスター発表だけを行っても面白くないということで、最近流行りのサイエンスカフェの形式で講演が行われることになっています。

テーマは
「デジタルバイヨンプロジェクト」
「こどもたちのためのサーチエンジン」
の二本立て。

前者はカンボジアのバイヨン遺跡をすべてデジタルデータ化しようというプロジェクトで、僕はあまり知らないので興味深いです。

後者が僕も関わっている、小学校の授業で使えるサーチエンジンを作るという話です。田中教授が京都市立稲荷小学校の先生方とトークします。一般参加者とのやりとりのある、インタラクティブな形にする予定です。

僕は「教授カフェ」という名称を強く推していたのですが、通りませんでした。

参加費無料・事前登録不要ですので、東京近郊にお住まいでご興味をお持ちの方いらっしゃいましたら、ぜひご参加いただければと思います。

デジタル知的資産の創造と学びの環境づくり 文部科学省 知的資産のための技術基盤プロジェクト 第4回展示会

Posted by taro at 21:04 | Comments (0)

2006年12月31日

野外百人一首と美空ひばり館(その4)

野外百人一首を終えた我々は当初からの予定通り、美空ひばり館へ。
嵐山の超人気スポットであるにも関わらず、11月末で閉館してしまうということで、これが訪問のラストチャンスでした。

ホテルのロビーのように豪華なエントランスを抜けて、展示のある二階に向かいます。

壁一面を埋め尽くすレコードのジャケットや雑誌の表紙。その間に埋め込まれたディスプレイでは、常時美空ひばり関連の映像を上映中。

美空ひばりが映画の子役としてデビューしたというのは知っていたのですが、その後、時代劇にたくさん出ていた時期があったようで、そういう背景を知らなかった僕としてはちょっと不思議な印象を受けました。ミュージカル映画という感じでもなく、単なる時代劇。稀代の歌姫なのにもったいない!というのは勝手な押しつけでしょうか。女優としても優れていたのかも知れません。

閉館前の最後の週末ということでものすごく混んでいたのですが、車いすのおばあちゃんたちがたくさん来ていたのが印象的でした。ビデオの前で何度も再生ボタンを押して、往年の名曲を聴いていました。ものすごく懐かしく切ない気持ちになっているのではないかと思いました。こういう「高齢者の遊び場」のような場所は、もっと全国に出来てもいいような気がします。大阪の新世界に通じるものを若干感じました。

美空ひばりは戦後間もない昭和21年、9歳で初舞台を踏み、昭和24年に「悲しき口笛」で映画デビュー。その主題歌は戦後の復興期、人々に広く親しまれました。昭和35年には「哀愁波止場」でレコード大賞歌唱賞を受賞。同時に銀幕のスターとしても活躍。白黒の時代劇です。この時期、雑誌「平凡」の歌手人気投票では12年連続1位を獲得。代表曲「柔」を発表したのはそれより後、昭和39年。その後、「悲しい酒」「真っ赤な太陽」と続きます。昭和50年代にはヒット曲には恵まれなかったものの、ポップスやジャズにも進出してレパートリーを広げ、さらには舞台を中心に精力的に活動を続けていました。しかし、最大の理解者でありプロデューサーでもあった母、二人の弟、親友の江利チエミが相次いで亡くなり、寂しさを紛らわすための酒とたばこの量が増し、急速に体を壊していったそうです。

昭和62年、公演先で倒れ、数ヶ月の療養。翌昭和63年には東京ドームのこけら落とし公演として「不死鳥コンサート」を行い、ファンに復帰をアピール。けれどステージの裏ではベッドと酸素吸入器が用意されていたとか。

明けて平成元年、自らの人生を歌い上げるかのような「川の流れのように」が大ヒット。その年の六月、昭和を代表する歌姫は五十二歳の生涯を閉じました。


川の流れのように(一部)

生きることは 旅すること
終わりのない この道
愛する人 そばに連れて
夢 探しながら
雨に降られて ぬかるんだ道でも
いつかは また 晴れる日が来るから


今生きていれば七十歳くらい。当時の力みなぎるライブの映像を見ていると、まだまだ舞台を踏めていたのではないかと思います。この稀代の歌い手に現代の曲も歌って欲しかったものだ、という感想を抱きました。

地下のおみやげ売り場には椅子のたくさん並べられたステージがあり、大画面のスクリーン上でコンサート映像が上演されていました。四十代くらいの時の舞台でしょうか。とにかくパワーに満ち溢れていて、人生にエールを送ってくれる感じです。

ステージトークではかつて共演した男性俳優の名前を挙げて、

「誰々さんも何々さんも、お腹が出てきていいおじさんになってきていますけれど。ひばりは皆さんから元気をもらって、ますます若く!」 とか言ってました。

スクリーンの前の席は、おじいちゃんやおばあちゃんたちによって埋め尽くされていました。

kogeさん情報によると、美空ひばり館が閉館するのは人気が無いからではなく、レンタルしていた衣装などを返却する期限が来たからだそうです。だとしたら、なおさら残念な気もします。

入館時に渡されたパンフレットに書かれていたキャッチコピーは、

「ともに泣き、ともに笑った いくつもの思い出がよみがえる。」

何の思い出も無いのですが、それでも良い場所でした。

あとひとつ、嵐山で見ておきたい場所といえば、「嵐山モンキーパーク」でしたが、これは雨のため次回にまわすことにしました。kogeさんやさとっちさんのお奨めで、山頂まで上がるとちょうど猿に囲まれて人間が観察されるような形になるとか。kogeさんは3回行ったことがあるそうです。次に嵐山に来た時に立ち寄りたいと思います。

西院まで移動して、最後の締めのカラオケ。誰も来てくれず、僕ひとりで行くことになるのではと心配していたのですが、可知さんとさとっちさんが来てくれました。加えて、KGCのmoritamaさんが合流。四人でカラオケ。

川の流れのように」「」「愛燦燦」「真赤な太陽」など、美空ひばりの名曲の数々を熱唱。意外と皆さん、歌えるものです。

すべての予定を貫徹し、めでたく解散したのでありました。

可知さんによる報告

moritamaさんによる報告

Posted by taro at 14:04 | Comments (1)

2006年12月30日

泣き上戸の人と飲みたいのですが。

研究室の忘年会で修士課程生のK谷くんが「みんな、いい人っすよ」としきりに泣いていたのですが、本当に泣き上戸なのかどうかよく分かりませんでした。

今までの人生で「飲むと泣く」という泣き上戸の人と会ったことが無いのですが、泣き上戸の人と知り合いになりたいです。

願わくは十人くらい泣き上戸の人を集めて飲みに行き、僕以外全員オイオイ泣いているという「泣き上戸飲み会」を開きたいのですが。

泣き上戸の人、友達になってください。

Posted by taro at 17:11 | Comments (0)

2006年12月12日

野外百人一首と美空ひばり館(その3)

時雨殿にて百人一首の勉強を終えた我々は渡月橋を渡り、大堰川の中州へ。

いよいよ屋外百人一首を広める活動の開始です。

中州は砂利を敷き詰めた公園になっていて、いくつか屋台も出ています。人通りも多い。

そのど真ん中にござを広げ、札を並べ始めた時。

十メートルほど離れた場所にあったイカ焼きの屋台から、角刈りの親父がずしずしとやってきて、怖い顔で聞いてきます。

「何かイベントするの?」
「あ、はい」
「許可、もらってるわけ?」
「いや、それは……」

途端に親父、態度がでかくなって、

「あかんでぇ、こんな所でやられちゃぁ」
「そうですか」
「当たり前やでぇ。ここ、公園やでぇ、公園。そんなんしたら、あかんやろっ」

それほど屋台に近いという訳でもなかったのですが、視界に入ってしまったのがまずかったようです。

頑固さの代名詞のような屋台の親父を前にしては、さすがの屋外百人一首連盟もたじたじ。

おとなしく引き下がりました。残念です。

そして屋台から見えない場所まで移動し、そちらで実施することにしました。

「我々、個人の集まりではなくて、イベントとみなされたんですね」と、前向きに捉えるKGC理事長の柴田さん。

五十メートルほど移動し、屋台の視界に入らない位置まで来ました。ここは川からもほど近く、眺めは良い場所。人通りもそれなり。

再びござを広げ、札を並べ始めます。

数分もしないうちに、通りがかりのおじさんが立ち止まり、覗き込んできました。

結構百人一首を知っている人のようで、「そんな散らばせて並べない方がいいよ」などと言ってくれます。

アドバイスに従って、競技カルタのように、半分ずつ向き合う形で整えて並べました。

「間にスペースも空けた方がいいよ」というアドバイスを受けて、どんどん本格的に。

いよいよ札を詠み始めようとすると、

「ちょっと待って。しばらく憶える時間をおかないと」と止めるおじさん。

数分間、皆で札の場所を暗記しました。

そしてついに、屋外百人一首大会の開幕。

参加してくれた皆さんは僕の予想を遙かに上回って、百人一首のできる人たちでした。下の句が読まれる前に札が取られることもしばしば。

やがて周囲には結構な人だかりが。

しかし、覗き込む人ばかりで、実際に競技に加わってくれたのは最初のおじさんだけ。

おじさんはかなり積極的で、ござの外に立ったまま、「えーっと」と言って、傘の先で自分の近くにあった札をポイントします。正しい札。

僕らが見つけられない時だけを狙って、合計二枚、取っていましたが、途中で携帯に電話がかかってきて、去っていきました。奥さんから呼び出しでもかかったのでしょうか。

その後も競技は継続。最後の方は一瞬で札が取られる状態が続き、それなりに真剣勝負に見えました。

雨に降られることもなく、無事に最後の一枚まで取り尽くし、最終的に優勝したのはKGC研究員の可知さんでした。おめでとうございます!

Posted by taro at 23:43 | Comments (0)

2006年11月30日

野外百人一首と美空ひばり館(その2)

時雨殿の中に入ると、ポータブルゲーム機のニンテンドーDSを渡されます。
和風なカバーが付いていて、婦人用の財布か何かのようです。

「これは最初のバージョンのDSだね」とH谷くん。

一階には大きな部屋がひとつあり、床には大型ディスプレイが五十個くらい敷き詰められています。その上に表示されているのは京都の上空から撮影した航空写真。

天井にはセンサーが並べられ、各人の現在位置を捉えていて、手元のニンテンドーDSに現在立っている場所ゆかりの百人一首が表示されたり、その方向への案内を出してくれるという仕組み。

途中でカルタ取りモードに切り替わると、各人が自分のDSに表示された札を求めてディスプレイの上を走り回るというゲームになります。

今回参加してくださった中村先生はユーザインタフェースの研究者であり、知り合いから時雨殿が面白いという話を聞いて以来、興味を持っていたそうなのですが、実際に試してみて、

「なかなか良くできていると思いましたよ」とのこと。

今回の企画、学術的な意義も大きかったようです。

また、二階には様々な種類の百人一首が展示されていたのですが、「愛国百人一首」というのがなかなか興味深かったです。

戦争中、通常の百人一首は軟弱だということで、陸軍省や海軍省の後援のもとに作られた愛国的な百人一首です。どんな歌が選ばれているかというと、

 大君の 御旗の下に 死してこそ 人と生まれし 甲斐はありけれ

 身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも とどめおかまし 大和魂

なんだか、熱いです。愛国です。

現在も発売しているのか分かりませんが、かなり遊んでおきたい百人一首です。

愛国百人一首

あいにく時雨殿では販売していませんでした。

つづく。

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注:今週大学構内で行われている国際会議やシンポジウムのためにかなり忙しく、更新が小出しになります……。

Posted by taro at 22:14 | Comments (4)

2006年11月27日

野外百人一首と美空ひばり館(その1)

嵐山に行ってきました。紅葉の見頃ということで、とてつもない賑わい。渡月橋の上は通勤ラッシュ時なみの混雑具合です。

今回の企画の名称は「百人一首と美空ひばりの会」ということで、以下の内容を行う予定でした。


任天堂の学習型アトラクション「時雨殿」にて百人一首の勉強
 ↓
近所の公園でアウトドア百人一首


11月末で閉館する美空ひばり館を見学
 ↓
カラオケで「川の流れのように」を熱唱


嵐山は百人一首発祥の地のようです。今から八百年ほど前、藤原定家という人がこの近所にある山荘の襖に貼るために選んだのがその始まりだとか。

百人一首を一対一で取り合う「競技カルタ」はお正月のテレビ放送でお馴染みであり、次第に知的なスポーツとして認知されつつあるかと思うのですが、我々はこれをさらに開放的なアウトドアスポーツとして発展させるべく、今回の野外百人一首大会を開催する運びとなりました。

八百年の時空を越えて我々は今、百人一首に新しい地平を切り開こうとしています。

正午、渡月橋の北側に集合した我々七名程は、まずは周囲の方々にこの活動を知っていただけるよう、簡単な案内板を作成しました。

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野外百人一首
親善試合

ご自由にご参加ください。

平成18年11月26日
日本百人一首連盟
アウトドア派
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「京都予選、にしておいた方が良くないですか。これが決勝と思われたら、しょぼい団体に見られるかも」

という意見も出ましたが、実際にしょぼい団体なので、偽るわけにはいきません。

段ボール箱の両面に上記のメッセージを貼って、完成。

すぐに試合を始めたい所でしたが、その前に勉強して、モチベーションを高めることにしました。

そこで、今年の一月に新しくできた嵐山の新名所、「時雨殿」を訪問。

任天堂の元社長である山内溥氏が私財を投じて建設した施設であり、百人一首に関する展示や体験型のアトラクションが常設されています。任天堂はもともと京都で花札や百人一首を作っていた会社でした。ちなみに我々が今回の野外大会で使用する百人一首も、任天堂謹製です。

つづく。

Posted by taro at 23:50 | Comments (0)

2006年11月23日

野外百人一首その他の計画

11月26日(日)正午、嵐山渡月橋の北側に集合し、以下のような企画を行いたいと思っています。


任天堂の学習型アトラクション「時雨殿」にて百人一首の勉強
 ↓
近所の公園でアウトドア百人一首


11月末で閉館する美空ひばり館を見学
 ↓
カラオケで「川の流れのように」を熱唱


次第にスポーツとして認知されつつある百人一首のアウトドアスポーツ化に向けて、その第一歩を踏みだそうという試みです。

ご参加いただける場合は、暖かめの服装で来ていただければと思います。

時雨殿

時雨殿レポート

美空ひばり館 公式サイト

美空ひばり館情報

川の流れのように

Posted by taro at 16:25 | Comments (0)

2006年11月19日

嵐山の紅葉、11月末で閉館する美空ひばり館、ニンテンドーDSで百人一首にご興味ありませんか。

今年は紅葉の訪れが遅いということで、ようやく木々も色づいてきたようです。

京都を代表する紅葉の見所といえば嵐山ですが、その嵐山の名所のひとつであった美空ひばり館が11月30日に閉館するようです。
ちょっとだけ見に行きたい気がしています。

また、それと入れ替わるようにして、今年の初め、嵐山には時雨殿という新名所ができました。

こちらは任天堂が作った施設で、ニンテンドーDSで百人一首を遊べるようになっているようです。
任天堂はもともとは京都で百人一首や花札を作っていた会社でした。

今なら新旧の嵐山マニアック名所を共に訪ねることができるのですが、ご興味あるという方、もしいらっしゃいましたら、ぜひ tez@sings.jp までご連絡を!

美空ひばり館 公式サイト

美空ひばり館情報

時雨殿

時雨殿レポート

川の流れのように

Posted by taro at 01:45 | Comments (3)

2006年10月27日

映画版Rentを見てきました。

ブロードウェーミュージカルの映画版、Rentを見てきました。

劇場版を見て以来、かなり好きなミュージカルのひとつで、映画版も楽しみにしていたため、興味を持ってくれそうな人に声をかけて、ぞろぞろと行ってきました。

ミュージカル好きが集まってくれた感じです。
I辺さんはサウンド・オブ・ミュージックがとても好きで、映画版のシカゴも面白かったとのこと。
K村さんはロンドンでオペラ座の怪人を三回見に行ったとか。
文芸同人誌ディオニュソスの知り合いであるT上さんも、僕が言う前から映画について知っていました。
さらに、タイから留学生で僕の研究室で院生をしているNミットさんと、その友達で同じくタイからの留学生であるPoさん。
彼女はいつも僕にタイのお菓子をくれるので、何かの機会に誘おうと思っていたのです。
ディオニュソスのS藤さんも僕が誘った訳ではないのですが、偶然、同じ回を見に来ていました。

良い映画でした。

舞台とはまた別の良さがあって、素晴らしかった。

特に、実際のニューヨークの情景を盛り込むことは舞台ではできないことで、そこに暮らしていないものにとっては雰囲気がよく伝わってきて、理解の助けにもなりました。

また、登場人物の表情によって伝わってくる部分もある。舞台だとそこまではっきりと見えないので。

終了後、木屋町のタナカコーヒーにて感想戦。
話が取り留めもなく進み、どちらかというと雑談会でしたが。

僕は主題歌のSeasons of Loveはもちろん、One Song Gloryという曲が結構好きなのですが、映画版では結構インパクトが弱かった気がします。T上さんには「歌詞が直球過ぎてダメ」とか言われました。

その一方であらためて良いと思った曲は、Finale B。フィナーレの時に二つの曲が流れ、そのうち後の方なので、Finale B。もっと洒落た名前を付けて欲しい所ですが。Life SupportというHIV陽性の人たちが歌う曲のリフレインでもあります。

歌詞はこんな感じ。

There's only us, there's only this.
Forget regret, or life is yours to miss.
No other road, no other way.
No day but today...

まぁ、これもかなり直球な歌詞なのですが。僕はこういう単純な歌詞が好きなのです。

There's only now, there's only here.
Give in to love, or live in fear.
No other path, no other way.
No day but today.

作品全体を通じてのメッセージは、今日を大切に生きろということなのでしょう。劇場版の原作者であるJonathan LarsonはRentがオフ・ブロードウェーで初演される日、突然の大動脈解離で亡くなったそうです。享年35歳。身をもってそのメッセージを伝えている感じです。

ところで以下の写真は昨年、Rentの映画版が公開された頃にニューヨークの街頭で見かけたフリーペーパーです。

トップ記事なのですが、かなりボロクソに書かれています。

RENT STRIKE
What's so bad about the blockbuster musical's big-screen debut? Plenty. Page 19.
PLUS: Five things to do instead of seeing 'Rent'

いったい何が不満なのでしょうか。

Rentにはヘテロセクシャル、ゲイ、レズビアンという三組のカップルが登場するのですが、レズビアンのカップルはなかなか魅力的に描かれている。それと比べて、ゲイカップルの関係がいけていないと批判されています。

By comparison, the gay male storyline fizzles.
... compared to the girls, these guys come across as positively chaste.

つまり、ゲイカップルのいちゃいちゃぶりが足りないからダメ。

ゲイカップルの一方はドラッグクイーンであり、いつも女装しているのですが、それもダメな所らしい。

It's a classic straight man's rendition of queer sexuality: Sure, we'll let the lesbians go at it, but if two dudes smooch, one of them better be wearing a dress.

実はこのフリーペーパー、よく見てみるとゲイのためのフリーペーパーだったりするわけです。

Gay Life Expo (ゲイライフ万博)

とか

Finally, Meeting Gay Men is Easy! (これで簡単にゲイに会えるぜ!)

とかいう広告が並んでいて、さすがニューヨークという感じです。

ニューヨークのゲイに何と言われようと、Rentはいい作品だと思います。

Posted by taro at 01:07 | Comments (0)

2006年10月23日

KGCの合宿企画で講師させていただくことになりました。

未来社会の多様性を高めるシンクタンク KGCの合宿企画で講師に呼んでいただきました。

合宿講座「KYOTO 知的サファリパーク&”本当に熱い研究会”の企画」

他の講師の先生方が錚々たる顔ぶれですので、ご興味のある方はどうかご参加ください。

Posted by taro at 00:02 | Comments (2)

2006年10月17日

最近見た映画の感想 + RENTを見に行きませんか

最近見た映画の感想をざっと。


「日本沈没」

原作の大ファンだというA地下バーのマスターが酷評していましたが (リンク先にネタバレあり)、たしかにちょっと無理矢理ラブストーリーに持って行っている感じがあって、試写会のチケットをくれたうさこさんには申し訳ないけど、B+くらいです。


「日本以外全部沈没」

あの短い原作をよくあそこまで長くしたなぁという点は感心します。上映の情報を教えてくれたmipomipoさんには申し訳ないけど、これも一般の人は見なくていい映画かも。

ところで最近ネット上で行われていた名作SFのタイトルに「以外全部」を挟んでみる遊びは面白いですね。 「虎よ、虎以外全部よ!」 「分解以外全部された男」 「11人以外全部いる!」 が秀逸だと思いました。


「ALWAYS 三丁目の夕日」

感動しました。上映期間中に見に行くことができなくて、一ヶ月遅れで上映してくれる祇園会館で見たのですが、この時ほど祇園会館に感謝したことはありません。ちなみに僕の母方の祖父は芝の大門の生まれで、まさしく東京タワーのお膝元であります。ああいう感じの所で育ったのかなぁと思ったり。


「もしも昨日が選べたら」

はずしまくっているベタなギャグがかなり多く、プロットの運び方にも無理があるのですが、それでも僕は良い映画だと思いました。前半はアメリカのコメディ番組風。後半は少しだけシリアスに、映画的になります。訴えているテーマは臭すぎますが、こういうワンアイデアな映画はかなり好きで、つぼにはまりました。


ところで今、僕が一番見たいと思っている映画はRENT(レント)です。
ブロードウェーで10年以上続いているミュージカルの映画版。

ニューヨークの劇場で見た時も非常に良かったですが、それ以上にブロードウェーの通りの真ん中でその主題歌を聴いた時に感動しました。

ブロードウェーにて

10年間も上演を続けていると、劇場でのキャストはすっかり入れ替わってしまうようですが、映画はオリジナルキャストをわざわざ引っ張り出して撮影したとか。

関西ウォーカーの映画ランキングでも高く評価されていたので、かなり良いのではないかと思います。

もうだいぶ前に一般上映されていたのですが、見に行く時間が取れないうちに終わってしまい、残念に思っていた所、今度、新京極映画祭で上映されることになりました。ありがたいですね、こういうイベントは。

第5回 新京極映画祭

10月22日(日) 18:30 からか、10月25日(水) 21:00 からの回を見に行こうと思っているのですが、こういう映画にご興味のある方、もし良かったら一緒に見に行きませんか。

さらに、見終わった後に雑談会とかも。

ご興味ありましたら tez@sings.jp までご連絡を。

Posted by taro at 21:46 | Comments (2)

2006年09月03日

デジタル逆さめがねを作ってみた。

デジタル逆さめがねを作ってみた。

逆さめがねというのはガラスやアクリルのピースを組み合わせて、世界が逆転して見えるようにする眼鏡である。
上が下、下が上に見えるようにしたり、左右を逆転させたりする。
一週間も掛け続けていると、逆さの状態が正常に感じられるようになり、眼鏡を外した時に世界が反転しているように感じられるらしい。

今回作ろうとしたのは、これのデジタル版である。
光学的な逆さめがねは軽く作るのが大変なのだが、デジタル版であれば頭に付ける部分を軽くできるのではないかと考えた。

現時点で最小クラスのノートPCである Sony Vaio type U。ポケットPC並みのサイズでありながら、Windows XPがそのまま入っている。

Logicool のウェブカメラ。解像度は130万画素。とても軽い。

さらに、Daeyang の i-Visor FX601というヘッドマウントディスプレイ。

とりあえず部品類はこれだけ。

研究室にいたsloth氏、N岡さんに手伝ってもらい、組み立てを行う。
ヘッドマウントディスプレイの前面にセロテープで厚紙を貼り付け、ウェブカメラのクリップで挟む。軽いのでこれで十分支えられる。
さらに、ヘッドマウントディスプレイの後ろに輪ゴムを付けて、頭に固定する。
type U の本体やケーブル類は首からかけるポーチに入れる。

ビューアはとりあえず NetMeeting を使うことにした。
左右反転や上下反転はウェブカメラの設定で簡単にできる。

かくしてデジタル逆さめがねの完成である。

研究室の中をうろうろしはじめるsloth。

「よく歩けるなぁ」
「この場所を知っているからというのもある。問題はね、ちょっと外が見えちゃうんですよ」

顔とヘッドマウントディスプレイの隙間から正常な世界が見えてしまうという問題。

「そしたら、ブルカだ」
「何かかぶればいいんだね」

紙袋で頭を隠すようにした。

小さな穴を開けて、ウェブカメラだけ外に突き出すようにする。

最初、眼鏡全体が出るくらいの穴を開けてしまったが、実はその必要はまったくなくて、ウェブカメラのレンズだけ突き出せば良いということに気がついた。大きな穴は後ろに回すようにした。

「これでどう?」

机にごつんごつんとぶつかり始めるsloth。うまく行っているようである。

「電話、取れる?」

反対方向に手を伸ばす。

ホワイトボードに字を書いてみる。
頭で憶えているので、短いフレーズは簡単に書けるようであるが、図を描くのが難しい。
日本地図はぐじゃぐじゃ。

ここで面白い発見。
小さい頃に左利きを右利きに矯正したというN岡さんは、逆さ文字を猛烈な速度で書ける。すごい特技だ。左利きから矯正した人はみんなできるのだろうか。

三人で夕刻の街に繰り出す。

バス停の前の人々が怪訝な顔をして我々を見ている。

逆さめがねの実験をしているようには見えないだろう。単に、紙袋をかぶった変な男である。

ウェブカメラの小さなレンズをふさぐと見えなくなってしまうというのが面白い。

柵などにごつごつぶつかりながら、歩道を歩く。

次第に暗くなってくる街並み。

「白黒だよ」

暗すぎて風景がほとんど見えないらしい。

「赤外線カメラにしたい」

たしかに。

「今、サイボーグみたいな感じ?」
「3Dのゲームを始めたばかりで、足取りおぼつかなく歩いているという感じ」

オフィスは河原町二条にあるため、そこから河原町通りを南に向かって歩く。

「ノイズがすごい」

暗いためカメラ映像にノイズが入ってしまうのだと思う。

「月は見える?」
「見える」
「欠け方は?」
「そこまでは分からん」
「半月なんだけど」

明るすぎる光源は円形になってしまい、形がよく分からないのだと思う。

最初は左右反転にしていたのだが、途中で上下反転に切り替える。

「左右反転の方が難しい」

これは僕も以前、同じ感想を抱いた。上下は頭の中で変換しやすいが、左右は難しい。

京都市役所の前の広場に出た。

ここで僕に交代。

たしかに暗い。ウェブカメラには集光力に限界がある。
細かい光の線のノイズが入り、ホラー映画の呪いのビデオみたいである。

さらに、ビューアが全画面表示になっていないため、カメラ映像の周囲はWindows。
呪いのビデオ的な世界と、その周囲のデスクトップのギャップが著しい。

サイボーグの出てくる映画で時折、視野の周辺にそれらしき計測メーターなどが出ていたりするが、今後現実にサイボーグが作られるとしたら、視野の周辺はWindowsになるのではないか。

御池通の向こう側、寺町のアーケード入り口がまるでルミナリエのように光り輝いて見える。
輝度の調整がうまくできていないため、明るい所は強調され、他の部分は暗い。

しかし、黄昏時の青い光が全体を満たしていて、白黒というより、記憶の中のディズニーランドという感じ。
安っぽいドラマの回想シーンとか。

夕焼け空はしっかり見える。足下は暗い。

「バッテリが切れかけています」という表示が出る中、まだまだ歩く。

ごつんとぶつかる。
歩道と車道の仕切り用のポールだった。
危ない高さだ。

カメラのレンズの関係で、離れているものがかなり近く見える。
たとえば車がものすごく近くを走り抜けていくように感じられる。ちょっとスリルがある。

「寺町に行こう」

アーケードなので、明るいはずである。

寺町御池の交差点に差し掛かった時、slothとN岡さんが誰かと話し始めた。

「何してるんですか?」
「ちょっと実験を……」

ウェブカメラ越しには誰だか分からない。ただ人影が立っているだけである。

「無視して通り過ぎようかと思ったのですが……」

秘書のIベさんであった。自転車で通りがかった所らしい。

「これはデジタル逆さめがねといって、世界が反転して見えるんです」

かぶってもらった。
ノリが良くて素晴らしい。

「アーケード綺麗でしょ?」
「綺麗ですね」

よろよろと歩くIべさん。

「あ。真っ黒に……」

バッテリ切れで終了。

なかなか興味深い実験であった。

次回はもっと明るい時間帯に行うことにした。

色の反転や視野の拡大など、通常の逆さめがねで行えないこともいろいろ試してみたい。

このデジタル逆さめがねの泣き所は、ウェブカメラの解像度が十分高くないため、小さな字を読めないことである。
そんな状態で一週間生活することなど、不可能である。
通常のDVカメラをくっつけるという方法もあるが、重くなってしまうだろう。
あるいはもう少し待てばウェブカメラの解像度も向上し、もっと良いものが作れるかも知れない。

Posted by taro at 07:33 | Comments (6)

2006年08月07日

ドクターフィッシュに足の皮膚を食べさせてきました。

人の皮膚を食べる魚、ドクターフィッシュを体験してきました。

トルコの温泉に生息し、昔から皮膚病治療に使われていたという魚。最近日本でも体験できる場所が増えてきて、ちょっとしたブームになっているようです。

京都では嵯峨野にあるスーパー銭湯「天山の湯」が導入しているということで、何人かで連れ立って行ってきました。

年間の最高気温を記録したという暑さの中、自転車で京福電鉄の有栖川駅に乗り付けると、ホームのベンチでベク成さんとO本さんが待ってくれていました。

京福電鉄は京都の嵐山や北野白梅町、四条大宮を結ぶ路面電車で、夏の日差しに蒸されたアスファルトの上を走る姿は何とも雰囲気出ています。改札は無いため、僕もホームに上がらせてもらいます。

ベク成さんとお会いするのはこれが初めて。
京都の大学に通う一回生。自宅は尼崎で、今日はこのためにはるばる来てくれたとのこと。
高校生の頃、推理小説をよく読まれていたそうですが、ある時、安部公房の「箱男」を読み、それまで読んできた本とあまりにも違ったために衝撃を受け、それでいて面白かったのでウェブでいろいろ検索していたところ、僕が街角で箱男をした時の報告文を見つけ、しばらくブログを読んでくださっていたそうです。
そして今回、ドクターフィッシュの会に参加したいという連絡をくれたのです。

O本さんとは、うんこの産業利用を検討する会で知り合いました。そのイベントを開催したKGCという団体でスタッフをしている大学三回生。

しばらく待っていると、kogeさんが電車で、moritamaさんが自転車でやってきました。kogeさんとは昔からの知り合い。現在は神戸市の中高一貫校で教師をされています。moritamaさんはO本さんと同じ、KGCのスタッフ。大学二回生。

駅から「天山の湯」はすぐ。スーパーの大黒屋やユニクロが並ぶ商店街の一角に立っていて、独特のロケーションです。

ちょうど僕らが着く頃に、バイクでキジさんがやってきました。

広々としたロビーを抜けて受付に赴き、ドクターフィッシュ体験を予約。人気のため、一時間待ちです。

その間、お風呂を利用します。最近のスーパー銭湯はいろいろ機能が充実してきているので、なかなか楽しめました。強烈な水流を放つジェットバスや、美濃焼の釜風呂など。年々進歩している気がするので、十年後のスーパー銭湯がどのようになっているのか、興味が持たれる所です。

時間が来て、ドクターフィッシュ体験へ。
ふやけて柔らかくなった皮膚の方がドクターフィッシュに好まれるらしいので、お風呂に入る時間があったのは好都合でした。

男湯と女湯が分かれる手前に足湯があり、そこにドクターフィッシュが入れられています。
数百匹以上いるでしょうか。
足湯は一度に六人まで利用できます。
すでに先約もあったため、我々は三人ずつに分かれての利用。

足を入れると、予想していた以上に素早く群がってきます。
十匹から二十匹、足のまわりにまとわりついて、皮膚をついばみ始めます。

非常に小刻みに囓るため、まるで微弱な電気を当てられているかのようにぴりぴりします。
爪の付け根の皮膚が非常に好きのようで、そのまわりにたくさん集まってくる。

「やっぱり、皮膚がたまってるんですかね?」
「足の裏はあまり食べられないな。堅いのかな」
「ささくれを囓られました」

年取った人の皮膚ほど好まれる、という情報がありましたが、少なくとも今回の参加者の間ではあまり差が出なかったようです。

しかし、面白いことに、我々の隣に座っていた家族連れのうち、幼稚園くらいの女の子の足には全然寄ってきていませんでした。子供の肌というのは新鮮で、ドクターフィッシュに好かれないのでしょうか。

受付の人にドクターフィッシュには皮膚だけを食べさせているのか聞いたところ、
「ええ、他の餌はやっていません」と言っていました。

つまり、人間の足の皮膚だけを食べてこの魚は育っているということ。

何となく、すごい。

自分の皮膚が魚になるということに生命の神秘を感じます。

もちろん、たとえば蚊なども人間の血で作られているようなもので、そちらも神秘なのですが。

人の足の皮膚だけを食べて育ったドクターフィッシュを天ぷらなどにしたら、罰ゲームに使えそうと思ったのですが、足湯の横に貼られている新聞記事に「一匹7,000円で購入しました」などと書かれていたため、受付の人に提案する気持ちがくじけました。

足湯の横の水槽に、大きめのドクターフィッシュが入れられています。現在は繁殖期らしく、大きい方が小さい方を食べてしまうため、分けているとのこと。

僕が水槽を覗き込むと、「きっと鯉の仲間ですね。ヒゲがある」とベク成さんがコメント。
かつて熱帯魚を飼っていたそうで、ドクターフィッシュに関しても、去年の十月頃、日本に入荷されたという記事が専門誌に載っていたのを見かけたとか。

実際、ドクターフィッシュはコイ科に属する魚のようです。
学名はガラ・ルファ。

熱帯魚用の餌も食べるらしく、熱帯魚を育てられる人であれば、飼育と繁殖はそれほど難しくないのでは、というのがベク成さんの意見でした。もしどなたか飼育されている方がいらっしゃいましたら、ぜひ遊びに行かせていただきたいです。

ドクターフィッシュ体験を含めて二時間ほどスーパー銭湯に滞在した後、渡月橋まで移動し、嵯峨野を散策。化野念仏寺まで歩きました。

ここは無数の小さな墓石が並べられていることで有名な寺。昔、このあたりは京都の人が死者を埋葬をする場所だったらしく、お参りする人もなく野原に散らばっていた無縁仏の墓石を明治の頃に一箇所に集めたのだとか。

たまたまこの日は八月六日、かつて広島に原爆が投下された日ということで、そんな話題に。

キジさんのおばあちゃんは広島の人だったそうで、親戚の優秀な人たちも皆原爆で死んでしまい、とても原爆を恨んでいたとか。

moritamaさんの実家のある東京の町田では、毎年八月六日、九日、十五日にサイレンが鳴らされ、戦争で死んだ人たちを追悼するそうです。

日が暮れる頃、嵐山駅前まで降りてきて、川沿いの土産物屋でお茶などし、他の皆さんと別れた後、moritamaさんと二人で自転車に乗って嵐山をもう一周。

天龍寺の横の池では見頃を過ぎた蓮が実を付けていました。

華やかな蓮の花とはだいぶ違い、蓮の実はなんとも気持ちの悪い形をしています。

「ちょっと前に、蓮の実画像っていうのが流行ってましたよね。人の体の写真に蓮の実を埋め込んだりすると、すごく気持ち悪い。これってどうしてなんでしょうね」とmoritamaさん。

蓮コラあるいは蓮イボと呼ばれている画像で、実際、かなり気持ち悪いです。

そもそも蓮の実自体、若干の気持ち悪さがあります。円が一定の間隔で並んでいるだけなのに。間隔がこれより広ければ気持ち悪くないだろうし、狭くても気持ち悪くない。

イボや湿疹など、皮膚にできる異物を嫌う感情から来ていると思うのですが、それがほとんどの人にとって気持ち悪く、生後の学習によって身につくものでもないとしたら、人の遺伝子のどこかにその感覚を生み出す源があるということでしょう。つまり、脳のニューロンをそのように結びつける情報があらかじめ備わっているということ。

昔から、本能というものが遺伝子にコードされているということはすごいなと思っていました。(文化的に身につくものだとした場合、「文化の中にコードされている」と考えるのも面白いと思いますが)

動物の習性、たとえばドクターフィッシュが皮膚を食べるというような行動も、遺伝子にしっかり組み込まれているわけです。

以前、この話を知り合いの小関悠に言ってみたところ、

「でも、僕は強化学習のプログラムを書いた時、すごいと思いましたけどね」

と言われました。

なるほど。そう考えてみるとたしかに、進化という学習アルゴリズムによって最適な行動が塩基対にコードされること自体は不思議ではないのかも知れない。

むしろ不思議な所は、タンパク質への転写というシリアルなプロセスからニューロンの配線という空間的な「形」が作り出される部分なのかも知れません。

コンピュータのプログラムであれば、命令の連なりによって計算が進められていく流れを理解できるのですが、タンパク質の合成から生物の形が作られる過程がよく分からないので、すごいことのように思えるのでしょう。

発生において組織が的確に作られるのと同じレベルの不思議さなのかも知れないと思いました。

kogeさんによる報告

小さいドクターフィッシュを販売

大きいドクターフィッシュを販売

輸入業者。ビジネス目的であれば、全身ドクターフィッシュ体験ができるかも?

Posted by taro at 23:56 | Comments (8)

2006年07月25日

魚に足の皮膚を食べさせる + 閉館間際の美空ひばり館、行きませんか。

京都を代表する観光名所のひとつ、「嵐山・美空ひばり館」が今年11月で閉館するようです。

美空ひばりゆかりの品々を展示している他、大スクリーンで「川の流れのように」の熱唱が聴けるそうです。

行ったことないので、行ってみたいです。

一方、嵯峨野にあるスーパー銭湯「天山の湯」では、皮膚の古い角質を食べてくれることで有名なトルコの魚、ドクターフィッシュ入りの足湯を導入したとか。
美容や癒し目的で最近人気だそうです。

魚に足の皮膚を食べられる独特の感覚を堪能してみたいです。

奇しくもこの二つの注目スポットはそれなりに近接。

今度、二つ合わせて行ってみたいと思っているのですが、ご興味のある方、一緒に行きませんか。

両方に興味のある人は少ないような気もするので、どちらか一方でも。


さがの温泉 天山の湯 ドクターフィッシュ

美空ひばり館 公式ページ (←閉館に先立ってウェブページがすでに閉鎖されているのが潔いです)

美空ひばり館 外観 (←錯視の研究で有名な北岡先生の撮影だったりする)


「ドクターフィッシュ料理の店」とかあれば、究極のゲテモノとして話題を集めるかも知れないですね。

Posted by taro at 23:04 | Comments (6)

2006年06月17日

メイドカフェで読書会のような集まり

大阪や京都でメイド喫茶を何軒か訪ねたが、いずれも普通の喫茶店にメイドさんを置いたという感じで、あまり満足のいくものではなかった。

やはり、メイドカフェの神髄に触れるためには、本場秋葉原まで行かなくてはなるまいと思い、東京に住む友人たちに声をかけた。

僕は常々喫茶店で読書することを最大の楽しみのひとつとしているので、
「メイドカフェで読書会」という企画になったのは自然な流れである。

単純に、他の人たちがどんな本を読んでいるのかも知りたい。
知り合いは基本的に面白い本を教えてくれるものである。

秋葉原駅の電気街口で待ち合わせ。
定刻に集まったのは僕を入れて七名。

小関は大学の頃の知り合いであり、今は東京で働いている。
学生時代はたしかビデオをマンガに変換するシステムを研究していたはずだが、それ以外にも自分のウェブサイト上でいろいろ面白いアプリケーションを公開している。
今日は会社帰りということで、スーツ姿である。

ただよしは高校の頃からの友人で、ソフトウェア工学の研究室を修了し、現在はプログラマーとして働いている。

サコも同じ高校の出身で、学年はひとつ下なのだが、最初は出版系の会社に就職し、今はコンサル系の会社にいるとか。
昔、一緒に北朝鮮に行ったりした。

C嬢は小関のネット上での知り合いであり、僕とは初対面。
リアルな関係としては、小関が昔所属していた劇団の団長の彼女の友達、ということになるらしい。
大学院生で、コンピュータを利用した協調作業支援(CSCW)の研究をしているそうである。

玄米嬢とは京都にいる頃、おいしいものを食べに行く会で知り合ったのだが、言語に興味があるということで、東京に行って外大に入り直して、大学三年生をしている。何を勉強しているのかと聞いたら、翻訳ソフトを作っている研究室の授業でPerlの勉強をしているらしい。
最近は外大でプログラミング言語も教えているのか。

全般的に今日の参加者はプログラミング系が多い。

残る参加者は僕の祖父、ぶうじい。
母方の祖父なのだが、いつも赤い車(赤ぶーぶー)でどこか連れて行ってくれるので、僕がぶうじいと呼び始めたのだそうだ。
もともと海軍の学校にいたとかで、電気系の工作が好きであり、僕が小さい頃、秋葉原によく連れて行ってもらった。
当時の秋葉原は(今でもそうだが)電子部品のショップが連なる工作少年にとっての楽園だったのである。
そして二十一世紀。
変わり果てた秋葉原の姿を見てもらうためにも、今回の企画に誘ったという次第。

「祖父のぶうじいです。今、いくつになるんだっけ?」
「年のことはもういいよ」
「それじゃ、祖父は昭和二年生まれなんで、計算してください」

今も現役で神田で働いている。仕事が保険の代理店なので、定年がないのである。

中央通りから神田明神通りへ、電器店のまばゆいネオンの間を抜けて、通りに面した細いビルにたどり着いた。

今回訪問するのは、メイドカフェ業界では有名な店という「@ほ~むカフェ(あっとほーむかふぇ)」。

秋葉原通の高校時代の友人から教えてもらった。

ビルの七階にあるのだが、六階は同じ@ほ~むカフェのオリジナルグッズの専門店らしい。

五階も同じ系列の店で、「女中茶房」という看板が出ている。和風のメイドカフェなのだろう。
四階はメイドさんによるボディマッサージ。
一階から三階まではドスパラというパーツショップである。

エレベータで七階まで上がった。
小さいビルなので、ワンフロアをメイド喫茶が占有しているわけだが、それでも店内はすごく小さい感じ。
すぐにメイドさんが出てきて、

「すみません、今、満席なので、こちらにお並びいただけますか」

白地のシャツの上に茶色の上着とスカート。
結構、控えめな服装である。オーソドックスなメイドさんという感じ。

噂には聞いていたが、喫茶店で並ばされるというのがすごい。

「交代制なんで、そのうち空くと思いますよ」と小関が言うので、待つことにする。

入り口のガラス戸の上に、ポスターやイベント告知やらがべたべた貼られている。
DVD発売のお知らせもある。

入店者への注意書きがあった。

・メイドさんに触らないようにしてください。
・メイドさんに言い寄らないでください。
・メイドさんにしつこくシフトなどを聞かないでください。

などなど。

シフトを聞かないでください、というのがかなり具体的で笑える。
ストーカーさんの姿が目に浮かぶ。

写真撮影は、店の前でも中でも禁止。
写真好きの玄米嬢が一枚撮ろうとしたところ、すぐさまメイドさんが出てきて、
「お嬢様、お写真は禁止になっております!」と、甲高い声で言われた。

店の外の階段に列を作って並びながら、僕は祖父にしみじみと言ってみる。

「どう、この日本のだらけた姿」
「いやー」
「ぶうじいの友人たちが命をかけて守った日本が、今はこんな風に……」

ふたたびメイドさんが出てきて、「ご主人様、お嬢様、もうしばらくお待ちください!」と、かわいらしい声で言う。

「でも、昭和の初期にも、女中さんのいるカフェとかあったのかな。『カフェー』とかいう」
「ああ。あったね」

女中じゃなくて、女給だった。

話しているうちに、他の客も集まってきて、列はさらに長くなった。
結局10分ほど待たされたが、
今までにも何度かメイド喫茶に行ったことがあるという小関によると、「これは待たされない方ですよ」。
平日の晩だったのが良かったのかも知れない。

いよいよ入店。店に入るなり、メイドさんたちが声を張り上げる。

「おかえりなさいませ!」「おかえりなさいませ!」

黄色い声で歓迎してくれる。

そのまま奥のテーブル席に通される。

店内はそれほど広くない。30人も入ったら満席という感じ。

内装は案外普通である。
小綺麗ではあるが、普通の喫茶店と大差ない。
本家秋葉原でもこんな感じなのか。

だが、奥にカウンターとステージがある。
テーブル席は座席代が500円、カウンターは300円で若干安く、しかもメイドさんとゲームができるという特典がある。
ただし、一回につき500円。
ゲームを遊んでもらうにも、結構お金がかかる。

見た感じ、カウンターにはひとりで来ている人も多い。
メイドカフェで発見されることが期待されるような人々である。

一方、テーブル席の方は、我々のように、興味で来ている人間が多いような気がする。
我々の隣のテーブルは、女性ばかり三人連れである。

メニューは普通の喫茶店とあまり変わらないが、
「お気に入りのメイドさんが作ってくれるカクテル」など、付加価値の高い商品がいくつか置かれている。

さらに、オリジナルのBGMが流れている。
時折、

♪おかえりなさい、ご主人様~

というフレーズが意識下に顕在化される。

テーブルの上に金色のチャイムが置かれていて、これを鳴らしてメイドさんを呼ぶのだが、なかなか緊張する。
そのような偉ぶった態度を取ることに慣れていない。

「インドネシアに赴任した商社マンの家族とか、家に女中さんがいるらしいんだけど、奥さんは今まで女中をつかったことが無かったりするから、苦労するらしい」
「なるほど。人をつかうのにもコツがいるわけですね」
「だからこういう所で練習しておく」

チャイムの音を聞きつけて、メイドさんが飛んできた。
そして床に膝をつく。
これが注文を取るポーズ。
膝が痛そう。気兼ねしてしまう。

そのメイドさんは非常に物腰柔らかく、好感度の高い人であった。
何人か、特に、入り口で列の整理をしていたメイドさんなどは非常に性格がきつそうな感じであった。
メイドさんには向いていないのではと余計な心配をしたが、
ひょっとしたらそういうのが好きな客もいるのだろうか。
巷ではツンデレ(ツンツン+デレデレ。最初はツンツンしているが、ゲームが進むにつれて急にデレデレしてくれるという、美少女ゲームの典型的デザインパターン)が大流行と言われているが。

客のひとりがステージに立って、メイドさんと並んでポーズを撮り始めた。
楽しげである。
一枚500円だそうである。

カウンターに座った別の客は、メイドさんと「黒ひげ危機一発」(樽にナイフを差していくうちに海賊が飛び出るおもちゃ)で遊んでいる。
この客は、ひとりで来ているっぽい。
暗く楽しんでいる感じである。

ウェブ制作の会社を経営しているyuko嬢が遅れてやってきた。

さらにしばらくして、大学のゼミが長引いて遅れたというAz嬢もやってくる。
最近、新聞社との共同研究に関わっていて、新聞がなぜ読まれなくなっているのかを調査しているとか。
アンケート票の作成を担当し、質問項目を決める仕事をしているらしい。
その打ち合わせが長引いて、今日は遅れたのだそうだ。

ぶうじいが言う。
「僕は終戦の時、厚木の航空隊にいて。特攻隊の順番を待っていたんだよ。最初に行った連中から、沖縄の海に散ってしまってね。だから僕が死んだら、灰は沖縄の海に撒いて欲しいって言ってるんだ」
「ぶうじいって、このメイドカフェに来たお客の中で、最年長なんじゃないの?」とただよし。
「そうかも知れない」

「最近思うのはね、一期一会ですよ」とぶうじい。「地球に数十億人の人がいるけど、実際に会って話せるのは数百人でしょ。だから、ひとつひとつの出会いを大切にしなくちゃいけないって思ってね」

メイドさんが料理を持ってきた。小関にオムライスを差し出しつつ、

「オムライスです! ケチャップで『萌え』と書いてあります!」

と、鼻に掛かった声で言う。

「ちょっと、トイレ行ってくるわ」

何に緊張したのか、ただよしがトイレに行く。
その間にメイドさんがやってきて、ただよしが頼んだ紅茶を置こうとしたが、不在のため、

「こちらのご主人様は……」

と、かわいらしく首を傾げる。

「ちょっとトイレに行ってるみたいですね」
「それじゃ、また来ます」

その場でメイドさんが注いでくれるというのがひとつのポイントらしく、ポットを持ったまま帰っていった。

メイドさんが言ったセリフを小関が面白がって言う。

「ご主人様がたくさんいるっていうのも、変な感じですね」
「あちらのご主人様、こちらのご主人様か」
「混んでいる時は、『申し訳ありません、ご主人様、今日は満席です』って言われるらしいですよ。自分の家なのに、入れない……」

メイドさんたちは客に呼ばれるたびに店内を走りまわり、大変そうである。

「メイドさんの声、かなり独特ですよね」
「きっとボイストレーニングしてるって」
「してましたよ。この前のぞいたら」
「努力しているんだ」
「でも、おっちょこちょい系のメイドカフェというのもいいかも。よく失敗するの」
「それ、いい」yuko嬢とAz嬢の意見が一致する。

「秋葉原なんて、メイドカフェができるまでは女の子ひとりでこれる場所じゃなかったですよ」とyuko嬢。
「そうですね。僕はアキバってのは人とよくぶつかるなぁという印象があって……。こうやって両手に荷物持って、下向きながら歩いている人ばっかという感じで」とサコ。
「そうか。人間関係の距離の取り方が分からない……」

ずいぶん毒舌家な皆さんである。

メイド姿の女の子がたくさん歩きまわることにより、コスプレの人も増えてきて、
女の子が気安く歩けるようになったというのはあるのかも知れない。
メイドカフェは秋葉原の活性化にも大きく貢献しているのか。

今回の集まりの本来の趣旨は「メイドカフェで読書会」であったため、それぞれ持ってきてもらった本を見せてもらう。

今読んでいる本か、お気に入りの本を持ってきてもらうようにお願いしている。

小関は「ドルードル」という文庫サイズの本を持ってきていた。

「これ、手塚さん好きそうかなと思って」

各ページに大きく図形的な絵が示されていて、その横にユーモアのある説明が書かれている。
絵を使ったなぞなぞ、という感じ。
かなり独特なジャンルであり、これを最初に考えた人は賢いと思った。

ぶうじいは「昭和史」という白い表紙のハードカバーを持ってきていた。
半藤一利さんという人の本。著者のサイン入りだった。
するとサコが急に姿勢を正して、「おお。この人は僕の中で五本の指に入る名文家ですよ」
「それじゃ、これをあげるよ」とぶうじい。
「え。いいんですか」
「うん」

ただよしはMBA(経営学修士)に関する本を持ってきていた。「いろんな意味で使えるかも知れないと思って」

そしてさらに、自分が最近、Java Press に書いた記事も持ってきてくれていた。
JakartaのTomcatのソースコードを読もう、という内容。
「あー、これは読みたい」と、C嬢。
連載記事で、それ以前にはJUnitやStruts、eclipseのソースコードを読む記事を書いたらしい。
それらをまとめた本が近々出版されるとか。
ソースコードの美しさについて広く知ってもらうことがただよしの最近の目標らしい。ソフトウェア美学。

サコは中上健司の「岬」を持ってきていた。今、読んでいるところだという。これで妹系カフェだったりしたら誤解を招く。

Az嬢のお奨めは、オーストラリアで博打によって生計を立てている著者による「無境界家族」という本。
本人はとても落ち着いて洗練された上品な雰囲気の人なので、「似合わない!!」と、皆から言われていた。

C嬢は読書会向けの本は持ってきていなかったが、たまたま鞄にオライリーの Flash Hacks が入っていた。
彼女、未踏ソフトウェアに採択されたという、かなりの才媛であることが分かった。
未踏ソフトというのは情報処理推進機構(IPA)が行っている事業であり、
面白いプログラムを開発する人やグループに資金提供し、日本の技術力を高めようという試みである。
金額が大きい上に、予算を何に使ってもよく、報告書は一枚でもいい。とにかく面白いものを作ればOK。
ソフトウェア開発者にとっては実に魅力的なプロジェクトであり、年に何十件か採用されるが、非常に倍率が高い。

「そのオライリーの何々Hacksのシリーズで、最近出た……」と僕が言うと、
「あ、分かります」
Mind Hacks
「そうそう」
「かなり面白いよね」

ただよしと小関が賛同し、「買おうと思ってるんです」と言う。

「こうやって片手と机の両方を同時に叩かれるというのを続けた上で、机の方だけを急に強く叩かれると、手も痛く感じるという」小関が説明する。「これとか、面白いですよね」

先日、イギリスのエディンバラに行った際、カメラ・オブスキュラという百年前からある観光施設を訪ねたのだが、
屋上に鏡を設置して街の風景を暗室のテーブルの上に映し出すという、現代ではちょっと地味すぎるメインアトラクションを補うためか、
「錯覚で遊ぶ」という体験型の展示がたくさんあって、そちらの方がずっと面白かった。

「お台場の日本科学未来館の五階にもそんな展示がたくさんありますよ」と小関。
今度、行ってみたい。

「手塚さんと昔、催眠術研究会にも関わってましたよね」と小関。
「やったやった。またやりたい」

僕が持ってきたたくさんの本の中に、ダニエル・デネットの「解明される意識」というのがあったため、紹介する。

「この人、もともとは進化論とか論じていた人なんだけど、意識の流れに関しても同じようなモデルが適用できないかというのを議論していて。『自分』という意識は実は脳の中にいくつも並列で存在していて、その中で役に立つ意識、適応した意識だけが生き残っていくという考え方で」
「つまり、秒単位でスレッドが分かれて……」
「そうそう。良い思いつきをした自分は生き残るけど、ぼーっとしていた自分は消えていくとか」
「ラマチャンドランの『脳のなかの幽霊』、読まれました?」と小関。
「持ってるけど、まだ読んでない」
「見えているという自覚が無いのだけど、実際には見えているので生活できる人の話とか。いろいろ面白いですよ」

僕はその他にもいろいろ本を持ってきていたのだが、
小さい頃読んだ「もっとたくさんの怖いお話」という本の中にある「窓際のベッド」という話が印象に残っていて、
非常に短いため、全体を聞いてもらった。

みなさん面白いと言ってくれたが、儀礼上そう言った可能性もあり、実際どう思ってもらえたのかよく分からなかった。

これは僕の人生で一番印象に残っているショートストーリーのひとつである。

照明が落とされ、ミラーボールが回り始めた。
ステージの上にメイドさんが二人立って、マイクを握って「これからじゃんけんゲームをします!」と声を張り上げる。
勝った人は記念コインがもらえるらしい。

じゃんけんの手を出す前に振り付けがあるらしく、ステージに立って実演してくれる。

「まずは両手を合わせて輪を作ります。これが@ほ~むカフェの、@のマークです」

オリジナル振り付け。

「さらに、こうやって猫耳を作りながら、掛け声は、『萌え、萌え』です!」

「萌え! 萌え!」

客たちが練習する。

「それじゃ、行きますよ!」

我々も童心に返った気持ちで猫耳を作り、『萌え、萌え』とポーズを取る。

「じゃんけんぽん!」

yuko嬢だけ予選を勝ち抜き、決勝でステージに立ったのだが、あえなく他の客に敗れて、すごすご帰ってきた。
だが、メイドさんたちに囲まれて舞台に立ったその姿はなかなか堂々としたものであった。

店は90分交代制である。やがてメイドさんが来て、丁寧に僕らを追い出そうとする。

「そろそろおでかけの時間です」

名残惜しみつつ、店を出た。

読書会と言いつつ、お喋りばかりしていて、自分の好きな本を紹介するだけの会になってしまった。
だが、面白い本をいろいろ見せてもらえたのは良かった。

熱烈に多弁な面々の中にあって、玄米嬢は自分の本を出すタイミングを逃してしまっていた。
あとで聞いてみたところ、エドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」という本を持ってきていたらしい。

「若い人と話せて面白かったよ」とぶうじいが気前よく全員分の代金をおごってくれた。

もう一軒、別のメイド喫茶に行こうかとも思ったが、その時点ですでに21:45。メイド喫茶はだいたい22:00閉店ということで、普通の喫茶店に入り、さらにお喋りした。

「この前、ゼミでPodCastingの普及策を考えるというのがあって」とAz嬢。
彼女のグループは「携帯型の恋人」という案を出したという。

「こうやって画面上に女の子の映像が表示されて。『光香、お散歩行きたいな』。街を歩いてる時に、『あー、光香、カフェオレ飲みたいなー』とか言って、『それじゃ、飲むか。カフェオレ、二杯ください』とか」
「デート気分を味わえると」

プログラムのくせに、すごい主体的な女の子であるところがポイントか。
「山歩きの好きな女の子」とかを買ってくると、減量効果があるとか。

「そういうのって、男性が持っていても違和感ないけど、女性が持っていたらすごく奇妙な感じしますよね。なぜだろう」というのが僕の疑問。
男性の方が妄想好きということだろうか。

yuko嬢の弟は妹系カフェにはまっているらしい。

「妹系カフェならいいですけど、お姉さん系カフェにはまっていたりしたら、姉としては気持ち悪くないですか?」
「どうでしょう?」

僕には妹がいるので、僕が妹系カフェにはまったりしたら、妹としてはすごく気持ち悪いのではないかと思う。

「妹がいる人は妹系カフェにはまらないんですよ」と小関。
それはあるかも知れない。

「付き人カフェとか、どうですか。力士が付き添ってくれるの」と、相撲ファンのサコ。

「教授カフェとか」と小関。
「教授がお茶注いでくれるの?」
「いや、教授になった気分を味わえるという。学生に『君、論文は書いているのかね』と言えるとか」
「マニアックだな」
「それじゃ、サラリーマン向けのは秘書カフェというのは?」
「ノートPCを持ち込んだりしたら、仕事がはかどるかも知れない」
「池袋には、ひつじカフェがあるらしいですよ」とC嬢。
「ひつじカフェ?」
「ええ。ひつじカフェ」
「ひょっとして、執事カフェですか?」
「そうです。ひつじカフェ」
「Cさん、東京の出身?」
「ええ。中野とか練馬を転々としてましたけど」

生粋の東京人は本当に「ひ」と「し」の区別ができないのだなと、ちょっと感心した。
僕もサコもただよしも、東京出身とは言っても西の外れ、三多摩の生まれである。
「三多摩は戦前は神奈川でしたから」とサコが補足。そうだったのか。

その他、「こんなカフェがあったらいい」という夢を語り、議論は深夜まで及んだ。


小関による報告

Posted by taro at 23:40 | Comments (12)

2006年05月19日

メイドカフェで読書会しませんか。

京都でも大阪でもメイドカフェに行ってみましたが、
内装があまり凝っていなくて、
ただの喫茶店にメイドがいるという感じで、
満足のできるものではありませんでした。

そこで、ブームが去ってしまう前に、本場・秋葉原でメイドカフェに行き、
しかもただ行くだけではなく、
メイドたちに囲まれながら、
じっくり読書をしたいのですが、
どなたか一緒に行きませんか。

6月7日-8日、および6月13日-14日あたりに東京に行く予定なので、そのあたりの夕方、
お時間のある方いらっしゃいましたら、ご連絡ください。

Posted by taro at 18:44 | Comments (7)

2006年05月03日

パソナの地下農場見学

東京のオフィス街の地下に、農場がある。
人工的な光を当てて、米や野菜を栽培しているとか。

人材派遣会社のパソナが農業分野への人材派遣を目指し、
多くの人に農業に親しみを持ってもらうことを目的として、
体験農場というのを運営しているのである。

都市における就職難と農村における人材不足を共に解決してしまうという、大変興味深い目標だと思う。

ぜひ行ってみたいと思い、ブログなどで宣伝してみたところ、興味を持ってくれる人が案外多く、
四月下旬のある日、連れ立って見学することになった。

パソナ地下農場があるのは大手町野村ビルの地下二階。
大手町は日本経済の中心であり、地下鉄が五路線交わるという、
東京以外ではちょっと考えられない場所なのだが、
例のごとく僕は全然間違った出口から出てしまい、待ち合わせ時刻にしっかり遅刻した。

大通りに沿って有名な企業の本社ビルがこれでもかというほど並んでいる。
まだ終業時刻前ということもあり、オフィス街には凛とした雰囲気が漂う。

待ち合わせ場所のビルの前で、スーツ姿のAz嬢が街の風景にとけ込んでいた。
学生だが妙に大人っぽく落ち着いたオーラの漂う彼女、
昔は日経でバイトしていて、今はパソナに紹介してもらった証券会社で働いているとか。
就職したらすごく仕事とかできそうな感じの女性である。

ビルの角の反対側に回ると、yuko嬢も待っていた。
ウェブ制作の会社を経営している彼女、とても愛嬌のある人で、経営者にはとても見えないのだが、
6、7人でやっているという彼女の会社で作られたウェブページはなかなかのクオリティである。経営にはむしろ愛嬌が必要なのかも知れない。
学生の頃は音大で声楽をやっていたとかで、不思議な経歴の人。

さらに、東工大で地球環境を研究されているK先生が研究者風のラフな格好でやってきた。
「久しぶりだねー」と気さくに話しかけてくださるK先生は、
僕が学生の頃、同じ専攻で助手をされていた。現在は講師。

仕事帰りだがカジュアルな服装で現れたエヌは、厚生労働省に勤める国家公務員。
学部の頃からの友人で、ブログを見たといって久々に連絡をくれ、来てくれたのだ。

あとひとり、8年ぶりに会う知人のしんご氏がまだ来ていないが、彼はかなり気の置けない人なので、
たぶん僕らが先に行ってしまってもふらりと合流してくれそうであり、さっさと先に行くことにする。

一階のロビーはまるごとパソナが所有している。

受付で予約していることを告げると、ぴしっとスーツ姿で決めたお姉さんが我々をロビー奥に連れて行き、
パソナ紹介コーナーで企業理念などを説明しはじめた。

「人材派遣を通して新たな雇用インフラを構築し、社会に貢献していくことが創業時からの理念であり……」

長くなるのかと思いきや、案外手短に終わり、

「では、これから地下農場をご覧ください」

連れられてぞろぞろとエレベータに向かう。

「このビルは以前、銀行の本社ビルでした。その地下二階は金庫だったのですが、それを改装して農場にしています」とお姉さん。

地下二階に降りた。いよいよ大手町唯一の農園を見学である。

意外なことに、白い壁と木目調の床が調和したお洒落で清潔な部屋だ。
農場というより、カフェを思わせる。
木製の椅子とテーブルが並べられ、そのまま紅茶を出せそうな雰囲気。

実際のところ、このエリアはパソナの社員食堂も兼ねているのだそうだ。
僕の中での「社員食堂」のイメージと比べると格段にお洒落であるが、最近はこういうのが多いのだろうか。

白い柱の間から緑が顔をのぞかせている。
農場はいくつかの部屋に区分されているようである。

受付のような小さなテーブルの横にいたスーツ姿の女性が「ご見学ですか?」と訊いてきた。
「あ、はい」
「あとで係が説明しますので、とりあえず、ご自由に見てまわっていてください」

壁にいろいろポスターが貼られていて、活動の内容が紹介されている。

十分ほど遅れて、しんご氏が合流した。
会うのは8年ぶりである。
デイトレーダーという言葉が広まる前からデイトレーダーをやっていた彼。
今では人の財産も含めて、かなりの金を動かしている人である。

しばらくすると、奥から青いデニムのシャツにバンダナを巻いた女の子が出てきて、挨拶した。

「こんにちは」

快活な感じの女の子で、笑うとかわいらしい。
この農場でスタッフとして働いているとのこと。農場内を案内してくれるという。
毎日地下二階で生活しているとはとても思えないほど、健康的な感じである。

スーツ姿のお姉さんに案内されるのかと思っていたのだが、こちらの方がずっといい。
ちょっと雰囲気が出てきた。
コスプレは大切である。

「それじゃ、まずはこちらへ」

柱の間を抜けて、花卉を栽培している部屋に通された。

天井には無数の発光ダイオードが張り巡らされているが、その中にいくつか、強い光を放つランプ。

「メタルハライドのランプと、発光ダイオードで育てています」

咲き乱れる花壇。
外から運び込まれたのではなく、ここで種から育ったというのがポイントである。

中央には、周囲よりひときわ高いひまわり。

「このひまわりはもっと背が高くなる品種なんですけど、若干高さを抑えています」

それでも天井に触れんばかりだ。

太陽の方向に首をまわした経験のないひまわり。

同じ部屋の一角でトマトの苗が育てられていた。
三つの台のそれぞれに、赤、緑、赤と緑の混合の光を当てている。

「赤い光は植物の生長を早めるのですが、葉が厚くならない。逆に、緑の光を当てるとしっかりとした葉を作るようになるんです。真ん中のは、両方の光を当てています」

実験というより、どちらかというとオブジェだ。
現代アート。

部屋の奥にはガラス越しに、二つの台が並べられている。

「こちらのトマトには、レーザー光を当てています」と、さらりと説明する。

レーザーポインターでお馴染みのチカチカした赤い光が真上からトマトの葉を照らしている。

レーザーで育てたトマトなんて、何とも不思議な響きだ。
バンダナを巻いた健康優良児的な女の子がそれを説明するから、なおさら奇妙。

これもアートか。

「赤のレーザーダイオードで育てる方が、通常の赤い光を当てるより良く育ったんです」と説明してくれる。

これ、本当なのだろうか。
よく知られている現象なのですかと聞いてみると、別に誰かの研究を参考にしたというわけではなくて、試しにやってみたら、成長が速かったとのこと。
はたして再現性はあるのだろうか。もっと実験してもらいたいところである。

隣はハーブの部屋。さきほどの部屋より若干照明が暗い。

「ハーブというのは元々雑草の仲間なので、薄暗い所でよく育つんです。だから、この部屋も少し薄暗くしています」

いい匂いが漂っている。添えられたカードに、スペアミントなどと書かれている。

さらに、隣の部屋が水田になっている。
本当に、水田であった。予想していたより小さいけど。

四畳半ほどのスペースが二つ設けられ、それぞれ深さ十センチほどまで水が張られている。
かなり狭い部屋なのだと思うが、二面が鏡張りにされているせいか、若干広く見える。

「米は年に三回収穫しています」

ベトナム人もびっくりの収穫率である。
室内の気温をコントロールすればいいだけだから、当然といえば当然だが。

「でも、実のなっていない稲穂も多いんです。なかなか難しくて……」

片方の水田には、底に土でなくセラミックスボールというのが敷き詰めてある。
砂利を大きくしたような、小さな粒々。
液肥の流れがよくなるので、根腐れを防ぐ働きがあるのだという。
触ってみると、軽くてすぐに浮き上がってしまう。
お茶漬けに入れた“あられ”のような感じ。
こんなものが土の代わりになるというのは面白い。

さらによく見てみると、稲の茎に米粒くらいの小さな貝がくっついている。

「タニシですか?」
「ええ。以前、水面を覆うくらい藻が大量発生してしまったんですけど、タニシがつくようになってから、それが無くなって。だから残すようにしているんです」

タニシは漢字で書くと「田螺」。昔から田と共に生きてきた生物なのだろう。

「ここの稲の葉は柔らかいな」稲に触れながら、K先生が言う。「UVを当てていないから、クチクラ層が発達していないのかも。菌とか虫のことが心配になるけどね」
怪訝そうな顔をしているスタッフの女の子に説明する。
「元々、農学をやっておられた先生なんです」
「なるほど」
女の子は若干納得した様子。

「ここのCO2濃度はどれくらいですか?」とK先生が訊く。
「計測していないので分かりません」
「コントロールしているんですかね?」
「いや、普通のビルの換気だけです。調整したら、もっとよく育つのかも知れませんが……」

なんだか、大学の研究会での質疑応答みたいになっている。
K先生、血が騒いでいる感じだ。女の子はいくらか緊張した様子で答えている。

「K先生、今日は計測装置を持って来なかったんですか」と僕が口を挟むと、
「しまった。持ってくれば良かった。いろいろ“武器”を持っていたのに」

K先生は農学部の出身であり、現在は地球温暖化を研究している。
温暖化ガスのひとつであるCO2は専門中の専門である。

「これだけ植物があると、CO2濃度は低くなるんですかね?」と僕。
「いや。そうとは言い切れない。人もたくさん出入りしているから。どっちが勝ってるか……」

Az嬢は時折、思い出したようにメモを取っている。

「何に一番お金がかかりますか。光ですか」とK先生。
「空調も結構かかりますね」
「この環境だと、一番安い温度は何度なんですか」
「それは分かりません……。ただ、光量は多いほど良いと言われてるんですけど、ここは地上の太陽光の五分の一。設備の関係でそれ以上できないんです」
「なるほど。光はどういうサイクルで当ててるんですか」
「朝9時に点灯、午後10時に消灯しています」

少しだけお寝坊さんであり、夜更かしさんである。

水田部屋を出て、ガラスで仕切られた部屋に移動する。
なるたけたくさんの種類の植物を栽培するためか、ひとつひとつの部屋は狭い。

この部屋では何段重ねにもなったプランターが天井まで積み上げられている。

「ホウレンソウは50日で収穫できます。社員食堂でサラダ菜として出しているんです」
「ほう」
「だけど、コストパフォーマンスはまったく度外視で。テナント代も計算に入れると、葉っぱ一枚あたり1000円になるんです」

なにしろ大手町の地下である。日本で二番目くらいに土地の高い場所ではないのか。

「一株あたり、1万円のサラダ菜です」

パソナの社員になれば、そんなサラダ菜が毎日食べられるらしい。

「サラダ菜以外は観賞用です。安定して作れないので……」

それでもたまに囓ってみたりすることはあるらしい。トマトは非常に甘くておいしかったとか。

隣の部屋には何種類もの野菜が小さなプランターに分けられて少しずつ植えられていた。

「よく育つのはどれか、調べているところです」
「どれが一番よく育ちましたか」
「今のところ、唐辛子ですね」
「へー。意外だな」とK先生。
「どうしてですか」
「だってさ、なぜ唐辛子が辛いかというと……」

K先生の説明によれば、植物は害虫などから身を守るために刺激物を蓄えるのであって、
虫のほとんどいない地下農場でも刺激物がちゃんと作れるということに感心したのだという。
つまり、虫に噛まれるという刺激がなくても辛み成分が作られるということである。

続いて、トマトの部屋に入った。
壁一面にアルミホイルが貼られ、反射によってものすごく明るい。

「なぜこんなにアルミホイルを?」
「立体的に育てようとしているので、全方向から光が当たるようにしたいんです」

そういうものなのか。

トマトを植えた土台の部分はそのままオフィスの一角に置けそうなくらい清潔だが、元々は水耕栽培の専業メーカーが作っているキットらしい。
つまり、実際に屋内栽培で使われてきた装置なのだが、それを汚さないように注意しながら置いているという感じである。

「下から光を当て続けた時、植物がどういう風に育つかっていう研究は、簡単そうだけど、まだ誰もやったことが無いんじゃないかなぁ」K先生がつぶやく。「単なる冗談の研究で終わってしまうかも知れないけどね」

トマト部屋の片隅には茄子とパプリカが植えられていた。
「ちゃんと育つか、様子を見ているところです」
「何が一番手間がかかりますか」
「稲ですね」
女の子は断言した。
米は労働集約型の作物なのだ。狭い土地に大量の労働力を投入することで、その人口をまかなうだけのカロリーを作り出す。
日本やアジアの人口密度が世界的に見て異様に高いのは、米のおかげである。

「稲はちょっとした変化で成長の速度が変わるんです。少し目を離していただけで、弱くなってしまったりとか」
「温室育ちなんですね」
「ええ。サラダ菜とかは安定しているんです」
「もし虫がついたらどうするんですか」
「手で取ったり。増えすぎた時は、お薬使ったり」
「こんなとこで農薬使ったら大変ですよね。散布だけですか」
「いや、燻煙もします」
「ここで??」
「閉館している時に」

密閉された空間だけに、燻煙の巡りは良いかも知れない。
しかし、オフィスの上の階で会社員たちが残業している時、地下二階の水田で燻煙が行われているというのはなかなか興味深い光景だと思う。

ちなにみにこの農場では、稲の受粉までスタッフが行っているとのことである。
結構、仕事は多そうだ。

何か質問ありますか、と女の子が訊く。

「どんな人が良く見に来るんですか?」
「以前は中高年の人が多かったけど、最近は若い人も。修学旅行でたくさん来たりとか。マスコミの人もよく来ますよ。この前はCanCamのモデルの子が来ていて。こうやって、片脚を上げて写真撮ってました」

と、CanCam風に片脚を若干後方に上げる。
農業とCanCamのモデル。お洒落な組み合わせである。

「今までに何人くらい、派遣されたんですか」とエヌが訊く。

実はエヌ、厚生労働省では派遣業を管轄する部署にいる。
派遣会社が違法なことを行っていないかチェックするのが仕事である。
もちろん、今日はプライベートな興味で来ているわけだが。

ところがエヌの質問に対してスタッフの女の子は首を振り、
「まだ、派遣というのはやっていないんです。今後、農業への人材派遣プロジェクトを進めていくにあたって、まずは、農家さんとの繋がりを作るために、紹介するという段階なんです」
「え。それじゃ、今はどういう形態の契約にしてるんですか」
「農家と個人で契約してもらっていて。まだ手探りの状態なんです。就農希望者に直接秋田とかに行ってもらって……」
「いきなり行かせるんですか??」
「ええ」

契約期間は半年だという。いきなり秋田に行きましょうとか言われても、ためらう人が多いのではないか。

「合わなくて帰ってくる人もいます」と女の子。
「応募人数はどれくらいあるんですか」
「毎年、40人から50人くらいです。年に一回、募集するのですけど」
「応募者の男女比は?」
「男性の方が多いです」
「ということは、女性もいる」
「はい」

世の中には案外度胸のある人が多いのかも知れない。

「なーんだ。ここで訓練するわけじゃないのか」としんご氏。
「ここは啓発活動を行う場所ですよ」
「でもさ、こんなところで農業に対するイメージ持ってさ。いきなり秋田とかの農村に行って六ヶ月働いたりしたら。正直大変なんじゃないの」

歯に衣着せぬ言い方をする。
実際、ここは一種のエンターテイメントと思うのが正解であろう。
啓発活動。
農業訓練には、ちょっとお洒落すぎる空間だと思う。
都心の農業エンターテイメント。
それ自体が良いコンセプトだとは思うが。

「ここは何人で管理してるんですか?」
「6名です」
「休みは取れるんですか?」
「ええ。週五日間働いて。週末は交代で世話をしています」

休日は放っておけばいいというものでもないようである。植物は生き物なのだ。

「どういう経緯で始めた人が多いんですかね?」
「一回目のインターンで秋田に行って、気に入って残った者がほとんどです。あとは、農大の出身の人とか。私は違うんですけど……」
「というと、ご自身は?」
「私は最初、パソナのグループ会社に登録していたんですけど、誘われてこっちに来ました。元々、園芸が好きだったというのもあって……」

彼女、かなり似合っていると思う。スカウトされたんじゃないか。
僕らに質問攻めにされても嫌な顔ひとつ見せず、最後までにこにこしていた。

「では、サラダ菜をご用意しましたので」

カフェエリアの一角、白いテーブルクロスを敷いたテーブルに案内された。
一株一万円のホウレンソウである。

「ドレッシングがうまいよ」と言いながら、3000円目に手をつけるしんご氏。

僕も5000円分くらい食べた。

カフェエリアの天井からは青々とした葉が垂れ下がっている。それを見上げていたしんご氏がつぶやく。

「これ、地下鉄の天井がこういう風になっていたら、絶対いいよね」
「つり革じゃなくて、枝につかまったりとか?」
「そうそう」

たまにそういう車両があっても面白いかも知れない。

もう少し別の側面から今回の見学を考えてみたいと思って、エヌに訊いてみた。

「派遣会社って、悪いこともいろいろしてるの?」
「いやー、本省には悪い情報しか上がってこないからねー」

と言ってぼやかす。
それでも厚労省は、パソナの活動に良い意味で非常に注目しているのだそうだ。

「このプロジェクト、とても意義があると思うんだよな」と僕も言ってみる。「昔、茶農家でバイトしていたことがあってさ。どこの農家でも人が足りないから、学生相談所や情報誌でバイトを募集して、農家に派遣するというのをやっていたんだけど」今から六年ほど前の話である。「農家での仕事、気に入る人はすごく気に入ってくれるんだよね。今まで親の年金で生活していたような人が、農家ではすごく受けが良かったりして。『あの彼、今年も来てもらえませんか』とか、指名されてんの。人は場所によって輝くということだよね」

そんな多様な生き方を考えるためのひとつの場所として、地下農場もまた、有意義で面白い活動だと思うのである。

地下農場を出た後、八重洲口の料理店に行って皆で夕食。

個性的な面々のため、会話が非常に弾んで面白かった。


しんご氏による報告

Posted by taro at 23:05 | Comments (2)

2006年03月31日

脳波を自分でコントロールするための装置、BrainMaster

友人Yが脳波の計測装置を買った。

BrainMasterといって、アメリカでADD(注意力障害)の治療に使われている装置らしい。

20万円したそうだ。

さすが、元会社経営者は金の使いっぷりが違う。

アメリカではADDの治療がかなり一般的に行われているようで、そのための装置が何社からか発売されている。
ADDの患者は注意力が散漫であり、ひとつのことに集中できない。
治療方法はいろいろ考えられているようだが、今回Yが購入した装置は患者に自分の脳波を見せることで、
集中できている状態へ意識を向ける訓練をするという仕組み。
ニューロフィードバックといって、ひとむかし前に流行した手法らしい。

我々はおそらくADDではないが、自己の脳波の限界に挑戦するため、今回の実験を企画した。

実験はYの自宅で行うことになった。
車で駅まで迎えに来てくれたY。頭をバリカンで刈って坊主にしている。

「電極を付けやすくするためやで」とのこと。

かなり気合いが入っている。

アメリカから海を越えて送られてきた段ボール箱には、ソフトウェア・説明書・ビデオ・電極・それを貼り付けるための糊・頭皮を剥がすための砂入りのジェル、などなどが入っている。
説明書はものすごく分厚いが、とりあえず付属のビデオを見ることにする。

ビデオの中で、髭を蓄えた中年のおじさんが4才くらいの子供に、

「さぁ、飛行機がぐんぐん上にあがるように意識してごらん!」

などと指導している。脳波の特定の成分が増えると飛行機が上がるようになっている。
脳で直接コントロールするゲーム。
まさに未来のゲームである。

ADDの子供たちは、ゲームを通して自分たちの脳波をコントロールすることを憶えることができる。

さっそく、我々も準備に取りかかった。

BrainMasterはWindows上で動くシステムである。インストールは簡単。
画面にたくさんのウィンドウが立ち上がった。

あとは頭に電極をたくさん繋ぐだけ。

脳波計測の世界では頭皮上には電極を付ける場所というのが決まっていて、それぞれに名前が付いている。
頭頂はCZ。CはCenterのCである。その左右にC3やC4といったポイントがある。
前頭部はF、後頭部はP、側頭部はTという略号で表されていて、それぞれに3つずつくらい付ける場所がある。
正確な場所を同定するのがなかなか難しいので、マークを付けた帽子というのもある。

脳の機能には局在性があるため、
電極をどこに付けるかによって、取得される情報が異なるのである。
我々が購入した装置はADDの治療が目的なので、
運動野・感覚野が存在する頭頂葉に付けるようにと推奨されている。
別の場所に付けたら別の情報が取れるのかも知れないが、とりあえずその指示に従う。

砂入りジェルを頭頂につけ、ごりごりこすって表皮をはがした上で、
導電性ジェルを塗った電極を頭皮にくっつける。

ケーブルでノートPCに繋げ、解析を開始した。

それらしき画面が立ち上がった。
グラフがたくさん揺れ動いている。
異なる周波数成分ごとに、その量が表示されている。
僕の脳から漏れ出た情報がノートPCに送られているのだ。

波長の短いものから順に、δ波、θ波、β波、…、と名前が付けられている。
特に、β波がlow beta, beta, high betaという三つに分かれている。
説明ビデオではlow betaのことを特にSensory Motor Rhythmという名称で呼んでいて、
その量を増やすことを重要視しているらしい。
ADDと関連の深い脳波なのだろう。

各成分に対して目標値を設定し、それに向けて増やしたり減らしたりすることで、
トレーニングを行うことができる。

ゲームの画面では、飛行機の高さや地面の高さを特定の成分と結びつけ、
欲しいものが増え、要らないものが減った時に、飛行機が高く飛ぶようになっている。

僕の飛行機はうまく飛ばない。
目標値を高く設定しすぎたのか、脳波が少なすぎるのか。
脳波が少ないとどういう問題があるのかよく分からない。

Nintendo DSの「右脳を鍛えるゲーム」というのを渡された。

「これで実験してみ」

最近、中高年の間ですごく流行しているゲームらしい。
電子手帳のようなパッドにペンで入力し、暗算していく。

計算している時は、たしかに全体的に振幅が大きくなっている。

これならたしかに脳は鍛えられているかも知れない。

また、僕の場合、メモを書いていいる時の活性化ぶりはすごい。
頭を使っているのだ。

Yが突然、僕の目の前で手をぱんと叩いた。

その瞬間、少し大きな波が出た。
脳もびっくりしている。

いろいろ試しているうちに、脳波の量を大きく増やす要因がひとつ見つかった。
目を動かすと、δ波がたくさん出るのである。
さらに、顔の筋肉を大きく動かした時は、あらゆる成分が多く増加する。
筋電だろうか。
あるいは、運動野の一次運動ニューロンから出ている脳波か。

意識の集中と関連する脳波を取るためには、なるたけ体を動かさない状態で実験を行わなくてはならないということだ。
メモを取った時に脳波が多く出たのも、それが原因だったのかも知れない。

大学で認知科学を研究している友人から以前聞いた話によると、
こんな安価な装置では実験は行えないとのこと。
だが、全体的な傾向くらいは読み取れるのではないかというのが我々の楽観的な見方である。

今回の実験、自分たちの脳波を見るだけにとどまらない。

友人Yは最近、クリーブ・バクスターさんという人が書いた
「植物は気づいている」という本にはまっていて、植物と通信できると本気で信じている。

その本の中で主張されている植物との会話をどうしても試してみたいという。
それが脳波計測装置を買ったひとつの理由らしい。

バクスターさんは元々は嘘発見機の専門家で、
FBIの捜査官に研修を行うほどの有名人だったそうだが、
ある日、何を思ったか嘘発見器をオフィスにあった観葉植物のドラセナにつなげてみたところ、
まるで実験者の心に応えているかのように針が震え、
こちらの動作に応じて電位が変化したという。

その後、バクスターさんはヨーグルトにも電極を繋ぎ、
微生物との通信にも成功したという。

その本にえらく感銘を受けたY、ぜひ追実験をしてみたいという。

ホームセンターまで出かけて買ってきたドラセナをBrainMasterに繋ぐ。

脳などあるわけないのだが、はたして脳波が取れるのだろうか。

反応は、無し。

ドラセナの葉を火で燃やしたり包丁で刺したりして通信を試みたが、それでも反応はない。

ところが面白いことに、植木鉢に水をやった途端、電位が大きく変化したのである。

あまりにもはっきりとした変化に、僕もちょっと驚く。
水を吸い上げたことによって、内部での周期的生理現象に変化が生じたのだろうか。

夕食の後、蓄積された結果を見てみると、時折、グラフがぴんと立ち上がる時がある。
データを解析して、その時刻を調べるY。

「一時間前ゆうたら……。俺らが部屋に戻ってきた時や!」

興奮したように言う。

「反応しとる、しとる」

植物と会話できることを確信して、おおいに喜ぶY。

その晩はドラセナに電極を付けたまま就寝した。

翌朝、一晩かけて蓄積された結果をグラフ化して、Yは声を上げる。

「見てみぃ。こんなに反応が出とるで」

たしかに、ある時刻を区切りとして、すべての成分が増加している。

さらに夜中にも一度だけ、謎の低周波成分が出ている。

原因は分からない。地震でもあったのか。

その後、ネットで調べてみたところ、植物に水をやった途端に電位が変化するのは、よく知られている現象のようである。
愛知万博でもそういう展示があったらしい。

植物の健康状態を計測装置でモニターするくらいのことは、将来的には行われるのだろうか。

Posted by taro at 22:10 | Comments (8)

2006年03月06日

スロヴェニア料理を食べてきた。

週末、京都の丸太町天神川でスロヴェニア料理を食べてきた。

よく一緒に食事会している皆さんに、少し人数が増えた集まりである。
hiroponさん、mihoさん、kogeさん、M方さん、玄米さんうさこさん、T村さん。

スロヴェニアというのは旧ユーゴスラビアを構成していた国のひとつで、
アルプスと地中海に面し、自然豊かな国だそうだ。

お店はピカポロンツァといって、日本で唯一のスロヴェニア料理の店らしい。
スロヴェニアから来た旦那さんと、日本人の奥さんが二人でやっている、
こじんまりとした家庭的な店である。

料理はおいしい。
にんじんを牛肉でくるんでワイン風味のソースをかけた料理が特にうまかった。

スロヴェニア料理のひとつの特徴は、蕎麦を使うことである。
もちろん、麺ではなくて、穀物としての蕎麦。
土地が痩せていたため、蕎麦しか育たない場所が多かったらしい。

店の奥さんによると、
蕎麦が無ければスロヴェニア人は生き残れなかった、
と言われているとか。

蕎麦を使ったケーキなど、独特である。

ワインがおいしく、ボトルを三本あけたのだが、
それぞれが個性的で味がまったく違うため、
飽きることなくいつも以上に飲んでしまった。

かなりいろいろな話をして、盛り上がった。

雑談する中で、いくつか企画の案が出てきた。検討していきたい。


1. 青い料理ばかり食べさせる「青い料理の店」を見つけて、食べに行く。

kogeさんによると、青は食欲を削ぐ色らしい。

実際、青い食べ物は少ない。
赤いご飯や黒いご飯はあるが、青いご飯は無い。
加工食品でも、鮮やかな青は滅多にない。
鮮やかな赤や緑ならいくらでもあるのに……。

例外は冷やされている場合で、ブルーハワイやブルーペプシなどが挙げられる。

青い食べ物は気持ち悪く感じる人が多いらしい。

それを逆手に取って、青い料理ばかり集めたお店がどこかにあるのではないか。

そんな店を探して、行ってみようという企画。


2. 「日めくりロシュフコー」というサイトを作る。

僕はラ・ロシュフコー箴言集という皮肉っぽい警句ばかり集めた本が好きで、
ぜひ、「日めくりロシュフコー」というサービスを作りたいと考えている。

ブラウザからアクセスすると、毎日違う警句が表示される、というだけのシステム。

問題は著作権で、原作者のロシュフコー氏は十七世紀の人なので問題ないのだが、
日本語訳を使うとなると、翻訳の著作権がまだ切れていないと思われる。

そこで、フランス語の原書を買ってきて、
自分たちの手で訳してしまおう、という方法を考えた。

フランス語の勉強としても面白いと思うのだが。

たぶんそのうち、そういう会を開くと思います。


ピカポロンツァ

うさこさんによる報告

玄米さんによる報告

kogeさんによる報告

Posted by taro at 22:08 | Comments (7)

2005年08月21日

真っ暗闇の中を散歩し、バーで酒を飲む「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」

光を完全に遮った室内に入り、聴覚や触覚だけを頼りに歩き、
視覚に依存した日常生活を離れ、他者や自己との新しい対話を模索する。
ドイツで考案され、現在、世界中に広がっているダイアログ・イン・ザ・ダークという活動。

視覚障害者の子供と一緒に参加し、自分の子供に優れた能力が備わっていることが分かったと喜んでいる母親がいるとか。
暗闇の中で助け合うことで参加者同士の結束が強まるため、企業の研修に使われているとか。

昔から非常に興味を持っていたのですが、この夏、神戸で行われるというのを知りました。一週間ほどの開催です。
これはぜひとも参加したい。

研究室で秘書をしていたつのさんが興味を持ってくれたので、一緒に行ってきました。

会場はポートアイランドにあるジーベックというイベントホール。

一時間ほどのワークショップが一日十回程度行われるそうですが、
参加者が多すぎると収拾つかなくなるため、一回あたり七名までに制限されています。
決められた時間に行けばよいため、会場はかなり静かです。

受付で揃いの黒シャツを着たおじさんとお姉さんたちが迎えてくれます。
シャツには暗闇に驚いている人の絵が描かれていて、スタッフ用のようです。

開始時刻の15分前に集まってくださいと言われ、大ホールらしき部屋の扉前に集合しました。

ぼくとつのさんを含めて七名の参加者が集まり、スタッフの若いお兄さんたちから説明を受けます。

まずは白い杖、白杖(はくじょう)の使い方から。

「立てた時にてっぺんが自分のみぞおちくらいに来る長さのものを選んでください。持ち方は、上から十センチくらいの場所で人差し指を添えて。左右に振る時は肩幅くらいの範囲で。振り回さないでくださいね……」

各自、自分の背丈にあった白杖を選びます。

「手探りをする時は、なるたけ手の甲を外側に向けてください。どうしてかというと、手の平がぶつかると、手の甲がぶつかった時より不快に感じてしまうんですね。だから、手の甲を外に向けてください」

なるほど。そんな工夫もあるのか。感心します。

「光るものは持ち込まないでください。携帯も電源を完全にオフしてください。音を切っていても、点滅したりしますんで。場内での撮影・録音も禁止です」

真っ暗闇の中で撮影しても何も映らないと思うのですが。それとも赤外線カメラとか持ち込んだりする人がいるのでしょうか。

ひととおり注意事項を聞いた上で、「前室」に案内されます。
会場を完全に真っ暗にするために、途中に部屋を設けているのです。

「ここで目を慣らしてください」

スタッフのお兄さんに言われましたが、目が慣れても何も見えないという気が。

前室に入ったところで、アテンダントの人を紹介されます。
アテンダントというのは、真っ暗闇の会場内を案内してくれる、目の不自由な人です。
もちろん、真っ暗闇の中ではぼくらの方が不自由なわけですが。
これはダイアログ・イン・ザ・ダークの重要な特徴のひとつです。

照明が薄暗いため、壁際に立っているアテンダントの人の足のあたりは見えますが、顔のあたりは見えません。

七人が入ったところで、明るい声で挨拶されました。

「こんにちわ!」

若い男性の声です。

「H口と言います。どうかよろしくお願いします!」

はきはきしていて、頼りになる感じ。NHKの歌のお兄さん的な喋り方です。

「皆さんのお名前を聞かせてもらえますか」

「Sです」「Yです」「Uです」「Nです」「その母です」「つのです」「てづかです」

Nさんは、お母さんと高校生の息子さんがふたりで参加。
それ以外の女性三人は友達同士みたいです。

会場内での注意点について、H口さんが補足説明をしてくれます。

「ぶつかった時とか、『すいません、○○です』と自分の名前を言うようにしていただくと、早く名前を憶えられます」

なるほど。もう長いこと行われている活動だけあって、いろいろ工夫があります。

「何か面白いもの見つかったら、他の人にも報告してくださいね。迷ってしまった時には、ぼくを呼んでくれたら救出に向かいますんで……」

オーバーな表現に参加者一同、苦笑します。

ひととおり説明は終わったのですが、前のグループがつかえているようで、まだ中に入れません。

「H口、何かトークしろよ」

スタッフのお兄さんがけしかけます。話し方からすると、友達みたいな関係のようです。
H口さん、あまりトーク慣れしていないのか、たどたどしく付け加えました。

「えっと……。Nさんは高校生って仰ってましたけど、自分と同世代を案内するのは初めてなんで、ちょっと緊張しています」

え? H口さん、高校生?
声の感じではとても落ち着いて聞こえるんですが。
「嘘です。実は四十代です」とか言われても驚きはしないほどの落ち着きっぷりです。

前のグループが無事に先に進んだという連絡が入りました。
いよいよ出発です。
「H口、がんばってこいよ!」と、スタッフのお兄さんが声を掛けます。
やはり、高校生くらいなのでしょうか。

「それでは、こっちに来てください」
おとなびたH口さんの声のする方向に足を進めると、目の前にカーテンが。
いや、目で見たわけではないので、鼻の前とか顔の前と表現した方が適切でしょう。

カーテンの隙間を抜けて、真っ暗な室内に入ります。

最初の部屋もそれなりに暗かったですが、こちらは完全に真っ暗です。
いくら手を顔に近づけても、指の形すら見えません。

そのくせ、天井がすごく高いというのが気配で分かります。
気配というのは不思議なものです。おそらく音の反響の仕方を感じ取っているのだと思いますが、
無意識的にそれが天井の高さに変換されてしまうあたりが脳の神秘です。

数歩進んだところで、手に葉っぱが当たりました。
木が植わっているようです。
ホールの中に自然に木が生えていることはありえないので、たぶん植木鉢に植わっているのでしょう。
葉っぱの匂いから、本物の木であることが分かります。

白杖の先の感触から推測するに、床には木片が敷き詰められているようです。
しゃがんで実際に触れてみると、たしかに木片です。
白杖、なかなかすぐれた分解能です。
頼りになります。拡張身体。

突然、鳥のさえずりが聞こえてきました。
その中に混じって、水の音が聞こえます。
鳥の声は録音っぽいですが、水の音は本物のようです。

「そこに水がありますんでね。触ってみてください」

H口さんに手を引いてもらって、水の音のする場所でしゃがみます。
湧き水のように、ちょろちょろ水が流れています。

暗闇の中で触れる水は、かなり水っぽかったです。

H口さんの声に従って、さらに暗闇の中を歩きます。

「橋があります。注意して渡ってください」

小さな橋です。ゆらゆら左右に揺れるように作られていますが、地面からの高さが3センチくらいなので、あまり怖くはありません。

全員が渡りきったと思われたところで、H口さんが声をかけます。

「皆さん、集まってください。無事に渡れましたか」
「はーい」
「全員いますね?」
「……」

少し間があってから、「はい」「はい」「はい」と声が上がります。
いちおう、七人いるようです。
近くにいることは分かりますが、気配だけでは方向までは分かりません。

「ちょっと遠くにおられる方もいますね」

H口さん、声だけで距離感もつかめることをアピール。
台本にそう書いてあるのかも知れませんが、あえてそんなことしなくても、
暗闇の中をすたすた案内してくれるH口さんのすごさはよく分かります。

白杖の先に当たる感触が変わりました。
今度は砂利が敷き詰められているようです。
しゃがんで、確認します。たしかに砂利です。

また木が生えていました。今度の木は樹皮が横方向にぺりぺりはがれるので、白樺ではないかと想像します。

もうひとつ橋を渡ります。

ふたたび、白杖の先の感触が変わりました。
今度は丸い小石です。
白杖で触れるこつんこつんと響いて、耳に心地よいです。
杖の先で感じる硬質な感覚が新鮮です。
木片や砂利とは全然違います。

ぼく、触覚の散歩を楽しんでるな、とふと思いました。

目の方はいつまでたっても暗闇に慣れません。
ほんの少しの光も入ってこない会場なので、慣れるわけがありません。
なんで人間は僅かな赤外線も見えないのでしょうか。
少しでも見えたら、暗闇に対する意識が格段に変わってくると思います。

ぼくは途中からTシャツを脱いで上半身裸になっていましたが、
たぶん、誰にも気付かれていなかったと思います。

さすがにぼくはしませんでしたが、全裸になっていても気付かれなかったのではないでしょうか。
そういうのが好きな方は、ぜひ挑戦してみてください。

「今から階段を上がります」

突然H口さんが言って、こつこつこつ、階段を上がっていく足音が響きます。

「上にあがりましたけど、分かりますか?」

H口さんの声が上から聞こえてきます。
暗闇の中でも、喋っている人がいる場所の高さがすぐに分かります。

「皆さんも気を付けて上がってください」

誰かこける人いないのかと心配になりましたが、登ってみると三段だけでした。さすがに安全最優先の設計です。

不意に、録音されている音声が流れてきました。

『ザワザワザワザワ……。白線の内側にお下がりください……』

駅構内のアナウンス。そして人のざわつき、
電車の入ってくるガタゴトという振動まで聞こえてきます。

目の見えない人が駅でどんな感覚なのか体験しようという試みでしょう。
たしかにこれはかなり不安になります。
実際に電車が勢いよくホームに入ってきたりしたら、ものすごく怖いのではないでしょうか。

白杖の先に、駅のホームにある黄色い線のでこぼこが触れます。
でこぼこの丸くなっている形まで指先で感じ取れます。
黄色い線の内側に下がりました。

H口さんが数メートル離れた場所で言いました。

「それじゃ、これから階段を下りますね」

ここ、結構危険でした。先を急いでいたら、階段から落ちている可能性もありました。
駅のホームでは慎重に行動しなくてはなりません。

階段を下りたH口さんが声を掛けてきます。

「下にいるのが分かりますか?」

これも、下から声をかけているというのが分かります。
人間の耳は音がどれくらいの高さから来たかを分解する能力が優れているようです。
耳が上下ではなく左右についていることを考えると、どうやって判定しているのか不思議に思いますが、耳たぶでの反響の仕方と関係があるのでしょうか。

全員が階段を降りきったところでH口さんが提案します。

「ブランコに乗りたい方はいますか?」
「はーい」
「はーい」

目の前に(顔の前に)ブランコがありました。

「気をつけてくださいね」

背もたれのついた椅子型のブランコなので、立ちこぎは無理で、ぶんぶん振ることもできず、それほど怖くありません。

自分が満足すると、他の人を誘導します。

「ここでかがんでください」

普段ならここでブランコをさっと後ろに引いて転ばせるところなのでしょうが、
暗闇ではどんなことになるか分からないので、やめておきました。

他の人がブランコ体験している間、あたりをぶらぶらします。

広場の片隅に机がありました。
その上にいろいろ「物体」が置かれています。
触っただけではすぐに何だか分かりません。単なる物体です。
オレンジとピーマンを発見しました。感触や形で分かります。
何であるか分かるまでに時間がかかったのが、皮付きのとうもろこし。
やはり、触れる機会が少ないものはわかりにくい。

ゴボウとキュウリは多くの人に握られすぎたせいか、かなり柔らかくなっていて気持ち悪かったです。

蛇とかが蠢いていなくて良かったです。あったらぼくは卒倒します。

ほぼ全員がブランコに乗りました。あいにく滑り台や砂場は無いようです。

H口さん、長いこと喋り続けて疲れているのじゃないかと思いますが、明るい声で言います。

「どうでしたか。そろそろ喉が乾いたんじゃないでしょうか。これからバーにご案内しますね」

来た来た。ダイアログ・イン・ザ・ダーク名物、くらやみバーです。待ってました。

「それじゃ、こちらへ」

H口さんのいる場所で、ドアの開く音。
「おお、ドアが開いた」と、反応してしまいます。
音だけで何が起きているか分かった時、微妙に嬉しかったりします。

開いたドアの向こうから、「いらっしゃいませー」と、三人くらい、声を揃えて挨拶してくれます。
なんだか本格的です。

ぼくらはたどたどしく店内に入ります。
着席するだけで数分かかります。
みんなの座った配置から察するに、大きな楕円形のテーブルがひとつ置かれているようです。

皆が無事に座ったところで、店長らしきお姉さんが挨拶します。

「ようこそ、バー『暗闇』へ。ワイン、ビール、それからお茶と、オレンジジュースを用意してあります。何に致しましょう?」

お姉さんの声は芝居がかっていますが、明るく聞き取りやすく、『暗闇』とかいう店名にはおよそ相応しくない感じです。

ぼくはワインを注文しました。つのさんもワインを注文します。
その他の女性陣は皆、オレンジジュース。高校生のNくんはお茶。

お姉さんが傍らに寄って、ワイングラスを置いてくれます。
まったくの暗闇なのに、さっと素早くテーブルの上にワインの入ったグラスが置かれます。
全然遅れがありません。

バーのお姉さんがぼくの手を握って、
「ここです」
と、グラスに触らせてくれます。

なんだかいい感じのサービスです。

暗闇の中だと、みんな美人に思えてきます。

ワインがほんのりと香り立ちます。

「それじゃ、乾杯しましょう。こぼすといけないんで、テーブルの上を滑らせて……。あ、押しすぎると向かい側の人の膝に落ちますんで気を付けて……」

ワイングラスを滑らせます。

ちーん。ちゃんと向かいの人のグラスと当たりました。

匂いの感覚が研ぎ澄まされているせいか、
ワインの味が鋭く感じられました。
特に聞かれませんでしたが、白ワインでした。

もし目の見えない人が最初に名付けたとしたら、赤ワインと白ワインはどう呼ばれていたのだろうとか思います。
ぼくらの味覚や匂いに関する語彙は非常に貧弱です。ぼくは赤ワインと白ワインの味の違いをうまく言葉で表現することができません。

しばらく、暗闇の中でまったりします。
声だけで会話です。

音と触感しかありませんが、良い雰囲気のバーです。

内装はどんな感じになっているのでしょうか。触れられるでこぼこがあったりするのでしょうか。
ぼくが手を伸ばそうとする前に、お姉さんが申し訳なさそうに言いました。

「おくつろぎのところ申し訳ありませんが、そろそろ次のお客様が来られます。本日は来てくださって、ありがとうございました」

たどたどしく店を出ました。

そしてダイアログ・イン・ザ・ダークの暗闇巡回コースも終了です。

「これから少し明るい部屋に入ります。感想とか聞かせてください」

カーテンをくぐって、小さな部屋に入ります。
いきなり眩しいところに入ると目に良くないため、この部屋はかなり照明を落として、暗くしてあります。
しかし、少しでも目が使えるというのは真っ暗闇とは大きな違いです。

人数分の椅子が円形に並べられています。
皆、腰掛けました。

初めてH口さんをはっきりと見ることができました。
やはり、普通に高校生でした。
すごく若い。
ちょっとびっくり。
バーでぼくらに酒とか勧めてる場合じゃないです。
でも、暗闇の中ではすごく自然でした。

最初に明るい中で会っていたら、その時の姿が暗闇の中でもずっとつきまとっていたと思います。
「ひょっとして四十代かも知れない頼りがいのあるH口さん」というイメージは形作られていなかったかも知れない。
暗い中で出会うという順序も、うまく工夫されていると思いました。

「感想を聞かせてください」と、あいかわらずおとなびた声でH口さんが言います。
声を聞くと、頼りがいのあるイメージが甦ります。

「暗闇の中で何も見えなくて。どういうところを使いました?」
「足の裏とか」
「手」
「聴覚」

皆それぞれ、思いつく場所が違うようです。
足の裏というのはぼくは思い浮かびませんでした。
ぼくが鈍い感覚のひとつかも知れません。

女性参加者のひとりがH口さんに聞きました。

「こんなこと聞いていいか分からないんですけど……。H口さんはいつも、暗く見えるんですか?」

H口さんは少し考えるような仕草を見せて、それから逆にぼくらに聞き返しました。

「これは皆さんに考えてもらいたいんですけど、僕は耳が聞こえない人にとって世界がどうなのか分からない。ぼくは生まれた時から目が見えないので、暗いと明るいの違いが分かりません。だから、今、暗いという感覚もありません。生まれてからずっとそうだったので、これがぼくにとっての世界なのです」

たしかにそうなのだろうと思います。

第六感のない我々が第六感のある人に、「皆さんはいつも韲く韶るんですか?」とか聞かれても、「分かりません!」と答えるしかないようなものだと思います。

ぼくも質問をします。

「ぼくらは立方体とか正四面体とか思い浮かべる時に、ある視点から見た形、つまり二次元に射影した図を思い浮かべてしまいますけど、H口さんの場合はある視点から見た形を思い浮かべるわけじゃないですよね。立体そのものを思い浮かべるというか。ぼくらよりも三次元的なイメージを持てているんじゃないかと思うんですけど」

H口さんは困ったような顔をして、

「どうなんでしょう。触れたことがあるものは思い浮かべられますけど……」

H口さんにとってはそれが自然なことなので、どのように説明してよいのか困っているという様子です。
比較しようがないのではないかと思います。
しかし、立方体を思い浮かべてくださいと言われた時に、まずその触覚が思い浮かぶ。
我々がものすごく拘束されている「視点」という場所から自由であるというところ。
ぼくが目の不自由な人からすごく学びたいことのひとつです。

ひととおり感想を述べあったあと、H口さんとお別れです。

椅子から立ち上がって、

「誰かぼくをアテンドしてくれますか」

と言いました。その時初めて、アテンダントという言葉は本来、視覚障害者に付き添う人のことを指すというのを知りました。

「はい、私やります」

つのさんはアテンダントという言葉を知っていたのか、すぐにH口さんの腕を取りました。

バー『暗闇』の女店長が入ってきて、白杖を回収していきました。

暗闇の中ではおとなっぽい感じでしたが、実際は結構童顔な人でした。

小部屋を出ました。

ロビーは明るい。
スタッフの皆さんが迎えてくれます。

参加者七名でロビーのテーブルを囲んで、感想文など書きながら、ああだこうだと議論しました。

「やっぱ駅は怖かったな」
「ほんま。あれはかなわんと思うわ」
「梅田とか歩きたくないな」
「歩きたくないなー」

そこからバーの話になって、真っ暗でも滞り無くグラスを差し出せるお店の人たちはすごかったなぁといった意見が出たあと、

「あのジュース、100パーやった?」
「バヤリースちゃう?」
「いや、どちらかというと懐かしい感じの味やった」
「ポンジュース?」
「そんな感じ」

そういうことを女性参加者たちが語り始めます。
いくら真っ暗闇の中でも、しっかりチェックしているようです。

やがて話題は今回のイベントに戻って、

「やっぱ一回につき七人が限度ですかね」
「そやね。将棋倒しとかになったらあかんもんな」

将棋倒し。スケールの大きな想定です。

スタッフの人がテーブルに近づいてきて、感想を聞かれました。ちなみに今日が初日です。スタッフも感想が気になるのでしょう。

「どうでした?」
「すごい面白かったです」
「バーでは何を飲まれました?」
「オレンジジュース」と女性参加者。
「お酒飲まれた方は?」
「はい」とつのさん。
「匂いがすごいいいでしょ」
「ええ。あと、隣の人のオレンジジュースの匂いも分かりました」とつのさん。ほんとかよ。
「香水の匂いが強く感じられるようになった、とかいう参加者もいましたよ」とスタッフ。

ひょっとして体臭とかも強く感じられるようになるのでしょうか。
もし人を匂いで区別できるようになったりしたら、かなり奇妙な感じです。

ぼくは先ほど聞けなかった質問をスタッフの人に聞いてみました。

「この企画、耳の聞こえない人が参加したらどうなるんでしょうか」

視覚から入ってくる情報が75%だそうですが、聴覚からはどれくらいなのでしょうか。
触覚・嗅覚・味覚合わせても、5%くらいな気がします。
その5%で世界に接するとなると、ぼくらが暗闇で見えなくなるのとはまたレベルが違うような気がします。

しかしスタッフのおじさんいわく、

「残念ながら今回は耳の聞こえない人の参加をお受けしていません。準備の期間が短いですから。でも、ドイツでは受け入れてるみたいですよ。あっちは常設で、アテンダントもプロフェッショナルですし」

つのさんがそれに反応。

「ドイツは常設ですか。行ってみたいなそれは。ドイツ語できないとだめですか」
「ええ。全部ドイツ語だと思います」
「ドイツ語分からんなー」
「通訳の人に間に入ってもらうしかないですね。アテンダントの人が何か言ったら、それを翻訳してもらって。やっと分かる」
「危ないわそれ。でも、目の見えない人は旅行大変やな。標識とか英語で書いてあっても、読めへんし」

その後、公式ガイドブックを見ていたつのさんが、ドイツの会場には英語のできるアテンダントもいることを発見。
ハンブルグにあるそうですが、今度是非行ってみたいと言ってました。

現在、ダイアログ・イン・ザ・ダークのスタッフは神戸にも常設の会場を作ることを目指しているそうです。
これはぜひ実現して欲しいです。

そしてより多くの人にこのイベントを体験してもらいたい。


ダイアログ・イン・ザ・ダークのページ:
http://www.dialoginthedark.com/

Posted by taro at 23:40 | Comments (0)

2005年08月01日

合ハイは雨に降られてボーリング大会に……

日曜日、合ハイするため六甲山の麓まで行きました。
合ハイというのは合同ハイキングの略で、妙齢の男女が親交を深めるために山に登るというイベントです。
1970年代頃、合コンに男女の出会いの場の座を奪われるまで盛んだったそうです。

我々の場合はいくつかの研究室と研究機関の方々を誘って実施です。

今回の目的地は六甲山の西端、摩耶山。
しかし、麓の駅でケーブルカーに乗ろうとした途端、猛烈な雨に降られて三十分間足止め。
雨は止みそうにありません。

あきらめて三宮駅前に戻り、ボーリング大会になりました。

友人の提案でペアでボーリングを行ったのですが、これが結構面白かったです。

やり方は以下のような感じです。

1.通常の形式で1ゲーム行う。
2.スコア順に並べる。
3.上からn番目の人と下からn番目の人が組み合わさるよう、ペアを作っていく。
4.ペアボーリング開始。自分の番の時、一投目は自分で投げ、二投目はペアの相手に投げてもらう。つまり1ラウンドで2回投げる。自分の番の時の一投目と、ペアの相手の番の時の二投目と。
5.ペアの二人の合計点で競う。

これ、かなり盛り上がりました。
実力が均衡するように組み合わせられているので、ハンデが無くても点数が近接し、白熱します。
ペアの相手が残したピンを倒した時は、ひとりでスペア取った時の数倍嬉しい。
ガーターの時は数倍ひんしゅくですが。

Posted by taro at 19:45 | Comments (2)

2005年07月20日

ロボカップ感想

ロボカップ、かなり面白かったです。

アイボがサッカーしてました。

前足と鼻先でボールを囲ってドリブルし、
ゴール前でぺたんと倒れ込むことで、シュート。
顔面によって押されたボールが見事に直進し、ちゃんとゴールに入ります。

アイボ、こんなこともできるのだなぁと感心。

我が研究室にいるアイボはあまり賢く見えないのですが、
ゴールに向かってひた走るアイボを見ていると、
知性がありそうに思えてしまうから不思議です。

目的を与えることは大切ですね。人間もロボットも。

知能とは目的に向かって進むことではないかと思います。

アイボ・リーグとは別に、ハードウェア自作のリーグもありました。
大型のロボットになると、車輪で走る胴体の上にノートパソコンを乗せて動いてました。

その他、企業や大学による最新技術の展示。

富士通の二足歩行ロボットではReal-time Linuxで制御プログラムを書いているそうですが、
やはりバランスを取るためのプログラムの作成に一番手間を取られるとのこと。
現状では立っていられるといっても平地だけで、少しでも傾きがあるとコケてしまうとか。
また、機械は少しずつ誤差があるため、同じプログラムでも動くのと動かないのがあるそうです。

龍谷大の研究室では犬のロボットを出展していました。これは走ったり跳んだりできるのが特徴。
歩くことと走ることの違いは、瞬発力を出せるかどうか。
犬ロボの場合、ばねで力をためて、モーターの力と合わせることで瞬発力を作り出しているそうです。
このロボットの動きはアイボより格段に犬っぽかったです。

ロボットのパーツを売ってる出店などもあり、盛りだくさんな内容でした。

一緒に行った友人から、ROBO-ONEというロボットの総合格闘技みたいなイベントの存在も教えてもらいました。

見に行きたいですが、次回は9月17日~18日。ぼくは行けません。
しかも場所は飛騨高山……。

http://www.robo-one.com/8th/F_ROBO-ONE8th.htm

写真を見ると、かなり小さなロボットが闘うようです。

アシモ同士が闘うならぜひ見に行きたいところですが。

五年後とかに行けば、アシモと人間が闘ってるかも知れません。

それって結構痛々しそうです。

Posted by taro at 18:12 | Comments (0)

2005年07月06日

真っ暗イベント

光を完全に遮蔽した室内に入り、
目の不自由な人に案内してもらい、
(暗闇の中では彼らの方が自由なわけですが)、
聴覚や触覚を研ぎ澄ませ、
視覚に依存した日常生活を離れ、
他者や自分自身との新しい対話を模索する
ダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントがあります。

真っ暗闇の中でカクテル作ったりするらしいです。

昔から興味を持っていたのですが、
今度神戸にやってくるというので、行ってみようと思っています。

8月20日(土)午後5時からのワークショップに行く予定です。
興味のある人、ぜひ一緒に行きましょう。連絡はtez@sings.jpまで。

http://www.equiv.net/did/main.html

一回につき七人しか入れないので、早く申し込まないと予約がいっぱいになるかも知れません。

なお、今回のダイアログ~は、こうべユニバーサルデザインフェア2005の一環として行われます。
そういうのに興味がある方もぜひ。

http://www.city.kobe.jp/cityoffice/18/menu03/t/keikaku/ud/ud_top/index15.htm

Posted by taro at 21:42 | Comments (1)

2005年06月30日

ロボカップ見に行きませんか

今度、友人たちとロボカップを見に行くのですが、
興味のある方、もしよかったら一緒に行きませんか。

ロボカップというのはロボットのサッカートーナメントです。

自律型のロボットがチームを組んで競い合います。人間がラジコンで操作しているのではありません。

いくつかのリーグがあって、アイボのチームによる対戦とかもあるみたいです。

2050年までに人間の世界チャンピオンチームを倒すことが目標らしいです。
ちょっと怖すぎる目標です。

毎年世界のどこかで開かれているのですが、今年は大阪で開かれます。

ひとりで行くより何人かで行く方が面白そうだという方、ぜひご連絡ください。連絡先はtez@sings.jpです。

7月17日(日)午前10:00に、大阪地下鉄OTS線の中ふ頭駅前で待ち合わせします。
会場はインテックス大阪、当日券は1,200円です(←安い!)。

http://www.robocup2005.jp/

交通案内はこちら。
http://www.intex-osaka.com/access/subway/index.html

Posted by taro at 00:05 | Comments (2)

2005年06月26日

植物園見学会について

京都在住で植物が好きな人にお勧めかも知れないイベント。

今、大学の独立法人化に伴う合理化が進められる中で、
「附属植物園をつぶして新しいビルを建てようか」などという案が出ていて、
そんな計画から植物園を守るべく、愛好者たちが毎月一回見学会を開いています。
多くの人に利用してもらい、その存在意義を高めようというわけです。

誰でも参加できて、植物学専攻の院生が案内してくれて、いろいろ教えてもらえます。

定年退職後のおじさんやおばさんがたくさん集まっているのですが、
そのへんの野山じゃなくあえて附属植物園に来るような皆さんはかなりマニアックであって、
葉脈とか花弁の形状について熱く語り合っています。

次回は6月29日(水)12:00~12:55開催、テーマは「ツユときのこ」らしいです。

http://members.at.infoseek.co.jp/bgarden/

Posted by taro at 12:19 | Comments (0)

2005年06月08日

苦情・クレーム博がさらにパワーアップして帰ってきた!

恒例の「苦情・クレーム博覧会」(福井商工会議所主催)のシーズンがやってきました。

https://www.kujou906.com/

案内文にいわく、

> 「苦情との運命的な出会い」を少しでも早く実現して頂けるよう、
> 皆様から頂戴したご意見をもとに様々な改善を加えさせて頂きました。

今年はなんと1,050円ですべての苦情をオンライン閲覧できるそうです。

がんがんクレームを送って世の中を良くしていきたいものです。

Posted by taro at 20:20 | Comments (0)

2005年06月04日

合ハイの季節がやってきました!

今年も合同ハイキング(※1)の季節がやってきました。

今年こそ、楽しげにハイキングしてみたいと思います。

※1 合同ハイキング:妙齢の男女のグループが山にのぼり、親睦を深める行為。1970年代頃まで盛んだった。

Posted by taro at 19:49 | Comments (2)