ダンパの舞台裏
9月16日更新

以前、大学構内で男の子と女の子の出会いをセットアップするビジネスに取り組んでいる人に出会ったことがある。 かつて理学部で重力の研究をしていたというその人、生協の食堂で手当たり次第学生に声を掛け、 お見合いをセットアップし、紹介料5000円をもらうという仕事。 非常に地道な方法で、あんなので儲かっているのか、他人事ながら心配であった。

だが、男と女を出会わせて金を稼ぐ方法は他にも存在する。 生協食堂での地道な紹介と違って、一回で100万単位の金が動くこともある。 イベントサークル主催のダンパがそれだ。

音響設備の備わった会場を貸し切って、100人から1000人くらいが集まるパーティーを開く。

場内の盛りあがり
場内の盛りあがり
純粋に踊るために、あるいは雰囲気を楽しむために来ている客もいないことはないだろうが、 学生サークルが主催するダンパの場合、客のほとんどは異性と知り合うことを目的にして来ていると思われる。

ダンパこそは、男と女を知り合わせるために生み出された、最大かつ最強のシステムである。

僕にとって身近な分野というわけでは無いが、イベントサークルを主催している友人に話を 聞く機会を得たため、今回はこの「ダンパ業界」について記事を書いてみることにした。

イベントサークルの活動はコンパの主催からツアーの企画まで多岐に及ぶが、ここでは ダンパだけを取り上げることにする。

そもそもダンパを一回やると、どれだけのお金が動くのか。三条の喫茶店にてイベントサークル 「ミリ(仮称)」を主催している友人S君とY君、その後輩のI君に集まってもらい、 一番気になるところから聞いてみた。

「チケット一枚1000円と計算しても、うちらの場合、 一回で1000人くらい客が来るから、100万円。 さらに会場でビンゴ代として1000円ずつ集めるから、 それも100万。だいたい一晩で200万の金が動く」 とY君が答える。

「だけど、全部が俺らの手に入るわけじゃない。 チケット代1000円というのは末端での価格。 卸される時は700円くらいだから、実質、 上が手にするのは70万。ビンゴ代は全部、 上が回収するから、合計170万。 ここからハコ代(会場代)70万を引いた 100万が俺らの収入ってとこかな。 これを幹部3人か4人で割る。 俺の前回の収入は40万くらいだった」 S君が付け加えた。

「チケットも、1000円というのは最低価格。 3000円くらいで買うアホもたまにいるから、 その分は末端の取り分になる」
二人から見て後輩にあたるI君もコメントする。

幹部の取り分が異常に多いことに、 僕は呆れる。

S君
S君
「といっても、俺らのところは、かなり良心的。 バック制といって、売れた分だけ納めさせるシステム。 他では買い取り制を採っているところもある。 これだと、最初から末端に大量のチケットを買い取らせる。 たくさん売れたら末端の儲け、売れなかったら 負担は末端が被る」

「バック制にも何種類かあって、俺のとこは チケットの通し番号ですべて管理してるけど、 自己申告のとこもある」

すでに一つの商売である。 彼らはいわばダンパシステムの経営者だ。

どうやってこの“業界”に入ったかを聞くと、 なかなか面白い答えが帰ってきた。

Y君の場合、はじめ友達に連れられて ダンパに参加し、スタッフルームに 可愛い子がいるのを見て、自分もやろうと 決めたそうだ。そして自分でビラを作って 学校に貼った。どうやって始めたら いいのかわからないから、とりあえず 「もうじきダンパやります」とだけ書かれた ビラを貼った。

そしたら数日後、「コマル(仮称)」 というイベントサークルの代表をしている Mさんという人から電話がかかってきて、 「協力してもらえないか」と頼まれたそうだ。

Y君に言わせると、協力というのは 真っ赤な嘘で、Mさんには利用されただけ。 15万円分のチケットを友人と二人で買い取らされ、 必死で売る羽目になったという。 しかしY君とその友人は「血尿が出るほど」 努力して売ったため、20万円ほどの 黒字を上げたそうだ。

しかし、Mさんにしてみれば、 Y君に声をかけるだけで15万円の収入。 これは自分も幹部になるしかないと思った Y君は自らサークルを立ち上げ、 現在に至っている。

S君の方は、もう少し上手に立ち回った。 はじめ、地元の滋賀県でダンパを2回開催。 しかし収益は、1回目がほぼゼロで、 2回目は赤字。このままでは やっていけないと思ったS君は、 自ら「コマル」のMさんの所に赴き、 しばらくの間、末端として働いた。 その後Y君とともに「ミリ」を立ち上げ、 今日に至る。

I君も変わった経歴の持ち主だ。 サークルでコンパを開こうと思って 大学構内にビラを貼り出したところ、 なぜかS君から電話がかかってきた。 「俺らのサークルに加盟して欲しい」 と頼まれ、加盟したが、実際は 大量のチケットを売りさばくことに なっただけ。

このように、ダンパを主催するサークルが 別の弱小サークルを使ってチケットを大量に 売らせることを、業界用語で「かます」 と呼ぶ。

「上に立つ人間は、自分が働いちゃダメ。 下っ端に働かせ、自分は偉そうな顔をしているだけ というのが、成功の秘訣」と、Y君は主張する。

S君は他にも沢山のサークルをかましていたが、 たまたまI君と「人間の波長が合った」ため、 「ミリ」の幹部を引き継いでもらうことに したそうだ。

会場入口にて
会場入口にて
「仲良くならなかったら、一生かましつづけてたよ」 とはS君の弁。

なんともシビアな世界だが、実際、サークル間の もめごとも絶えないらしい。

もめごとの原因第一位は、意外なことに お金の問題ではなく、「キャッチ」と呼ばれる行為。 他のサークルが主催するイベントに参加し、 スタッフをスカウトすること。あるいは客を 自分たちのイベントに誘うこと。

これを行なったことがバレると、ダンパ終了後、 夜中の2時であれ3時であれ、「お話し合い」になる。 お金で解決することもあれば、二度とダンパを 開かないと誓わされて返されることもある。 それだけ人材は大切ということだろう。

つづいて、女の子を巡るトラブルも多い。 他の男の女といい関係になってしまうと、 流血沙汰になることもあるとか。

特殊なトラブルとしては、チケットの販売を巡って もめたことがあるそうだ。「ミリ」の配下の (すなわち「ミリ」にかまされている)「マッタン(仮称)」 というサークルが京都駅でチケットを販売していたところ、 大阪の「ゴネンパイ(仮称)」というサークルがやってきて、 「京都駅は俺らのテリトリーだ」と主張され、 「マッタン」のメンバーはボコられてしまった。 その上「ミリ」のS君に対し、「おまえら、次のイベント、やめろ」 という電話がかかってきた。

ところがS君もしたたかなもので、 「五条署から事情聴取された」というデマを 業界内に流したところ、数日後、「ゴネンパイ」の幹部から 「今回のところは許してやる。ポリには余計なこと言うな」 という電話がかかってきたそうだ。

関西には自分たちでダンパを開けるような大きな イベントサークルが100以上あるという。 複雑なのは、前述の「ミリ」と「マッタン」の関係のように、 大きなサークルの配下に小さなサークルが 付いているようなケースが最近増えてきたことだ。

これは、誰もが「何々というサークルの代表」を名乗りたい ために生じた現象だという。

ゲームも行なわれる
ステージではゲームも行なわれる
これだけサークルの数が多いと、収益もピンからキリまで。 毎月1回のダンパで200万以上の金を動かすサークルもあれば、 常にトントンでやっているところもある。 かっこよく見られたいという理由でやっている サークルも多く、その場合、収益を上げることは 目的ではない。

月の売り上げ200万といったら、小さな商店にも匹敵するだろう。 学生の頃からこれだけの金を動かした彼らは、 卒業後はどのような方向に進むのだろうか。

S君とY君の先輩にあたる「コマル」のMさんに 言わせると、「学生時代にダンパやってて、その後出世 した奴なんて、聞いたことないぞ」と、ずいぶん 寂しいコメント。

実際、S君もY君も、ダンパでの経験が将来の 成功に繋がるとは考えていない。イベントサークル 経験者の将来については、かなり悲観的だ。

「この業界は虚構とハッタリで動いてる社会。 見栄と自惚れで1ミリのものが1キロに見えてる。 自分たちはすごいと思い込んでるけど、業界の外に 出たら何の取り柄も無い、無能な人間。その上、 ずっとラクして来てるものだから、 努力する気力も失っている」

「卒業後はフリーターになる人が多いよ。 それでダンパにも顔出したりして、 後輩に煙たがられてる」

「普通は3回生から4回生になる時に サークルの代表を後輩に譲るけど、そこで やめられないと、人生が狂う」

踏んだり蹴ったりである。

S君Y君I君はどうするつもりなのか。

「ダンパなんて、どんなに頑張っても 1回につき40万円が収益の限度。 そろそろ別産業に移行したい。 俺の中に焦りがある」とS君。

「イベントサークルに関わることで、 面白い友人がたくさん出来た。 一緒に業界にいると、仲が悪くなる一方だから、 そろそろ足を洗おうかと思う」とY君。

「俺はもうちょっと業界で頑張ってみる」 というI君は、まだ大学1回生である。

Y君(左側)
Y君(左側)
ひとりひとりに、ダンパをやってきて 楽しかったこと、学んだことを聞いてみる。

S君「虚構の権力とハッタリで、食えないはずの女が食えた」

Y君「人生経験のひとつとして捉えたい。楽しかった」

I君「友達の大切さを再認識できたことが、よかったと思う」

それぞれ得たもの、学んだものは違う。 しかし、巨額の金と数々の欲望が蠢く ダンパという場を舞台に、一日一日を 真剣に生きているというところは同じ。

将来のことは知らない。 それでも彼らが今、面白い体験を していることは確かだと思う。

毒がある一方で、情にも厚い。 とても人間臭い生き方をしている彼らが羨ましくもあった。

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