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2006年04月06日

脳に電極の講演会

ATRで脳と機械を繋ぐブレイン・マシン・インタフェースに関する講演会があったので、聞きに行ってきた。

「脳を活かす研究会」という名前の会で、この春に出来たばかり。

ちょっと遅れたために途中からだったが、ジャーナリストの立花隆氏が話していた。

アメリカではニコレリスとシェーピンという研究者がラットの脳に電極を付け、ラットが考えるだけでロボットアームが操作されるという実験に成功している。

この研究にアメリカ国防総省の研究機関であるDARPAが注目し、大量の資金を提供して「考えるだけで銃を撃てるシステム」というのを開発しているらしい。
戦場では一秒でも速く撃つことが重要とか。
引き金をひく時間も惜しいのだそうである。

そのうち、撃とうと考える前に撃ち終わってる銃とかも発明されるのだろうか。

立花氏の分析によれば、脳研究の方向に近年、大きな変化が起きているという。
従来は基礎科学的に、ニューロンレベルでの解析を行おうとしていたが、
現在では大量のニューロンのまとまりから意味のある情報を取り出し、
実用的なアプリを作るという応用科学的な展開が急速に進んでいる。

分子ひとつひとつが細胞の機能にとってそれほどクリティカルでないように、
ニューロンも個々の繋がりより全体的な傾向が重要と言えるかも知れない。

話が面白くなってきたところで終了のベルが鳴らされたのだが、
途端に「それでは、おしまいです」と言って講演を打ち切ったのは偉いと思った。

続いて、SF作家の瀬名秀明先生が話をされた。
最近、東北大の特任教授に着任し、サイエンスリテラシーを高めるための活動を行っておられる。

科学の本質は方法論であり、グレーゾーンの部分にこそ科学の神髄があるのだが、一般人は明確な結論ばかり求めるので疑似科学が流行する、という話。

脳に関する小説として「ブレインバレー」というのを十年前に書かれているのだが、最近の読者から「この本はクオリアについて書いていないからダメだ」といった手紙が来たりするらしい。

人間が「自分にクオリアがある」という言い方に説得力を感じるというのはどういうことなのだろうかとか思う。

研究会の最後は、日大医学部長の片山容一先生によるDBS(Deep Brain Stimulation, 脳深部刺激)の講演。脳内に電極を埋め込むことで、脳卒中の後遺症などを治療できるという話。

従来の脳神経外科では研修の頃から神経繊維間の結びつきを大量に憶え、その欠損から生じる後遺症を理解していくため、脳の不調に対して「神経回路(circuit)の機能欠損」という考え方をしてしまうことが多い。

これに対し、機能神経外科では脳の不調を「神経回路網(network)の機能失調」と捉える。

回路であれば配線が一本切れたら匙を投げるしかないが、ネットワークであれば別の場所でバランスを取ればよい。

機能神経外科では当初、脳神経を一部破壊することによってバランスを取り戻すという治療法を行ってきた。

一方、片山先生らが取り組まれている治療法では神経を破壊せず、脳内に埋め込まれた電極からパルス信号を送り込む。脳の深部に刺激を送るので、脳深部刺激(Deep Brain Stimulation、DBS)と呼ばれている。鎖骨の下にバッテリを埋め込み、皮膚の下を走らせたケーブルを通して刺激を送る。

脳卒中の後遺症で生じる不随意な震え(振戦)がDBSによって劇的に止まるビデオは感動的である。

「ゆびゆび試験」というのがあって、両手の人差し指同士を近付けた途端、手が激しく震えてしまうという患者さんたちがいる。
パルス信号のスイッチを入れた途端、この震えが止まるのである。

ヘミバリスムスという症状を持つ患者さんは、起きている間延々と体の一部が不随意に動いてしまう。これは視床にDBSを行うと劇的に改善される。

ジストニアという症状の患者さんは筋肉が勝手に収縮してしまうそうだが、腹筋にこれが生じると、常に前屈した状態でしか生活できない。これもDBSで治療したとたん、まっすぐ立って歩けるようになる。

幻肢疼痛といって、無くなったはずの手や足が痛むという症状があるそうだが、これは手や足を治療するわけにはいかず、脳を治療するしかない。これに対してはかなり早い段階でDBSの治療が行われてきた。

パーキンソン病にも効果がある。

最近ではてんかんや精神疾患にまで利用を拡大しようとしているそうだ。

脳内のどこに電極を差し込むかによって、効果が違ってくる。
現在までにDBSの対象となっているのは、視床、大脳皮質、淡蒼球内節、視床下核など。

効果を得るためには、正しい場所に電極を差し込むことが非常に重要である。

最近ではMRIの精度が向上したことによって、MRI誘導定位脳手術というのが行われている。

手術の時に撮影された動画を見せながら、片山先生が説明する。

「ここが視床下部、ここが黒質です」

しかし、MRIでは1mm以下の精度は期待できない。
そこで準微小電極というのを使って、電極の先にあるニューロンの電位変化を見ながら動かしていく。
電極が視床下核を貫いた途端、特徴的な波形が現れるのではっきりと分かるとのこと。

近年の発展としては、DBSから四六時中パルス信号を送り続けるのではなく、必要に応じて起動するという方式が研究されている。これは「オンデマンドDBS」と呼ばれていて、フィードフォワード制御とフィードバック制御の二種類がある。

フィードフォワード制御の場合、腕に電極を付けて筋電を測るようにしておき、特定の場所に筋電が生じた時にパルス信号を開始させる。不随意振戦は姿勢によって生じることが多いため、この制御は有効である。

最初の頃は一ヶ所から筋電を取っていただけだそうだが、現在では四つの筋電計を付け、最適な結合を学習させているらしい。

振戦が起きている時の患者さんの脳を近赤外線イメージング(NIRS)で見ると、運動野の特定の部位に非常に活発な活動が起きているのが分かる。これを使って制御することも考えている。

一方、フィードバック制御の場合、単に筋肉を動かした時ではなく、振戦が発生した時にパルス信号を起動する。振戦が止まればパルス信号を停止する。
ところがこの方法の問題は、振戦とパルスが振動を起こしてしまうということ。

振戦が発生したらパルス信号が送られるが、それによって振戦が止まるとパルス信号も止まって、また振戦が発生する。

結果として、最初よりも複雑な振戦が生じてしまう。

フィードバック制御を行った時の動画を見せてもらったが、患者さんの手が静止せず、ぷるぷる複雑な波形で震えている。

片山先生いわく、

「エンジニアの人はこういった部分が面白いらしく、いろいろパラメータを変えて実験されていましたが……」

患者さんで遊んではいけません。

講演後、片山先生に会場からの質問。

「電極に送られるパルス信号は位相制御されているのですか。つまり逆相の信号を送っているのですか。それともやみくもに送っているのですか」

「やみくもに送っています。それでもうまくいく」

「この治療によって生じる問題としては、どのようなものがあるのでしょうか」

「ひとつは、脳内に信号を送ることで脳が特定の周波数を学習してしまい、てんかんが生じてしまうのではないかという危険性。もうひとつは、脳内で欲求を司る報酬系という場所を刺激してしまうと、患者さんは治療されること自体に喜びを感じてしまう。そういうことが起きないように、注意しています」

かなり未来を感じさせる研究会であった。

Posted by taro at 2006年04月06日 23:57

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