【報告】
脳波を自分でコントロールするための装置、BrainMasterでゲーム

友人Yが脳波の計測装置を買った。

BrainMasterといって、アメリカでADD(注意力障害)の治療に使われている装置らしい。

20万円したそうだ。

さすが、元会社経営者は金の使いっぷりが違う。

アメリカではADDの治療がかなり一般的に行われているようで、そのための装置が何社からか発売されている。
ADDの患者は注意力が散漫であり、ひとつのことに集中できない。
治療方法はいろいろ考えられているようだが、今回Yが購入した装置は患者に自分の脳波を見せることで、
集中できている状態へ意識を向ける訓練をするという仕組み。
ニューロフィードバックといって、ひとむかし前に流行した手法らしい。

我々はおそらくADDではないが、自己の脳波の限界に挑戦するため、今回の実験を企画した。

実験はYの自宅で行うことになった。
車で駅まで迎えに来てくれたY。頭をバリカンで刈って坊主にしている。

「電極を付けやすくするためやで」とのこと。

かなり気合いが入っている。

アメリカから海を越えて送られてきた段ボール箱には、ソフトウェア・説明書・ビデオ・電極・それを貼り付けるための糊・頭皮を剥がすための砂入りのジェル、などなどが入っている。
説明書はものすごく分厚いが、とりあえず付属のビデオを見ることにする。

ビデオの中で、髭を蓄えた中年のおじさんが4才くらいの子供に、

「さぁ、飛行機がぐんぐん上にあがるように意識してごらん!」

などと指導している。脳波の特定の成分が増えると飛行機が上がるようになっている。
脳で直接コントロールするゲーム。
まさに未来のゲームである。

ADDの子供たちは、ゲームを通して自分たちの脳波をコントロールすることを憶えることができる。

さっそく、我々も準備に取りかかった。

BrainMasterはWindows上で動くシステムである。インストールは簡単。
画面にたくさんのウィンドウが立ち上がった。

あとは頭に電極をたくさん繋ぐだけ。

脳波計測の世界では頭皮上には電極を付ける場所というのが決まっていて、それぞれに名前が付いている。
頭頂はCZ。CはCenterのCである。その左右にC3やC4といったポイントがある。
前頭部はF、後頭部はP、側頭部はTという略号で表されていて、それぞれに3つずつくらい付ける場所がある。
正確な場所を同定するのがなかなか難しいので、マークを付けた帽子というのもある。

脳の機能には局在性があるため、
電極をどこに付けるかによって、取得される情報が異なるのである。
我々が購入した装置はADDの治療が目的なので、
運動野・感覚野が存在する頭頂葉に付けるようにと推奨されている。
別の場所に付けたら別の情報が取れるのかも知れないが、とりあえずその指示に従う。

砂入りジェルを頭頂につけ、ごりごりこすって表皮をはがした上で、
導電性ジェルを塗った電極を頭皮にくっつける。

ケーブルでノートPCに繋げ、解析を開始した。

それらしき画面が立ち上がった。
グラフがたくさん揺れ動いている。
異なる周波数成分ごとに、その量が表示されている。
僕の脳から漏れ出た情報がノートPCに送られているのだ。

波長の短いものから順に、δ波、θ波、β波、…、と名前が付けられている。
特に、β波がlow beta, beta, high betaという三つに分かれている。
説明ビデオではlow betaのことを特にSensory Motor Rhythmという名称で呼んでいて、
その量を増やすことを重要視しているらしい。
ADDと関連の深い脳波なのだろう。

各成分に対して目標値を設定し、それに向けて増やしたり減らしたりすることで、
トレーニングを行うことができる。

ゲームの画面では、飛行機の高さや地面の高さを特定の成分と結びつけ、
欲しいものが増え、要らないものが減った時に、飛行機が高く飛ぶようになっている。

僕の飛行機はうまく飛ばない。
目標値を高く設定しすぎたのか、脳波が少なすぎるのか。
脳波が少ないとどういう問題があるのかよく分からない。

Nintendo DSの「右脳を鍛えるゲーム」というのを渡された。

「これで実験してみ」

最近、中高年の間ですごく流行しているゲームらしい。
電子手帳のようなパッドにペンで入力し、暗算していく。

計算している時は、たしかに全体的に振幅が大きくなっている。

これならたしかに脳は鍛えられているかも知れない。

また、僕の場合、メモを書いていいる時の活性化ぶりはすごい。
頭を使っているのだ。

Yが突然、僕の目の前で手をぱんと叩いた。

その瞬間、少し大きな波が出た。
脳もびっくりしている。

いろいろ試しているうちに、脳波の量を大きく増やす要因がひとつ見つかった。
目を動かすと、δ波がたくさん出るのである。
さらに、顔の筋肉を大きく動かした時は、あらゆる成分が多く増加する。
筋電だろうか。
あるいは、運動野の一次運動ニューロンから出ている脳波か。

意識の集中と関連する脳波を取るためには、なるたけ体を動かさない状態で実験を行わなくてはならないということだ。
メモを取った時に脳波が多く出たのも、それが原因だったのかも知れない。

大学で認知科学を研究している友人から以前聞いた話によると、
こんな安価な装置では実験は行えないとのこと。
だが、全体的な傾向くらいは読み取れるのではないかというのが我々の楽観的な見方である。

今回の実験、自分たちの脳波を見るだけにとどまらない。

友人Yは最近、クリーブ・バクスターさんという人が書いた
「植物は気づいている」という本にはまっていて、植物と通信できると本気で信じている。

その本の中で主張されている植物との会話をどうしても試してみたいという。
それが脳波計測装置を買ったひとつの理由らしい。

バクスターさんは元々は嘘発見機の専門家で、
FBIの捜査官に研修を行うほどの有名人だったそうだが、
ある日、何を思ったか嘘発見器をオフィスにあった観葉植物のドラセナにつなげてみたところ、
まるで実験者の心に応えているかのように針が震え、
こちらの動作に応じて電位が変化したという。

その後、バクスターさんはヨーグルトにも電極を繋ぎ、
微生物との通信にも成功したという。

その本にえらく感銘を受けたY、ぜひ追実験をしてみたいという。

ホームセンターまで出かけて買ってきたドラセナをBrainMasterに繋ぐ。

脳などあるわけないのだが、はたして脳波が取れるのだろうか。

反応は、無し。

ドラセナの葉を火で燃やしたり包丁で刺したりして通信を試みたが、それでも反応はない。

ところが面白いことに、植木鉢に水をやった途端、電位が大きく変化したのである。

あまりにもはっきりとした変化に、僕もちょっと驚く。
水を吸い上げたことによって、内部での周期的生理現象に変化が生じたのだろうか。

夕食の後、蓄積された結果を見てみると、時折、グラフがぴんと立ち上がる時がある。
データを解析して、その時刻を調べるY。

「一時間前ゆうたら……。俺らが部屋に戻ってきた時や!」

興奮したように言う。

「反応しとる、しとる」

植物と会話できることを確信して、おおいに喜ぶY。

その晩はドラセナに電極を付けたまま就寝した。

翌朝、一晩かけて蓄積された結果をグラフ化して、Yは声を上げる。

「見てみぃ。こんなに反応が出とるで」

たしかに、ある時刻を区切りとして、すべての成分が増加している。

さらに夜中にも一度だけ、謎の低周波成分が出ている。

原因は分からない。地震でもあったのか。

その後、ネットで調べてみたところ、植物に水をやった途端に電位が変化するのは、よく知られている現象のようである。
愛知万博でもそういう展示があったらしい。

植物の健康状態を計測装置でモニターするくらいのことは、将来的には行われるのだろうか。

℃ Taro Tezuka 2006.3.31
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