死ぬのが怖い王様の寓話

昔々、あるところに王様がおりました。

王様の王国は豊かで、欲しいものは何でも手に入りましたから、何が怖いかと言って、死ぬのが怖い。

そこで偉い学者たちを集めて研究させ、不老不死の薬を開発させました。

しばらくして学者たちがやって来て言うことには、

「この通り、不老不死の薬が完成しました。ただしこの薬、寿命が尽きて死ぬことがなくなるだけでございまして、王様が何かの事故にあわれた場合の保証はしかねます。あしからずご了承ください」

いやいや、それで充分だ。事故といっても、王宮の中にいれば問題ないだろう。王様は思う存分飲み食いし、この世の春を謳歌しました。

けれど。次第に、事故で死ぬことが怖くなってくる。

王宮の中も安全ではない。ベッドの中も安全ではない。転んだりして、頭を強くぶつけないとも限らない。そう考えると、何をしていても怖くて仕方ない。

ふたたび学者たちを呼び集め、王様の体を超人的な強さにする薬を作らせました。

しばらくして学者たちがやって来て言うことには、

「この薬を飲めば、首を絞められたり、腹を刺されたりしても、死ぬことはありません。火で燃やされたり、石臼で粉々にされない限り、どんな事故でも大丈夫です」

そうかそうか。それは心強い。

だが。火で燃やされたらどうなるのだ。石臼で粉々にされたらどうなるのだ。

それを考えると、夜も眠れません。

王様は考えに考えて、やがて結論を出しました。

自分がふたりに増えればよい。未来の自分をふたりにしてしまおう。事故で片方が死んでも、もう片方が残ればよい。片方が死んだ時には、残った方が複製を作って、またふたりになればよい。

そこで王様は学者たちを集めて研究させ、自分の体や記憶や脳みそを複製させる装置を作らせました。

複製といっても、まったく同じ王様がふたり出来るわけですから、どちらかがコピーでどちらかが本物ということはありません。むしろ、王様が、ふたつの肉体に分かれるといった感じです。ふたつの肉体は、どちらも元の王様の続きです。

長い時間をかけて装置が完成し、複製機に入っていく時、王様は「ふぅ」と一息つきました。

自分がふたつになるということで、とても安心したのです。これで、片方が事故で死んでも、もう片方が残るのです。

数秒後、王様はふたりになりました。

数秒前の王様が望んだ通りになりました。

ですが。

元の王様にとってはどちらも未来の自分なのですが、複製後のふたりにとっては、もう一方は他人です。自分ではありません。そいつが生き残っても、嬉しくとも何ともありません。嬉しいのは、複製前の王様だけです。

複製前の王様も頭は悪くはありませんでしたから、そこまでは予想していていました。

分かれた後のふたりが争って、無駄に片方の体が殺されてしまわないよう、王国をふたつにわけてあります。片方が戦争をしかけ、もう片方がやられてしまうことが無いように、核ミサイルを均等に分けておきました。どちらかが攻撃したら、両方とも死んでしまいます。おかげで戦争はおきません。

けれどふたりの王様にとって一番の問題は、王国が半分になって悔しいことよりも、自分の体がひとつしかないことです。

この体が事故にあったとしたら、もう一方の王様は残りますが、それは自分ではない他人です。他人が残っても、ちっとも嬉しいことはありません。そう考えると、事故で死ぬのが怖くて仕方ありません。

どうしたらいいのか。

そこで片方の王様は、最初と同じ複製技術を使って、自分をふたつに分けました。
もう一方の王様も、最初と同じ複製技術を使って、自分をふたつに分けました。
それぞれ「ふぅ」と言いながら、機械に入って行きました。

王様が、4人になりました。

一番初めの王様は、自分が4人に増えて、さぞ満足でしょう。

ですが。4人とも。自分以外の3人は、他人です。

やがて、ひとりの王様が自分をふたつに分けました。他の王様もそれに続きました。結局、王様は8人になりました。

それが繰り返され・・・。

はじめの王様の王国は、無数の王様たちの、小さな小さな国々に分けられてしまいました。そんなに小さくては、食べる物もありません。多くの王様が飢えて動けなくなってしまいました。

残った王様たちも、それ以上の複製は止めることにしました。

そして、事故で死ぬことに怯えながら暮らしましたとさ。

おしまい。

(2002.3.3)
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