【報告】
フリマでわらしべ長者を目指す

六甲山の西の端、摩耶山の展望台にて毎月一回、フリーマーケットが開かれている。リュックサックマーケットという名前に表されているごとく、リュックに売りたいものを詰めて山上まで上がれば、出店料・出店申し込み不要で気軽に店を出せるというイベント。

リュックサックマーケット

展望台からの眺めはすばらしく良く、阪神間に広がる海沿いの街並み、六甲アイランドからポートアイランド、神戸空港まで見渡せる。

しかし、フリマの開催場所としてはかなり特殊である。阪急の駅からバス・ケーブルカー・ロープウェーを乗り継がなければ来られないため、何かのついでに立ち寄る客はほとんどいないと思われる。

つまり、出店者以外の参加はほとんど無いのではないか。

主催者側もそれは理解しているようで、出店者同士の物々交換を推奨している。案内のちらしには以下のように書かれている。

> お金をつかっておかいものするのはもちろん、ぶつぶつこうかんだってOK。お金という「ものさし」もいいけれど、それいがいの「ものさし」についてもかんがえてみるきっかけになればいいな。

高い理念を掲げたフリマなのだ。

このイベントを宣伝していた時、H松くんが「物々交換でわらしべ長者的なことをしたい」と言ったのを受けて、実際にやってみることにした。

めざせ現代のわらしべ長者。

フリマ開催の前日、ホームセンターで藁を購入してきた。家庭園芸用の敷きわら、一袋400円。はたしてそれ以上の価値を持つ商品と交換できるのか。

出店の当日は目を見張るほどの快晴。六月の澄んだ青空。

阪急六甲駅に集合し、ケーブルとロープウェーを乗り継いで山上まで上がる。

時刻は正午過ぎ、すでにいくつかのグループが店を出している。

「ブルーシート持ってくれば良かったー」とぼやくM田さん。だが、芝生の上なら商品を広げても大丈夫。

僕は藁しか持ってこなかったが、今回参加した他の皆さんはそれぞれ売り物を持ってきている。Y川さんなどはスーファミの本体を持ってきていた。この人、かなり関西人っぽいノリの人なので、ネタで持ってきたのではないかと思うほどだ。すごく重かったらしい。

周囲の出店者も皆、それなりに良さげな品物を売っている。

それに比べて僕の藁は実にみすぼらしい。

勇気がくじけそうになる。

「この服と僕の藁を交換してくれませんか……?」

と、言えるだろうか。

藁を籠に入れ、首から「僕とわらしべを交換しませんか」と書かれたケント紙を掛け、営業に出かけることにした。

まずはこんな変な参加者でも暖かく受け入れてくれそうな、主催者の人たちのいるエリアに向かう。きっと激励してくれるのではないか。

受付の横でF戸さんがカレーを売っていた。彼女は週末、六甲山の東の端で「山カフェ」という屋外カフェを開いている人。

「藁とカレー、交換してもらえませんか」
「えー、藁ですか」

彼女、将来自分の店を持つことを目標としている料理人の卵であって、手間暇かけて作ったカレーを藁一本と交換するというのはさすがにプライドが許さないだろう。交換してもらえなかった。

その時、傍らにいた関係者っぽいお兄さんが助け船を出してくれた。

「じゃ、タマネギと交換しようか」

開始後5分以内でいきなり交渉が成立。

藁とタマネギ、奇しくも農産物同士の交換だ。

タマネギなら欲しい人も多いだろう。交換の可能性が大きく広がった。

この交換の時、藁だけ渡すということに何だか申し訳ない感情を抱いた。実はこれはすでに予想していたことで、見栄えをよくするために藁を包む紙袋(のし袋)を用意しておこうと考えていたのだが、前日までかなり忙しく、買えなかったのである。(ただし、なぜかホームセンターに藁を買いに行くだけの時間はあった)

というわけで手製の袋を作成した。画用紙を折り曲げて、手書きで「わらしべ長者謹製」と書く。袋の部分が謹製だ。

これは記念品として喜ばれるかも知れない、とひそかに期待してみたりする。

僕が作業にいそしんでいると、目ざとく見つけて群がってきたのは子供たち。

のし袋を手にとって、女の子が尋ねる。

「何これ」
「藁が中に入ってるんだよ」
「ちょうだい」
「だめだめ。交換しなくちゃいけない。わらしべ長者って知ってるでしょ?」

ふと思った。最近の子供たちはそもそも「わらしべ長者」という話を知っているのだろうか。僕が子供の頃はまんが日本昔話という番組があり、下手したら親の世代以上に昔話を知っていたものだが……。

「ふーん」と、女の子は分かっているのだか分かっていないのだかよく分からない返事をする。

立ち上がり、さっとどこかに行ってしまう。そしてすぐに戻ってきて、「じゃぁ、これと交換しよ」と言ってきた。

差し出されたのはそのへんで摘み取ってきたと思われる松の葉一本。

これは予想していなかった。

僕は断り切れず、その商売センスあふれる女の子から松の葉を受け取った。

藁の入った紙袋を掴むと、彼女は足早に走り去っていった。

松の葉を持ってきて僕のわらしべをせしめていった女の子が現れた後、同様に松の葉を持ってくる男の子たちが相次いだが、僕は「同じものとは交換しない」と宣言し、紙袋作りにいそしんだ。

ある程度溜まったので籠に入れて、ふたたびフリマ会場を横断しに出かける。

「わらー、わらー、日本一のわらー」

最初来た時よりも出店者の数が増えている。見たところ30組くらいか。

どういう出店者が多いかというと、若い子連れ夫婦やカップルが多い。夫婦が二人で一緒に何か目的を持ったことをするというのはいいことではないかと思う。展望広場はグラウンドくらいの広さがあって、子供たちが走り回って遊んでいる。親同士のフリマ出店をきっかけに知り合った子供たちもいるのではないか。それって商品の売り買いよりもずっと価値があるような気がする。

石垣の前で店を出していた三組くらいの家族連れの前に乗り込んでいって、藁を売り込んでみた。結構面白がってもらえる。帽子をかぶった若いお母さんが紙箱を見せながら言う。

「じゃぁ、これどうですか?」

まだ開けていないジグソーパズルだ。

「いいんですか」
「はい」

これまでで一番価値のありそうな商品ではなかろうか。

喜んで写真など撮っていると、石垣にもたれて立っていた小学生くらいの女の子が「なんで藁なんか欲しいねーん」とつっこみを入れた。鋭い。

さらに別の男の子がクッキーを持ってきた。これも藁と交換してもらう。

タマネギのお兄さんが通りがかった。口に藁をくわえている。

「役に立ってるよ。禁煙パイポの代わりになる。今ちょうど禁煙中なんだ」

一緒に来ていたM田さんもわらしべ交換に挑戦することになった。ネット上で格安チケットショップを経営しているM田さんは僕よりずっと営業力があると思われる。

ノリの良さそうなご夫婦の店に乗り込んでいき、さっそく藁をきらきらシール一枚と交換してもらった。

その次に行った店では、幼稚園児くらいの子供がジグソーパズルを欲しがった。

「わらしべと交換してもらえれば」
「わらしべって何?」とお母さん。
「藁です」
「……。あーっ、わらしべ長者!」
「そうです」
「藁かー。ええやんかー」
「交換を続けていって、どんどん良くしていくんです」
「グレードアップしなくてはならんのかー」
「い、いや、別にいいんですけどね」

押しの弱いM田さん。

「じゃぁ、これ」

差し出されたのはキッチンペーパースタンド。これはかなりレベルが高い。藁は着実にグレードアップしていっている。

小さな女の子、ジグソーパズルを抱えて「やりたい、やりたい」と騒ぐ。これだけ喜んでもらえたら、わらしべ長者も本望である。

自分たちの店に戻ると、キッチンペーパースタンドは大受けであった。「ええやん、ええやーん、これー」とI垣さん。「私が欲しい」

I垣さんもわらしべ長者をしにいく。

キッチンペーパースタンドはすぐに交換したいという人が現れた。

レモンジューサー、キーホルダーと交換してもらった。

キッチンペーパーの方が高級そうだから商品二つと交換してもらう、というのは若干がめついようにも思うが、これはリスク分散でもある。商品が増えればそれだけ交換してもらえる可能性は増えるのだ。

それほど広い会場ではないので、何度も同じ店の前を通ってしまう。「また来たの?」みたいな顔をされる。しかし、東と西を行き来しながら交易を続けていれば、次第に商品のレベルは上がっていくのだ。レモンジューサーは 2 wayジューサーに、クッキーがマンガ13冊になった。

F戸さんのカレー屋の前まで来た時、椅子に腰掛けていた若い女性二人が興味を持ってくれた。

「わらしべ長者? 交換したいけど、売れるもの何も持ってないー」
「何でもいいんですよ。別に売り物でなくても」
「それも無いなぁ」

彼女たちは単に客として来ているだけのようである。こういう人は実に少ない。本当に、出店者しか来ないようなフリマなのである。まさしくわらしべ長者をするためにあるようなイベントであると言えよう。

女性のひとりが訊いてきた。

「最終的に何と交換してもらうことを目標にしているんですか」

鋭い質問だった。少しも考えていなかった。

「家とかではないですよね」
「無理でしょ」
「自転車とか、どうですか」

展望台の一角に停められている自転車を指さす。あれは売り物なのだろうか?

それも無理だろうと思いかけたが、考え直す。藁がキッチンペーパースタンドになるのだから、ひょっとして自転車も可能なのではないか。中古の自転車くらいなら、行けるかも知れない。個人的に欲しい。いったい何ステップくらい掛かるだろうか。急に目標が現実味を帯び出した。

「目指してみます」

僕は宣言した。

その時、僕の目にはフリマの会場に並べられた商品同士が無数の赤い線で結ばれているのが見えた。このフリマに参加しているすべての人の欲求を見ることができたとしたら。私のこの商品とあの人のあの商品は交換してもいいと思ってる物同士を辿っていけば、藁は確実に自転車と繋がっているのではないだろうか? 家とも繋がっているのではないか?

「レモンジューサー、ひそかに狙っててんけど。今度いい商品あったら、カレーと交換せぇへん」とF戸さん。
「カレーは食べたら終わってしまうからダメです」
「そっか。交換を続けていかなならんもんな」

小学生くらいの男の子に藁とクッキーを交換してもらう。幼稚園くらいの女の子が藁をミッキーの手帳と交換してくれた。

「藁だとなかなか交換してもらえないけど、ここまで来たら簡単に交換してもらえるよね」とM田さんが言う。
「そうですね。でも、個人的には藁が一番の売れ筋商品だったような気がしますけど」

台湾みやげのキーホルダーは指輪になった。この指輪、結構高い値札が付いていた。フリマだから適当な付け方だとは思うが、ちょっとびびる。

2 wayジューサーはTシャツを経て心理ゲームの本になった。

デニムのワンピースを着た上品な感じの女の子が心理ゲームの本に興味を示してくれた。小学生くらい。母親同士がお喋りしている横で店番をしている感じ。

「子供服と換えてもらえますか」
「もちろんですよ!」

隅の方に重ねて置いてあった服を一枚ずつ広げ、説明してくれる。

「シャツとかいろいろありますけど。これはファミリアのズボン。どうですか」
「ファミリアって何?」
「くまのマークのブランドです」

小学生の女の子である。そんな年齢からブランドを意識しているのか。女って恐るべし。

僕は心理ゲームで彼女の心を掴み、そのブランド物のズボンを首尾良く手に入れることができた。

ついに藁がブランド物の子供服になってしまった。なかなかの快進撃である。これはすぐに交換してもらえるだろう。先ほどジグソーパズルをキッチンペーパースタンドと交換してくれたお母さんの所に持って行くと、いいわねと言ってもらえた。幼稚園くらいの娘さんにサイズがぴったり。

「もうあんまり商品が残ってないんですけど……」

すでにフリマも終盤を迎え、売り尽くし気味だ。

「これとかどう?」

難しそうなパズルを示される。

「ええっとですね、それは欲しい人が少なそうだからだめです。流動性が……」
「あ、そうね。じゃぁ流動性が高いのは……」

まるで銀行での会話。

「このワインスタンドは?」

これなら欲しい人がいそうである。交換してもらった。案外、一部の人にとても受けるのではないか。ワインを三本、立てることができる。

終了時間が近づいていたため、矢継ぎ早に交換してもらう。皆、持ってきた商品を手放したい。物々交換が活気づく時間帯である。

ミッキーの手帳はふくろうのぬいぐるみになる。

指輪は灰皿と交換してもらった。

ふくろうをさらに赤いチェックの子供服と交換。

午後3時、フリマは比較的早い時間に終了した。ケーブルカーの運行時間との兼ね合いである。

当初の予想を遙かに上回って、いろいろなものを手に入れることができた。

すべて藁から交換して手に入れたものである。

交換の系統樹を以下に示す。一番長いものに関しては計8回の交換が行われた。

藁 → ジグソーパズル → キッチンペーパースタンド → レモンジューサー → 2 way ジューサー → NickelodeonのTシャツ → 心理ゲームの本 → 女の子もののズボン → ワインスタンド+蝶のしおり

キッチンペーパースタンド → 台湾のキーホルダー → 指輪 → 灰皿

藁 → ミッキーの手帳 → ふくろうのぬいぐるみ → 赤いチェックの子供服

藁 → クッキー → マンガ13冊

藁 → 携帯ストラップ

藁 → ミニタオル

藁 → きらきらシール

藁 → 飴

これらの商品、現在も交換受付中である。中古の自転車を目指したい。

℃ Taro Tezuka (2007.6.28)
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