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2006年06月22日

老化の遺伝子

高校の頃の友人イヅが学会で京都にやってきて、
夜あいているので飲みに行かないと誘われ、飲みに行った。
六年ぶりくらいの再会。

烏丸御池の宿の近くで待ち合わせし、御池から高倉を下がった亀甲屋という居酒屋で夕飯。
ここのおかみさんは非常に上品に愛想が良く、雰囲気のいい店。
カウンターの上に並べられたおばんざいから好きな物を頼む。どれもうまい。
近況話に花を咲かせる。

イヅは分子生物学が専門で、最近はRecQ5βという老化に関係のありそうな遺伝子を研究しているという。
RecQ5βはRecQ helicaseと呼ばれるグループの一員であり、
helicaseというのは DNAの二重らせん(double-helix)をほどく(巻き戻す)時に使われる酵素とのこと。

大腸菌や酵母にRecという遺伝子の組み換え(recombination)に関わる遺伝子があり、
人間にはそれとホモロジーの大きい遺伝子が5つある。
おそらくRecが五つに分かれて進化したと考えられていて、
それぞれWRN、RecQ3、RecQ4、RecQ5などと呼ばれているそうだ。

細胞には遺伝子が紫外線などによって損傷を受けた場合、いったん巻き戻して修復するという機能があるそうだが、
RecQ helicaseに異常があると、その修復が行われない。
なので、遺伝子に急速に異常が蓄積し、マクロ的には老化として現れることになる。早老症と呼ばれる病気である。
WRNに欠損がある人はワーナー症候群といって、人より早く老化してしまう。
RecQ3に欠損がある人はブルーム症。RecQ4の場合はロスムンド・トムソン症。
これらは実際の症状に直結しているということで、研究者が山のようにいる。
ところがイヅが研究の対象としているRecQ5は今のところ具体的な症状と結びついていないので、研究者が非常に少ない。
日本に3-4人くらいではないかという。

RecQ5には三種類あり、スプライシングの時にエクソンがすべて使われるものとそうでないものがあり、長さが違う。
イヅが対象にしているのはその中で一番長いRecQ5β。アミノ酸が991個。

これが細胞内でどのように働いているかを調べるために、それが他のタンパク質と作る塊、複合体の構成を明らかにしていく。
RecQ5βのまわりにどのようなタンパクが集まっているかが分かると、その役割が推測できる。
そもそもイヅが所属している研究室は、タンパク質を解析するプロテオミクスを得意とする研究室なのだそうだ。

実験では、対象とする細胞の抽出物にRecQ5βと結合する抗体を加える。
抗体にはセファローズビーズと呼ばれる“重り”が付いていて、
これによってRecQ5βの複合体が重くなるので、遠心分離で沈殿させ、単離できる。
これが免疫沈降(immunoprecipitation)という手法。

得られた抽出物にアルゴンなどをぶつけると断片に壊れるので、
その分子量を質量分析(mass spectrometry, MS)で計測する。
断片が分かればそれがどのタンパク質であったのかが分かる。
これがシークエンスタグ法。

「ヒトゲノムがすべて解析されているからできることだけどね」

人間の細胞内に存在しうるタンパク質がすべて分かっているので、
データベースの中からマッチするものを見つけてきてくれるわけである。

生ビールの二杯目を頼む。
亀甲屋のおすすめは豆腐。近所の平野さんという豆腐屋で作られているのだが、
有名な旅館の柊屋や俵屋でも使われているという。いずれもこの店からすぐ近くである。

「京都は水がいいらしくて。うちでは平野さんと同じ水を使って、お出ししているんです」

揚げ豆腐を頼んだが、なかなか美味であった。

11時に閉店したので、まだ少し飲もうということで、御池通りを東に歩く。
麩屋待町で曲がり、柊屋と俵屋の間を歩く。
落ち着いた佇まいで、とても京都らしい雰囲気。
柊屋のすぐ南に豆腐屋の平野さんを発見した。

いったん鴨川まで出て橋の上で夕涼みし、先斗町を下がり、前から行ってみたかったバー、クラブ・デゼールに入る。
こちらも雰囲気の良い店。酒の品揃えにこだわりがある。
マスターから35年前のジョニーウォーカーを勧められた。

分子生物学の分野でここ五年ほどで広く使われるようになったRNA干渉(RNA interference, RNAi)という手法について教えてもらう。
siRNAと呼ばれる短いRNA鎖を加えると、それと結合する相補的なmRNAが分解されてしまう。
結果として、染色体から遺伝子をノックアウトするのと同じような結果が得られる。
手間と時間のかからない、「すごい技術」。
ノックアウトならぬ、ノックダウンと呼ばれている。
これを使ってRecQ5βの有無がどのような違いをもたらすかを調べているそうだ。

「細胞内で動きました、というのは分かる。だけど、生体内でどんな必要性があるか。それがbiology。
それがないと、現象学になってしまう。ずっとやってると、現象学ばかりやっている自分に気付いたりする。
あれも動きました、こうも動きました、みたいな。
どういう役割を持っているのか、長いプロセスのどこに機能しているのか。今、絞り込んでいるところ」

イヅの研究室は教授ひとりにドクターの学生が数名という小規模な研究室なので、
新しい系を作るとなると、論文だけを頼りにして作らなくてはならない。

「そういうのって、コツがあるじゃん」

大きな研究室のメリットは、様々な系を作るノウハウを持っていること。
ビッグラボはうらやましいと言っていた。

Posted by taro at 2006年06月22日 23:53

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コメント

見知らぬものですが、突然ですが、こんにちは。我が家にはおそらくロスムンドトムスン症候群であるだろうといわれている小学校4年生の男の子がいます。たまたまこちらのブログを拝見しました。色々と研究されているのでしょうが、症例が日本では少なくて今後どのような経過をたどるかもわかりません。素人なので、RecQ4がどーのこーのとあると、へえこの子の体の中はそんな事が起こっているんだ!くらいにしかわかりませんが、興味深く読ませていただきました!

Posted by: 地方人 at 2008年07月23日 13:18

何と申し上げたら良いか分からず、ご返信が遅くなってしまいました。
他人事のような書き方、申し訳ありません。

友人は研究を頑張っているようです。治療法が早く発見されることを願っています。

Posted by: taro at 2008年07月30日 23:39

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