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2006年05月14日

A地下バー再訪

学生の頃の知り合いで現在は新聞記者をしているWさんが、大学の地下にあるA地下バーに行ってみたいと以前から言っていたので、たまたま東京で働いている僕の妹が京都に遊びに来ていたこともあり、連れだって飲みに行った。

金曜日の晩、A地下バーでは微生物の研究者であるaがマスターをしている。博士論文では大腸菌を扱っていたa、今年は乳酸菌を研究しているらしい。

僕の妹は学生の間、ニワトリの発生を研究していたという話をすると、
「多細胞の人はいいよね。原核生物はほんとに見下されているから」と嘆いた上で、「でも、乳酸菌だと一般人の食いつきが全然違うね。大腸菌を研究してますって言っても、『ふーん』で終わりだったけど。乳酸菌だとみんなすげぇ興味持ってくれる」

乳酸菌は体にいい、のイメージは大きい。

乳酸菌というヨーグルトに入っているビフィズス菌をまず思い浮かべてしまうが、実際にビフィズス菌を研究している人々に言わせると、「乳酸菌とは一緒にしないでくれ」ということになるらしい。

なぜかというと、ビフィズス菌は乳酸に加えて酢酸も分泌する。さらに、酸素に触れると死んでしまう。だから、ビフィズス菌を扱う場合は培地に酸素が入らないように細心の注意を払わなくてはならない。酸素を抜くホッカイロのようなものがあるのだが、ビフィズス菌の場合はそれを通常の倍、入れる必要がある。そんなこんなでいろんな手間がかかるので、「乳酸菌と一緒にしないでくれ」ということになる。
もちろん、ビフィズス菌を乳酸菌に分類する人も多い。

ビフィズス菌がなぜ体に良いと言われているかというと、赤ちゃんの体内ではある時期までビフィズス菌が優勢であり、それが赤ちゃんの異様な元気さの理由ではないかと言われていて、大人もビフィズス菌優勢にしたら元気になるのではないか、という仮説が立てられたためだそうである。

赤ちゃんにおけるビフィズス菌優勢の原因は、母乳ではないかと考えている人もいる。
母乳入り栄養ドリンクとか、ヒットするかも知れない。
もちろん、母乳の成分を合成的に作ることになるのだろうけど。母乳成分入り栄養ドリンク、といったところか。

「だけど、乳酸菌の研究はすごく苦労が多いよ。大腸菌に比べて」とa。

大腸菌であれば現在までにかなり研究が進んでいて、DNAの取り出し方が確立されている。また、データの蓄積もある。
一方、乳酸菌は細胞壁が厚く、遺伝子を入れることが困難。
大腸菌はグラム陰性、乳酸菌はグラム陽性である。
また、研究があまり進んでいないため、DNAを取り出す方法も確立されていない。
乳酸菌というのは乳酸を分泌する菌の総称であるため、DNAを取り出す方法、つまり細胞壁を壊してDNAだけを取り出す方法はそれぞれ異なる。
乳酸菌の中でも、今まで研究が行われてきた株では取り出し方が知られているが、同じ方法を別の株に適用してもうまくいかない。

すなわち、大腸菌で当然のように出来ていることが、乳酸菌では全然出来ていない。
逆にいえば、これから大きく発展していきそうな分野ということになる。

現在のaの研究は、「体にいい乳酸菌」を作ることだそうだ。具体的には、腸壁によくくっつく乳酸菌を探しているという。

「乳酸菌が細胞にくっつくというのは、ホットなトピックなんだよ。腸内フローラとか言われていて。お花畑のイメージね。腸の表面に菌が大量にくっついている状態で」

だが、乳酸菌もビフィズス菌も腸壁にくっつく力が弱く、一日経つと腸から流れ出てしまう。
「だからヤクルトは一日一本なのか」と僕は納得。

aは乳酸菌のたくさんの株の中から、ほ乳類の細胞によくくっつくものを見つけようとしている。
これが見つかると、毎日乳酸菌飲料を飲まなくてもよくなる。
効果の持続する乳酸菌飲料。

「腸にくっつく乳酸菌。ニュース性のありそうなテーマですね」と新聞記者であるWさんに言うと、
「あるある。記事になるよ」

そのような条件を満たす乳酸菌を見つけるため、様々な株の乳酸菌をほ乳類の細胞と混ぜ合わせ、塊を作るものがないか調べている。
だから最近は毎日、顕微鏡を覗いているそうだ。

そうやって100株調べたところ、そのうち2つが大きな塊を作っていた。

「嬉しくて、教授呼んじゃったよ。『塊作ってますよ!』とか言って」

ところが調べてみると、あいにくそのうちのひとつはオランダ人の研究者がすでに昨年、論文として発表していたという。

「ほんのちょっとの差でね。しかも、仕組みまで明らかにされていた」
「もうひとつの方は発表したの?」
「いや、まだできない。どうしてくっつくかの仕組みまで明らかにしないと、論文にならない。だけどなかなか難しいよね。DNAを取り出すこともできないし」
「くっつく仕組みっていうと、糖鎖?」
「糖鎖と、レクチンというタンパク質がくっつく。細菌の方がレクチンで宿主が糖鎖という場合と、細菌が糖鎖で宿主がレクチンという場合の二つがあるけど。前者の方が多いかな」

糖鎖とレクチンの両方を明らかにしないと、論文として発表できないそうである。

「よくくっつく菌だけをたくさん入れるって、ちょっと気味悪い気もするよね。遺伝子組み換えではないからいいのかも知れないけど」と僕。

これからの人々はみんな、様々な善玉菌を体内のあちこちに選択的に棲ませるようになるのだろうか。

「くっつきやすい乳酸菌って、いいことばかりじゃない気もする。虫歯の原因とかになりそう」
「それはありうる」

Wさんからは、取材でイラクに行った時の話をあらためて聞いた。

イラク入りする直前、イギリスの学校で戦場での心得のような講習を受けたという。
講習を開いているのは、元軍人たちが働く警備会社。

その講習の中に、「人質になった時の生き残り方」という科目があった。

いろいろ心得があるのだが、そのひとつは誘拐犯側になるたけ情を移させること。

誘拐犯といっても人間なので、情が移ると殺しにくい。
常にうまくいくとは限らないが、その僅かな可能性にかける。

モノではなくヒトなのだということを感じさせること。
具体的には、何でもいいから小さなお願いをする。
それを叶えてもらえたら、別のお願いをする、ということを繰り返す。

たとえば最初は「顔を洗わせてくれ」。何度もお願いしてそれが認められたら、次は「歯を磨かせてくれ」。
順に願いを叶えてもらうことで、人間として認識させる。

幸い、Wさんはそのような危険な目に遭うことなく、日本に帰ってこれた。
現在は神戸で社会部の記者をしている。

記者としての最近の問題意識は何ですか、所得格差の拡大とかですか、と聞いてみると、

「たくさん稼いでいる人が幸せとは限らないし、所得が少なくてもその分時間があって幸せな人もいるし、格差の拡大って、言うほど問題なんだろうか」とか言う。

「それじゃ、自殺が増加しているという問題はどうですか。自殺する人は幸せですか」と聞くと、
「それは問題だと思うね。すごく取り上げたいと思っているテーマ」

相談に乗ってあげる人が身の回りにいれば、自殺を思いとどまる人も多いのではないか、
米国におけるカウンセラーのようなものがもっと増えればいいのだろうか、という所から、
日本におけるそのような役割を担いうる存在として、生死に関する専門家である仏教のお坊さんはどうか、という話になった。

実際、自殺しそうな人を助けるという事業に全国のお坊さんが立ち上がればいいのに、とか思う。

Wさんのブログ

A地下バー

Posted by taro at 2006年05月14日 23:20

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コメント

前の記事から気になっていたのですが、
いつか連れてってくださいませんか??

Posted by: at 2006年05月15日 10:27

了解です。
また行きましょう。

Posted by: taro at 2006年05月15日 12:28

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