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2009年10月31日
統計的推定の授業
後期から担当している授業で統計的推定の話をしている。
リレー講義の一環として与えられたテーマが自然言語処理で、何について話そうか迷ったが、一番簡単な言語モデルのひとつであるN-gramモデルについて話すことにした。その前提として確率論の知識が必要なので、基礎的な所から説明している。
確率統計の授業は受けたことのある学生が多いようだが、その内容は検定が中心で、最尤法やベイズ推定、機械学習の話はあまり知らないようである。
いきなり尤度関数の微分による最尤法を導入しても戸惑われるだけかと思ったので、尤度とは何かを分かってもらうために、トランプを使って離散パラメータに対する最尤法を具体的に計算しながら説明したところ、なかなか受けが良かった。
4枚のカードがあり、何枚かがハートで残りがスペードである。引くたびに戻す形で、4回引く。結果はハート、スペード、ハート、ハートだった。
4枚のうち何枚がハートだろうか?
3枚と答える学生もいれば、2枚と答える学生もいる。
なぜそう思うか、そして計算によって自分の推測の妥当性を示せるかどうかを聞く。
少し考えてもらった後で、最尤法を説明する。
観測された事象を生じさせる確率が一番高くなるパラメータを採用するのが最尤法である。この場合、ハート、スペード、ハート、ハートという並びが生じる確率が一番高い構成が最尤解となる。ハートが2枚なら1/16、ハートが3枚なら27/256なので、3枚と考える方が良い。
この例を示した上で、尤度関数を条件付き確率p(x|θ)として定義し、最尤法とは事前分布を定数と置いた場合のベイズ推定であり、その根拠はベイズの定理であることを説明する。
ポイントはまずハートの枚数という離散パラメータを使って最尤法の意味を分かってもらい、その後で連続パラメータに進むという順序である。
連続パラメータではパラメータが無数の値を取り得るため、網羅的に比較することができない。だから微分で極大値を求める必要がある。さらに、パラメータに制約条件があればラグランジュ未定乗数法を使うことになる。
自然言語処理で使うN-gramモデルの場合、各N-gramの相対頻度が最尤解であることが示せる。
その後、ベイズ推定と最尤推定を比較し、共役事前分布の話、多項分布の共役事前分布としてのディリクレ分布、対称なディリクレ分布を事前分布として使用することが加算スムージングと等しいといった話をする。
この流れは最尤法を初めて聞く学生への導入としてなかなか良いのではないかと思っている。
トランプを実際に引いて、実演の要素を含ませることは大事だと思った。
僕がギャンブルについて詳しくないのでトランプを使ったが、麻雀を例に出しつつ、牌を引く実演をしたらもっと受けるかもしれない。
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2009年10月25日
太陽を見る目が変わる
Researcher Zukanのインタビューで花山天文台に行った。
東山の山頂にあり、昔は惑星観測にも利用されていたらしいのだが、山科の住宅地開発に伴い夜間の観測はできなくなり、現在はもっぱら太陽観測に使われている。
こちらで太陽の研究をされている磯部洋明先生にインタビューを行った。
電磁流体のシミュレーションで黒点の挙動を予測するというのがご研究の内容だが、応用としては「宇宙天気予報」がある。
太陽の表面では時折、フレアと呼ばれる強烈な爆発が生じている。その時に強い紫外線やX線が放たれるのだが、地球は大気圏や地磁気に守られているため、その直撃を受けなくて済む。しかし宇宙空間ではフレアの影響はすさまじい。
現在の宇宙服では十分に防ぐことができず、被爆してしまう。そのため船外活動を行っている宇宙飛行士はフレアが発生することが分かったら、すぐに宇宙船の影に避難しなくてはならない。
幸いにしてフレア発生の予測技術は徐々に進んできている。
太陽はプラズマの流体であり、その表面には渦が存在する。電荷を帯びた渦が回転することで磁石が生じ、エネルギーの放出を抑えて相対的に暗くなっている部分が黒点である。
黒点同士が接近すると、エネルギー的に不安定な状態になり、ある時点で磁力線のつなぎ替えが生じる。これによって大量のエネルギーが放出されるのがフレアである。
このような現象は核融合炉でも生じるらしく、安全な核融合を行うためにも重要な研究らしい。
観測技術やシミュレーション技術を駆使し、フレアの発生を予測しようというのが宇宙天気予報である。
X線や紫外線で撮影された太陽の映像を見せてもらったのだが、目で見て分かる大きさで表面が爆発を繰り返し、とてつもなくダイナミックである。磯部先生は学生時代にこの映像を見て、太陽研究者になろうと決めたらしい。
実際、僕も太陽を見る目がかなり変わった。人間は残念ながら紫外線やX線を見ることができず、そもそもX線は地表まで到達しないのだが、もし人間が太陽のこのような姿を肉眼で見ることができていたなら、太陽に対するイメージは大きく違っていたのではないかと思った。
地球で暮らしている限り、太陽は白く輝く球体で良い。だが、人類が宇宙に本格的に進出していく時代においては、激しく燃えるプラズマの炎と見なくてはならないのだ。
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2009年10月18日
京都カラスマ大学一周年記念パーティーで占いの歴史を学ぶ
京都カラスマ大学の一周年記念パーティーが洛北の岩倉実相院で行われた。
天台門跡寺院の風格ある大広間でカラスマ大の一年間の活動を振り返り、参加者の皆さんに今後も変わらぬご協力をお願いする。
特別授業は占星術師の鏡リュウジ先生にご講演いただき、後半は夜のお庭で立食パーティー。
実にさまざまな人が集まっていて、知らない人同士でも盛んに会話が交わされ、良い交流の場になっていたと思う。
鏡先生による講演のテーマは、「学びと占いはなぜ無くならないか」。
僕はもちろん占星術など信じないのだが、それでも得るものは多かった。
ひとつの収穫は占星術にまつわるもろもろの蘊蓄である。
古代バビロニアに生まれた占星術がアレクサンダー大王の帝国を通してインドにもたらされ、仏典の一部として中国に伝わっていたという話などは面白い。「西洋占星術」と一般には言うけれど、古代世界を広く覆っていた文化なのだそうだ。
岩倉実相院には幕末に清からもたらされた星図屏風というのが残っていて、これには中国の伝統的な二十八宿ではなく、牡羊座や牡牛座などが描かれている。
講演はこの屏風を背後に置いて行われた。
なかなか心憎い演出だった。
スタッフをしていたため途中は聞けなかったのだが、小説を読み進める際の背景知識としても役に立つというお話もされていたらしい。
欧米の小説を読むのに聖書やギリシャ神話の知識が重要なのはもちろんのことだが、それに加えて占星術の知識もあれば、理解できずにつまづくということが少なくなるだろう。
占星術は人類文明の底流をなす思想体系の一部であり、その歴史は驚くほど古く、影響範囲は恐ろしいほど広い。
各時代の宗教勢力から異端視されて弾圧されたこともあったが、時にはそれらの思想と融合しつつ、姿形を変えて生き残ってきた。
占いはなぜ無くならないか、という問いに対する鏡先生の答えはダーウィンの言葉であった。
「生き残るのは強いものでも賢いものでもない。環境に応じて自らを変えていくものである」
占星術はそれぞれの地域に適応し、自らを柔軟に変えていくことでいつまでも残ってきたのだそうだ。
同様に歴史の荒波に翻弄されつつ、それでも様々な文化を自らの中に取り込み、都市を発展させてきた京都人のたくましさをこれになぞらえ、いろいろなものを吸収していきましょうというメッセージをこめて、講演をまとめられていた。だから学びはいつまでも無くならないのだ。
さて、この講演に対するもうひとつの収穫は、占星術ではなくトーク術についてである。
鏡先生は喋り方が神がかり的にうまかった。
テレビから引っ張りだこなのも頷ける。
いわゆる「雄弁」というのとはまた違った方向性を持った「話のうまさ」である。
大仰な演説調ではなく、優しく説得するような話し方。
自分が大学で行っている講義でもああいう喋り方をしようと心に決めた。
Posted by taro at 22:26 | Comments (0) | taro's blog ℃
2009年10月11日
カラスマ大学一周年を盛大に祝います。
今から一年前、京都に「学びを通したコミュニティづくり」を広めていくべく開校した京都カラスマ大学の一周年記念パーティーが10月17日(土)に行われます。
この一年間で行われた授業は50回近く、登録生徒数は1,500人。
しかしまだまだ盛り上げていきます。
これまでに関わってくださった皆さん、これから関わりたいかもと思ってくださっている皆さん、ちょっと気になった皆さん、ぜひご参加くださいのパーティーです。
会場は洛北の岩倉実相院。これは僕が京都でもっとも好きなお寺のひとつでもあります。
特別授業でご講演いただくのは鏡リュウジ先生。
マスメディアにも頻繁に登場されている有名な先生ですが、単に占いをされるだけでなく、占星術に関する歴史・文化・心理学を幅広くカバーされている大変アカデミックな研究者でもあります。
京都カラスマ大学開校1周年特別授業「“学び”と“占い”は何故なくならないのか」
授業の参加者は年齢も職業もばらばらですが、共通しているのはひとつ、好奇心旺盛であることです。
カラスマ大で学びの仲間を作り、あくなき知的探求を進めていきましょう!
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2009年10月07日
ナノメディ交流会
週末、ナノメディシン融合教育ユニットの交流飲み会があった。
これはナノデバイスやナノマテリアル、生体イメージングやシミュレーション技術を医療応用することを目的とした連続講義と課題解決型の実習からなるプロジェクトであって、宮野さんに誘っていただき、四月から受講しているのである。
企業・大学・公的機関の研究者や学生など、いろいろな人が参加していて大変面白い場である。
交流飲み会はCocon烏丸のお洒落なダイニングバーSARAで行われたが、最近の飲み屋はこれほど安くなっているのかと感心してしまう店であった。
視覚情報の処理を研究している新井さんとのお話が面白かった。
大脳の視覚野に入った情報は背側経路と腹側経路という二つの経路で並列的に処理される。物体がどこにあるかという判断は背側経路で行われ、物体が何であるかという判断は腹側経路で行われるという説が一般的である。
大脳皮質で視覚情報が最初に入るV1(一次視覚野)と呼ばれる領野において、特定の傾きを持つ線に反応するニューロンが存在することは50年以上前から知られていたが、最近では腹側経路の途中にあるV4で特定の曲率を持つ線に反応するニューロンが見つかっているらしい。
このニューロンに関して面白いのは、ある曲率を持つ線であれば、位置や向きがどうであろうと反応することである。つまり曲率の組み合わせが画像認識の特徴量として使われているということが示唆されている。
しかし我々が物体を見る時、それは曲率の組み合わせなどではなく、連続的な全体像として認識される。特徴量に分解することで物体を識別するのは無意識的な働きである。つまり「何であるか」の判定と「どのように見えているか」の認識は別である。実際、目に見えたものを絵に描くことができても、それが何であるかを判断できないという人もいる。V4というのは網膜からそれほど遠くない場所という印象があるが、その時点ですでに「何であるか」の判定が始まっているのである。
「『見え』っていうのは基本的にV1とかV2のレベルの話みたいなんですよ」と新井さんは言う。
V2を出た時点ですでに幾何的な情報から記号的な情報への変換が始まっているのだ。
ランダムドットステレオグラムに脳が騙されて立体的に見えるように、単なる曲線の組み合わせでしかないのにどうしてもマグカップに見えるというような錯覚がそのうち現れるのだろうか。
脳における物体認識の仕組みに関して、ものすごくたくさんのことが分かってきているのだなという印象を受けた。
このような神経回路の働きを解明することは計算機における情報処理の新しい仕組みを作るのにも役立てられるのではないかと常々思っているのだが、その話を新井さんにしたら、それはきっとある、と断言してくれた。
JPEG2000では画像圧縮にウェーブレット変換が使われているが、実はこれとそっくりの変換を行う機構が脳にあるらしい。
人類がウェーブレット変換を知ったのは視覚の悠久の歴史と比べたらつい最近のことである。
逆に言えば視覚の研究を進めていくことによって、人類がまだ想像したこともない画像圧縮のアルゴリズムが見つかる可能性があるわけだ。
新井さんは動物を使った電気生理学的な実験に取り組まれているそうだが、ナノメディシン融合教育ユニットの課題解決実習では視覚情報処理のモデル屋さんである鹿内さんと共同で研究をされるそうなので、また新しい進展があるかもしれない。
Posted by taro at 23:19 | Comments (0) | taro's blog ℃