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« 偽の影 | トップページ | ピューター製のジョッキ » 2007年01月16日シンガポールにおける研究室の仕組みなどシンガポール滞在の折、Nanyang Technological University (NTU) で助手をしている Zhang Jun と夕食に出かけました。 彼と知り合ったのは今から一年前、ハルピンで国際会議に出席した時。航空会社の都合で帰りの飛行機が急にキャンセルになってしまい、おまけにチケットカウンターでは英語がうまく通じず、我々は大変困っていました。そんな時、会議の会場でもらうバッグを持った彼が偶然通りかかり、助けを求めた所、颯爽と次の便への移行手続きを行ってくれたという縁。国際会議では通常、論文集などを入れたロゴ入りバッグをもらえるのですが、それがこんな役に立つとは知りませんでした。 シンガポールに行くと伝えた所、食事でもしようという話になり、同じく会議に出席していた院生のKリくんと三人で会いました。Kリくんによる「超好青年ですね」というコメントに縮約されるように、とても爽やかな人物。こういう人を目指さなくてはならないなと思っていたのですが、今回、僕と同年齢であるということを知りました。 イーストコーストという海岸に面したシーフードレストランで名物のチリ・クラブ(エビチリのソースで味付けした蟹)を食し、ラッフルズホテル2階のロングバーでシンガポールスリングやビールを飲み、いろいろ雑談しました。以下はその時に聞いた話。 Nanyang Technological University における研究室の仕組みは日本とだいぶ違う。研究室に相当する教員や院生の集まりはセンター(centre)。ひとつの学部(school)の中にいくつものセンターがある。僕が先日訪問したのはマルチメディアとネットワークを扱う CeMNet というセンター。Zhang Jun が所属しているのはデータベースやデータマイニングを扱うセンター。大学の執行部が重要と考えた分野に関してセンターが作られ、予算が確保される。院生は基本的にどこかのセンターに所属し、研究を進める。full professor の数は非常に少ないため、associate professor と assistant professor しかいない centre も多い。それぞれの教員がかなり独立していて、各自大学から一人分の学生の給料が支給され、担当することになる。それ以上の学生を雇えるかどうかはその教員が外部資金を獲得できるかどうかにかかっている。 学部卒業後の学生の進路には PhD、M.Sc.(Master of Science) に加えて、M.Phil.(Master of Philosophy) というのがある。M.Sc. は一年だけのコースで、勉強の延長という色彩が強く、研究の側面は弱い。修了時に論文を書かせたりすることもあるが、サーベイ的な論文になることが多い。一方、M.Phil. が二年間のコースで、日本の修士課程に近い。しかし、日本との違いは学部を卒業した時点でどのコースに進むかを選べるということ。修士課程の後に博士課程、という順序になっていない。PhDコースは最短三年で出られるが、四年かけて取る人が多い。 基本的に PhD の学生には基本的に給料が支給されるが、M.Phil. や M.Sc. の学生には支給されないこともある。PhD の学生の月給は 1,500 SGD(約12万円)くらい。ポスドクになるとその2~3倍。最近、PhD の学生が授業を担当する制度もできていて、その場合は月あたり 2,000 SGD(約16万円)くらい。 ポスドクの給料は PhD の学生に比べて高いので、雇わない教員も多い。また、PhD の学生であれば最低でも三年間は研究室にいるけれど、ポスドクの場合はすぐにいなくなってしまうかも知れない。しかし、学部を卒業したばかりの PhD の学生と違って、即戦力になるというメリットがある。 日本の大学院にはこういう制度が無いので、学生は自分でバイトするか、奨学金を取るか、親の仕送りに頼るかだと思います。あるいは外部資金を獲得した研究室が独自に行うしかありません。 日本でも政府の奨学金の予算をこのような形で配分することはできないものでしょうか。 政府の力が強いと言われるシンガポールですが、現在、政府がIT分野で積極的に取り組んでいるのは interactive digital media, grid computing, bioinformatics らしいです。屋根が芝生になった変な形の建物が大学の敷地内にあったのですが、それは芸術系の学部だそうで、interactive digital media の予算もそこに配分されているそうです。 今回参加した会議はマルチメディア系だったため、画像検索を実現するために画像解析してインデックスを付けるという試みがいくつかあったのですが、やはり人間が付けたアノテーションが無いと検索は難しいのではという話になりました。それではどのように良いアノテーションを集めたらよいか。Zhang Jun が言及したのはカーネギーメロンの学生が作ったシステムで、互いに知らない二人を結び合わせてゲーム形式でタグを付けさせるというもの。 システムはサーバ上で動いていて、同時にアクセスした二人に同じ写真が提示され、それをキーワードで説明するよう要求されます。二人は互いに連絡を取り合うことができません。制限時間内に二人が同じキーワードを入力すると、次の写真に進めます。一致した写真の数が一定の枚数まで到達すると、「心の友(soulmate)」と認定され、互いに連絡が取れるようになります。一種の出会い系です。「同じ画像に同じことを感じるのだから、仲間じゃないか」という理屈。 一方、システム運営者側から見たメリットは、なるたけ多くの画像に人間の判断でタグを付けてもらい、画像検索に役立てられること。ゲームのプレーヤーは自分がその画像を見てどう思うかではなく、不特定の誰かがどうラベル付けするかを想定してキーワードを入力しているので、結果が客観的になる。ゆえに優れたアノテーションが得られる。 このシステムは Google が買い取って、Google Image Labeler になったそうです。実際、なかなか遊べます。 ちょっとしたアイデアで大きな効果を上げている点が非常に面白いです。こういう見事なシステムが作れたら幸せだと思います。 Posted by taro at 2007年01月16日 00:10 « 偽の影 | トップページ | ピューター製のジョッキ » |
