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2007年04月18日

不老不死

今年も研究室にいろいろ変わった人が入ってきたのだが、修士課程から来たS氏の場合、これまでの研究の内容がかなり異色で興味深い。理学部で生化学の研究をしていたとのこと。新歓コンパの席でいろいろ話を聞かせてもらった。

染色体の末端にはテロメアという部分があり、細胞分裂のたびに短くなっていくのだが、これが短くなり過ぎると分裂は止まる。ヘイフリック限界というやつ。生殖細胞では逆転写酵素を使ってテロメアの延伸が行われるそうだが、体細胞は受精の瞬間から分裂できる上限が決められている。テロメアはいわば生物の最大寿命を決めるカウンター。このカウンターを無制限に伸ばすことができれば、不老不死が実現される――というのは短絡的だが、細胞分裂が止まってしまえば生物はやがて朽ちる運命なので、不老不死実現のための条件であることは確か。

逆に、がん細胞が無制限に分裂を続けるのはテロメアの部分がおかしくなっているからではと言われているらしい。テロメア研究の応用としてはこちらの方が重要。

異常化したテロメアの働きを抑える薬品を設計するためには、まずはその立体構造を明らかにしなくてはならない。具体的にはT-ループという輪っかの構造をしているそうだが、DNAを構成する塩基アデニン・チミン・グアニン・シトシンにはそれぞれ個性があり、それが巧みに利用されて作られているらしい。たとえばチミンの繰り返しが見られるが、これはピリミジン骨格で小さく、折れ曲がりやすいためと言われている。すなわちATGCの配列が単なる符号以上の意味を持っている。S氏の学部時代の研究ではその構造の一部を明らかにしたそうである。

人類の長年の夢のひとつ、不老不死に繋がる一歩。人類は着実に進歩している。

「たまに残念に思うことがあるんだよね。あと百年遅く生まれてたら、不老不死でしょ。惜しかった」 と僕。

「いや、百年後は無理ですよ」 とS氏。「たとえ細胞分裂が無限に続くとしても、時間の経過と共に遺伝子に損傷が蓄積されていきますから。それで体がおかしくなって、死んでしまう。テロメアが伸びただけじゃ不老不死にはならない」

「なるほど。でも、単細胞生物はいつまでも生き続けるよね。遺伝子は損傷を受ける一方だと思うけど」

「単細胞生物の場合、損傷を受けたやつは死滅して、損傷を受けなかったものだけが生き残る仕組みです」

バックアップを取りまくって、どれかが生き残ればいいというわけか。

「じゃぁ、人間の体でも損傷でダメになるのを上回る速度で細胞分裂が行われるようにして、損傷を受けた細胞は駆逐される仕組みが作られたら……」

「うーん」 と考え込むS氏。

それだけの技術の実現は百年後では無理かも知れないが、五百年後なら……。

「それより先に、人間の意識を機械に移せるようになったりするんじゃないですか」 とT島先生が横からコメント。

「あ、それはありそうですね。機械に転写された自分を自分と思えるのかという問題はありますが……」

「それに、その時期には人間の自己意識も変わっているかも知れない」 とS氏。

「なるほど。まるで細菌のように、個人というものがどうでもよくなっているかも知れないな」

「エヴァの人類補完計画ですね」

細胞分裂からいきなりエヴァンゲリオンの話になった。

「そういう話なの?」

「そういう解釈もできるという」

不老不死が先か、自我概念の超克が先か。悠久の未来の話を肴に、酒の席はやや特殊な盛り上がり方をしたのであった。

Posted by taro at 2007年04月18日 22:48

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コメント

エヴァでちょっと笑った。 パトレイバーに出てくる怪物がガン細胞と組み合わせてテロメア修復する奴だった。 映画にもなってるので暇だったら見てみると面白いかも。

Posted by: だんげ at 2007年04月19日 10:52

実は僕は見たことがないのですよ、エヴァンゲリオン。

耐久上映会の案内は時折見かけるのですが、全話連続で見続ける勇気が無く。今度公開される劇場版くらいは見に行こうかと思っています。

パトレイバーは結構好きだったですが、映画は見ていないな。チェックしてみます。ありがとう。

Posted by: taro at 2007年04月19日 12:22

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