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メイド喫茶で読書会
大阪や京都でメイド喫茶を何軒か訪ねたが、いずれも普通の喫茶店にメイドさんを置いたという感じで、あまり満足のいくものではなかった。 やはり、メイドカフェの神髄に触れるためには、本場秋葉原まで行かなくてはなるまいと思い、東京に住む友人たちに声をかけた。 僕は常々喫茶店で読書することを最大の楽しみのひとつとしているので、 単純に、他の人たちがどんな本を読んでいるのかも知りたい。 秋葉原駅の電気街口で待ち合わせ。 小関は大学の頃の知り合いであり、今は東京で働いている。 ただよしは高校の頃からの友人で、ソフトウェア工学の研究室を修了し、現在はプログラマーとして働いている。 サコも同じ高校の出身で、学年はひとつ下なのだが、最初は出版系の会社に就職し、今はコンサル系の会社にいるとか。 C嬢は小関のネット上での知り合いであり、僕とは初対面。 玄米嬢とは京都にいる頃、おいしいものを食べに行く会で知り合ったのだが、 全般的に、今日の参加者はプログラミング系が多い。 そして僕の祖父、ぶうじい。 そして二十一世紀。 「祖父のぶうじいです。今、いくつになるんだっけ?」 今も現役で神田で働いている。仕事が保険の代理店なので、定年がないのである。 中央通りから神田明神通りへ、電器店のまばゆいネオンの間を抜けて、通りに面した細いビルにたどり着いた。 今回訪問するのは、メイドカフェ業界では有名な店という「@ほ〜むカフェ(あっとほーむかふぇ)」。 秋葉原通の高校時代の友人から教えてもらった。 ビルの七階にあるのだが、六階は同じ@ほ〜むカフェのオリジナルグッズの専門店らしい。 五階も同じ系列の店で、「女中茶房」という看板が出ている。和風のメイドカフェなのだろう。 エレベータで七階まで上がった。 「すみません、今、満席なので、こちらにお並びいただけますか」 白地のシャツの上に茶色の上着とスカート。 噂には聞いていたが、喫茶店で並ばされるというのがすごい。 「交代制なんで、そのうち空くと思いますよ」と小関が言うので、待つことにする。 入り口のガラス戸の上に、ポスターやイベント告知やらがべたべた貼られている。 入店者への注意書きがあった。 ・メイドさんに触らないようにしてください。 などなど。 シフトを聞かないでください、というのがかなり具体的で笑える。 写真撮影は、店の前でも中でも禁止。 店の外の階段に列を作って並びながら、僕は祖父にしみじみと言ってみる。 「どう、この日本のだらけた姿」 ふたたびメイドさんが出てきて、「ご主人様、お嬢様、もうしばらくお待ちください!」と、かわいらしい声で言う。 「でも、昭和の初期にも、女中さんのいるカフェとかあったのかな。『カフェー』とかいう」 女中じゃなくて、女給だった。 話しているうちに、他の客も集まってきて、列はさらに長くなった。 いよいよ入店。店に入るなり、メイドさんたちが声を張り上げる。 「おかえりなさいませ!」「おかえりなさいませ!」 黄色い声で歓迎してくれる。 そのまま奥のテーブル席に通される。 店内はそれほど広くない。30人も入ったら満席という感じ。 内装は案外普通である。 だが、奥にカウンターとステージがある。 見た感じ、カウンターにはひとりで来ている人も多い。 一方、テーブル席の方は、我々のように、興味で来ている人間が多いような気がする。 メニューは普通の喫茶店とあまり変わらないが、 さらに、オリジナルのBGMが流れている。 ♪おかえりなさい、ご主人様〜 というフレーズが意識下に顕在化される。 テーブルの上に金色のチャイムが置かれていて、これを鳴らしてメイドさんを呼ぶのだが、なかなか緊張する。 「インドネシアに赴任した商社マンの家族とか、家に女中さんがいるらしいんだけど、奥さんは今まで女中をつかったことが無かったりするから、苦労するらしい」 チャイムの音を聞きつけて、メイドさんが飛んできた。 そのメイドさんは非常に物腰柔らかく、好感度の高い人であった。 客のひとりがステージに立って、メイドさんと並んでポーズを撮り始めた。 カウンターに座った別の客は、メイドさんと「黒ひげ危機一発」(樽にナイフを差していくうちに海賊が飛び出るおもちゃ)で遊んでいる。 ウェブ制作の会社を経営しているyuko嬢が遅れてやってきた。 さらにしばらくして、大学のゼミが長引いて遅れたというAz嬢もやってくる。 ぶうじいが言う。 「最近思うのはね、一期一会ですよ」とぶうじい。「地球に数十億人の人がいるけど、実際に会って話せるのは数百人でしょ。だから、ひとつひとつの出会いを大切にしなくちゃいけないって思ってね」 メイドさんが料理を持ってきた。小関にオムライスを差し出しつつ、 「オムライスです! ケチャップで『萌え』と書いてあります!」 と、鼻に掛かった声で言う。 「ちょっと、トイレ行ってくるわ」 何に緊張したのか、ただよしがトイレに行く。 「こちらのご主人様は……」 と、かわいらしく首を傾げる。 「ちょっとトイレに行ってるみたいですね」 その場でメイドさんが注いでくれるというのがひとつのポイントらしく、ポットを持ったまま帰っていった。 メイドさんが言ったセリフを小関が面白がって言う。 「ご主人様がたくさんいるっていうのも、変な感じですね」 メイドさんたちは客に呼ばれるたびに店内を走りまわり、大変そうである。 「メイドさんの声、かなり独特ですよね」 「秋葉原なんて、メイドカフェができるまでは女の子ひとりでこれる場所じゃなかったですよ」とyuko嬢。 ずいぶん毒舌家な皆さんである。 メイド姿の女の子がたくさん歩きまわることにより、コスプレの人も増えてきて、 今回の集まりの本来の趣旨は「メイドカフェで読書会」であったため、それぞれ持ってきてもらった本を見せてもらう。 今読んでいる本か、お気に入りの本を持ってきてもらうようにお願いしている。 小関は「ドルードル」という文庫サイズの本を持ってきていた。 「これ、手塚さん好きそうかなと思って」 各ページに大きく図形的な絵が示されていて、その横にユーモアのある説明が書かれている。 ぶうじいは「昭和史」という白い表紙のハードカバーを持ってきていた。 ただよしはMBA(経営学修士)に関する本を持ってきていた。「いろんな意味で使えるかも知れないと思って」 そしてさらに、自分が最近、Java Press に書いた記事も持ってきてくれていた。 サコは中上健司の「岬」を持ってきていた。今、読んでいるところだという。これで妹系カフェだったりしたら誤解を招く。 Az嬢のお奨めは、オーストラリアで博打によって生計を立てている著者による「無境界家族」という本。 C嬢は読書会向けの本は持ってきていなかったが、たまたま鞄にオライリーの Flash Hacks が入っていた。 「そのオライリーの何々Hacksのシリーズで、最近出た……」と僕が言うと、 ただよしと小関が賛同し、「買おうと思ってるんです」と言う。 「こうやって片手と机の両方を同時に叩かれるというのを続けた上で、机の方だけを急に強く叩かれると、手も痛く感じるという」小関が説明する。「これとか、面白いですよね」 先日、イギリスのエディンバラに行った際、カメラ・オブスキュラという百年前からある観光施設を訪ねたのだが、 「お台場の日本科学未来館の五階にもそんな展示がたくさんありますよ」と小関。 「手塚さんと昔、催眠術研究会にも関わってましたよね」と小関。 僕が持ってきたたくさんの本の中に、ダニエル・デネットの「解明される意識」というのがあったため、紹介する。 「この人、もともとは進化論とか論じていた人なんだけど、意識の流れに関しても同じようなモデルが適用できないかというのを議論していて。『自分』という意識は実は脳の中にいくつも並列で存在していて、その中で役に立つ意識、適応した意識だけが生き残っていくという考え方で」 僕はその他にもいろいろ本を持ってきていたのだが、 みなさん面白いと言ってくれたが、儀礼上そう言った可能性もあり、実際どう思ってもらえたのかよく分からなかった。 これは僕の人生で一番印象に残っているショートストーリーのひとつである。 照明が落とされ、ミラーボールが回り始めた。 じゃんけんの手を出す前に振り付けがあるらしく、ステージに立って実演してくれる。 「まずは両手を合わせて輪を作ります。これが@ほ〜むカフェの、@のマークです」 オリジナル振り付け。 「さらに、こうやって猫耳を作りながら、掛け声は、『萌え、萌え』です!」 「萌え! 萌え!」 客たちが練習する。 「それじゃ、行きますよ!」 我々も童心に返った気持ちで猫耳を作り、『萌え、萌え』とポーズを取る。 「じゃんけんぽん!」 yuko嬢だけ予選を勝ち抜き、決勝でステージに立ったのだが、あえなく他の客に敗れて、すごすご帰ってきた。 店は90分交代制である。やがてメイドさんが来て、丁寧に僕らを追い出そうとする。 「そろそろおでかけの時間です」 名残惜しみつつ、店を出た。 読書会と言いつつ、お喋りばかりしていて、自分の好きな本を紹介するだけの会になってしまった。 熱烈に多弁な面々の中にあって、玄米嬢は自分の本を出すタイミングを逃してしまっていた。 「若い人と話せて面白かったよ」とぶうじいが気前よく全員分の代金をおごってくれた。 もう一軒、別のメイド喫茶に行こうかとも思ったが、その時点ですでに21:45になっていて、 「この前、ゼミでPodCastingの普及策を考えるというのがあって」とAz嬢。 「こうやって画面上に女の子の映像が表示されて。『光香、お散歩行きたいな』。街を歩いてる時に、『あー、光香、カフェオレ飲みたいなー』とか言って、『それじゃ、飲むか。カフェオレ、二杯ください』とか」 プログラムのくせに、すごい主体的な女の子であるところがポイントか。 「そういうのって、男性が持っていても違和感ないけど、女性が持っていたらすごく奇妙な感じしますよね。なぜだろう」というのが僕の疑問。 yuko嬢の弟は妹系カフェにはまっているらしい。 「妹系カフェならいいですけど、お姉さん系カフェにはまっていたりしたら、姉としては気持ち悪くないですか?」 僕には妹がいるので、僕が妹系カフェにはまったりしたら、妹としてはすごく気持ち悪いのではないかと思う。 「妹がいる人は妹系カフェにはまらないんですよ」と小関。 「付き人カフェとか、どうですか。力士が付き添ってくれるの」と、相撲ファンのサコ。 「教授カフェとか」と小関。 生粋の東京人は本当に「ひ」と「し」の区別ができないのだなと、ちょっと感心した。 その他、「こんなカフェがあったらいい」という夢を語り、議論は深夜まで及んだ。 ℃ Taro Tezuka 2006.6.17
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